零れ落ちるもの | ナノ


 愛情過多 


私こと瀬戸結衣は幸せなんだと思います。
いきなりなお話ですが、私はそれなりに裕福なお家の一人っ子なので特に苦労もなく蝶よ花よと愛されました。悪意とは無縁な生活をしていたので私も怒りや恨みのような感情は一切無くいつも笑い家族だけではなく大勢の親戚にも優しくしてもらっていました。「子供の笑顔は宝だ」もう亡くなった曾祖父の言葉は今も残ってます。

小学校でもそれなりに人気がありました。クラスの中心ではないけれど、仲のいい人達はたくさんいました。中学でも友達がたくさんいて男子からも何度か告白を受けたこともあります。女子に冷やかされる時はあるけど、やっぱり喧嘩や嫌な噂もなく楽しく過ごした。本当に自分でも疑問に思うほど幸せに。


転機が訪れたのはつい2ヶ月前。
曾祖母の葬儀が終わった直後でまだ忙しかった頃、父さん母さんがアメリカに行かなければならなくなったことです。私は一人でもやれると言ったんですがまだ中学生と言うことで一時親戚の家でお世話になると決まりました。それが真田家です。
最初は不安だったけど転校してよかったと思ってます。真田家も優しくて温かく迎えてくれました。
それに……

「好いとうよ結衣」

私を心から愛してくれる人に出会えた。雅くんと一緒にいると心がほわほわ温かくなってドキドキして幸せに包まれる。私も雅くんが好き。
本当に大好き なんですけど…


雅くん、最近ちょっと変わった気がします。いいえちょっとじゃない。目つきや雰囲気が付き合った当初よりずっと変わった。剣呑な雰囲気と言うか…正直怖くなってしまった。
例えば、今日も……

「あ、結衣ちゃん私もその漫画持ってる!」
「これ面白いですよね」
「うんうん!他のシリーズもいいんだよ」

教室で最近話すようになった人と漫画の話をしていた時です。実はあまり漫画は読まないしこれも他の人から借りたものだったんですが、漫画を持ってるとその話題で友達を作りやすいと言うのは本当だったんですね。その人とこの漫画の面白いところやシリーズ化してるという話をしてると何人かの同じ本を知る人が集まってきました。あっという間に5人の人と友達になれて嬉しい。

「瀬戸が漫画なんて意外だよな」
「そうですか?」
「俺純文学とか読んでると思ってた」

確かに純文学は読みますけど……何人かの女子の方を見ると漫画読むイメージではないよねと言われてしまった。

「で、でも!漫画好きです!面白いし絵も綺麗ですし…」
「結衣ちゃん慌てすぎ〜」
「俺オススメのあるんだけどさ…読む?」
「読みたいです!」

慌てて頷くと彼は照れ笑いして周りの女の子はそんな彼を軽く小突いた。
このクラスに来て2ヶ月ちょっと。まだ話したことない人や名前と顔が一致しない人もいるけど…きっとこのクラスでも楽しくやっていける。

「私が先にシリーズ物貸すんだからね!」
「じゃあその次でいいか?」
「はいっ ぜひ…「結衣」

私を呼ぶ声に反射的に振り向けば教室の入口に銀髪を揺らした雅くんがいました。思わず頬が緩み「雅くん」と私も応える。みんなには悪いけど会話を抜けて駆け寄ると目が細められた。愛おしいと言うように目を細める雅くんが好き。でもその瞳に冷たさがあり首を傾げる。どうしたんでしょう雅くん。

「…こっちじゃ」
「どうしたんですか?」

あと少しでチャイムが鳴るのに雅くんに手を引かれ使われてない空き教室に連れ込まれました。途端体を回転されて後ろからぎゅっと抱き締められる。どうしました?と回された腕を撫でても雅くんは何も言わない。カーテンを閉められた空き教室は暗くてとても静か。雅くんの体温を背中で感じてどうしたんだろうと首を傾げていると授業が始まるチャイムが鳴ってしまいました。放しては…くれないでしょうね。

「…さっきの奴とは話すんじゃなか」
「え?」
「本がどうこう言ってた男じゃ」

ぎゅうと腕が強まる。私の首に巻きついていたから首が絞まり苦しい。でもきっとわざとではない。腕を軽く叩いて苦しいと主張しても気付いてないのかどんどん力を強めてくる。ダメ、男の人の力にはかなわなくて引きはがせない。

「結衣、男と話すな」
「苦し…よ 」
「ムカつくんじゃ愉しそうに話しとると」
「…っぁ、…」

一瞬強い目眩がして雅くんの方に倒れ込む。床に倒れることはなかったけど構わず首を締め付けてくる。息を吸おうにもひゅっと喉がなるだけで酸欠状態。頭がくらくらしてきて雅くんの囁き声だけが反響する。

「可愛い結衣…俺だけといればええ」
「…ま さ」
「約束出来るか?」

耳元の優しすぎる声が響く中、駄目だよと思う。頷くのは簡単だけど隣の席の人も男子だから話すなっていうのは難しい。話さない方が迷惑にもなります。迷っているとあの男はサッカー部じゃったなと聞こえた。

「約束出来んなら─────」
「…!」

こひゅっと喉がなる。
私は慌てて何度も頷いて雅くんと約束した。男子と話したりしないって。安心したのかこぼれる息と共に「結衣はいい子じゃの」と囁かれた。
最後に聞こえたのはその言葉で、腕が緩んだと同時に私の意識はぶつんと途切れてしまった。


愛情過多
 (私は幸せですか?)
 (アイツを殺すかのぅ)


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