零れ落ちるもの | ナノ


 朱に染まる愛 


空も遊具もあざやかな赤に染められる中、公園のベンチで兄さんから借りた本のページをめくる。
ようやく読み終わった物語のあとは気の抜けた作者のあとがきが綴られていて、あとがきに入る前にほぅと一息つく。さすが兄さんが読むだけあって難しい内容だったけどちゃんと読み切れた。

「ただいま」

あとがき部分に影が落ちる。
顔を上げると雅くんが来ていた。

「待ったか?」
「いえ、本を読んでいたのでそんなには」

本をしまって隣に並ぶと指を絡めるように優しく手をつないだ。
雅くんの機嫌が悪いときは緊張するけど今日はとても機嫌がいいみたい。指先から伝わるぬくもりに意識しちゃって手を握り直すと雅くんは確かめるようにぎゅっと握ってくれた。嬉しくて恥ずかしくて視線は交わらない。でも体温を感じるこの距離感が心地いい。


「…ん、」
「どうしました?」

ふと立ち止まり一瞬後ろをチラリと見た。
何かあるのかと私も振り向こうとしたら、遮るように唇をうばわれた。道の真ん中と言うことも忘れ雅くんの優しい口付けにふわふわと酔わされる。ちゅ、と最後にリップ音がして顔が離れた。

「結衣」

腕を引かれ私たちはまた歩き出す。
今の私の顔は空を染めあげる夕焼けと同じ色をしてる思う。雅くんをうかがうとやっぱり上機嫌みたいで口元が緩んでいた。それと銀髪が夕陽に照らされキラキラしてる。見惚れるくらいに綺麗。


「結衣、デートせんか?」
「え?」
「デートじゃ。したことないじゃろ」
「は、はい」

小さく頷く。こうやって一緒に帰ったり寄り道したりはよくしてる。学校帰りにお互いの家に行くこともあった。でもそう言えばどこかに出掛けることはなかった。雅くんは部活で忙しいし私は所謂お家デートと言うので十分楽しかったし特に気にしてなかったから。
でも…誘ってくれるなら行きたい。

「デート、したいです」
「なら決まりじゃの」
「でもいいんですか?部活とか…」

土曜日も日曜日も練習があるからテニス部の休みは滅多にない。兄さんが何も言ってないし明日も普通に9時から部活があるはず。


「まぁ、サボるぜよ」
「ええ!?いいんですか?」
「構わんよ。結衣との時間が作れるんなら」
「雅くん…」

胸がきゅんっと熱くなる。
きっとサボったら兄さんや部長さんから罰として大変な練習をさせられると思う。でも、そんなことどうってことないって言うようにニンマリと笑っている。私との時間を作ってくれる。嬉しい、すごく嬉しい。なんて幸せなんだろう。
雅くんはたまに怖くなるけど、それは私を好きでいてくれるからであって全然嫌じゃない。痛いのは…嫌だけど。我慢できるもの。好きという気持ちの伝え方はたくさんあって、雅くんはそれだったというだけ。


「雅くん…大好きです」
「俺も愛しとるよ、結衣」


この時間がずっと続きますように…


朱に染まる愛
 (まるでこの夕陽のように)


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