零れ落ちるもの | ナノ


 変わりゆく恋 


俺と結衣の関係は良好だ。
今までの取っ替え引っ替えとは違い本当に結衣を愛しとるし周囲の反応も悪くない。まだ告白しとくる輩はおるがうまく追い払ってるし、結衣もいじめやらの被害はないらしい。ファンクラブの制裁は一番危惧していたことやから正直安心しちょる。

けど一つ厄介なことがあった。結衣が悪いんじゃなかよ?結衣は全部いいもんで構成されちょるんだから。

…結衣は真田の従妹だ。
ただの遠縁の従兄妹同士らしいが、大人しくて行儀のいい結衣を気に入ったらしくやたら過保護に世話を焼いてる。本人も「一人っ子なので兄が出来たようで嬉しい」と言っとるし……彼氏としては気に食わん。正直、邪魔じゃ。頭が恐ろしく堅いアイツのせいで学校でイチャイチャ出来んわデートも門限のせいでいつも遊び足らんわ…。
俺は真田弦一郎のことは嫌いで、部活以外死んでも関わりたくないタイプじゃがきっと真田も同じなんじゃろ。だから俺と付き合うのを反対しとるし悪影響やれ非行に走りそうやれ変な心配ばっかして邪魔する。何が「俺は結衣の兄だからな」じゃ。他人のくせして。ムカつく。


「雅くん?」
「んー」
「今怖い顔してました」
「……そうかのぉ」

表情が陰った結衣を自分の腕の中に抱き締めて首もとにすり寄るとくすぐったそうに笑うのがわかる。良かった、結衣は笑顔が一番じゃからずっと笑ってて欲しい。
その思いで頬にキスをすると案の定真っ赤。
可愛いのぉ。

「もぅ…部室ですから駄目ですよ」
「誰もおらんからいいんじゃよ」

逃げようとする結衣をロッカーに追い詰めて触れるだけのキスをたくさんする。額、頬、瞼、唇、首。首もとにした時の小さく震える声に満足して離すと結衣はちょっとむすーんとしとる。可愛い。

「もしかして…昨日兄さんに追い出されたから機嫌悪いんですか?」
「…………」

いや、追い出された云々の前に真田自身嫌いなんじゃがの。でも嫌なことを思い出した。
昨日は結衣を家まで送るとCDを返すと言われ部屋まで入ったんじゃ。畳の部屋は物が少なく女子としては寂しい気もしたが優しい結衣の香りがした。そこでなんとなーく話したい気分になって30分くらい居座っとったら…真田が来たんじゃ。展開は読めるじゃろ?何故仁王がいる!から始まりこんな時間にや親には言ったのか、果てにはみだりに女子の部屋に入るなと釘をさされ真田家から追い出された。あー駄目じゃームカつく。

「雅くん…」
「真田は嫌いじゃ」
「兄さんはただ…」
「結衣との時間を邪魔する奴は死ね」

本音が出てしまいマズいと感じるが吐き出した爽快感に次々と真田の愚痴が零れてしまう。
結衣が酷く悲しい顔をしとるのに。

「雅、くん…」

そんなこと言わないで…そう言いとうとう泣き出してしまった。まるで自分が言われたかのように傷付いて悲しんでいる。正直結衣が泣くのは初めてじゃから戸惑う。頬を伝いしとどと制服の裾を濡らす涙。それはどんなものよりも綺麗で…

本当に、綺麗で。

「ご、ごめんなさい…涙止まらなくなっちゃった…」
「…………結衣」

思わず顎を指ですくい上げ頬に舌を這わせた。涙をなめ目尻に口付ける。それで結衣は涙が止まったようでパチクリ俺を見上げていた。まだ潤んでいる瞳に喉が鳴る。

「ま、雅くん?」
「…もう泣きなさんな。悪口はもう言わん」
「…はい」

ふわりと微笑まれ俺は安心して離れた。
何故か、結衣の泣き顔が胸にこびりついてる。



変わりゆく恋
 (泣き顔が愛おしい)


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