零れ落ちるもの | ナノ


 幸せな恋 


結衣は可愛い。

初めて見たときから俺が一目惚れするほどに可憐で愛くるしかった。真っ直ぐ伸びた触りたいほどにサラサラな黒髪、パッチリ二重の黒曜石のような瞳、薄い可愛らしい唇、見つめるたび染まる頬。
いや、容姿だけじゃなか。性格も非の打ち所ない優しく大人しいいい子なんじゃ。今でも最初の言葉を覚えている。俺が練習中に手のひらを擦りむき、ブンちゃんに追い払われるように水道で血を洗い流しちょる時、ふと拭くものも何も持ってきてないことに気付いた。傷口からは血がにじんでいるのに。

「良かったらこれ、使って下さい」

差し出された菫色のハンカチ。いつの間にか隣にいた、一回りも二回りも小さい彼女はふわり笑った。見惚れてたからか咄嗟に言葉が出なかった俺にハンカチを握らせて微笑んで去っていく。名前を聞いてないことを悔やんだが、奇しくも俺たちはすぐ再会した。

「初めまして。瀬戸結衣と言います」

部室へ帰ると彼女はいて、両親の都合で従兄である真田の家で世話になっていると話していた。俺と目が合うと「あっ」と小さく呟き笑う。それはハンカチをくれた時の優しい微笑みとは違いまた会えて嬉しいといったような笑顔。

その瞬間結衣を好きになった。
いや、愛しちょる。

もう欲しくて欲しくてたまらない。結衣こそが最愛だと思った。俺は結衣を愛すために生まれて結衣は俺を愛すために生まれたんじゃ。今まで何人も女を抱いたが思い返せばごみ屑のような奴ばっかり。何であんな下等なものに触れたんか分からん。あの頃の俺はきっと可笑しかったんじゃ。もし過去に戻れるとしたら今の俺にはこんな素晴らしい天使が存在することを教えちゃる。ホントに愛しい可愛い。

それからは決められた物語の如く全てとんとん拍子でいった。ブンちゃんや赤也も惚れてるはずだったがすでに面識のある俺らは真っ先に仲良くなれた。ハンカチを返したり怪我を心配してくれたり、それはもう他の奴らと違うステージに立ってる気がして優越感がある。よく話すようになってからはメルアドを交換したしクラスにもふらり遊びにいけ、一緒に出掛けたりもした。告白は俺からじゃ。頃合いを見て好きだと伝えれば顔を真っ赤にして二つ返事で返ってきた。結衣を見続けてきっとOKしてくれるだろうと予想してたが本当に嬉しかった。産まれてきてよかったと感謝するくらいに。
部活の奴らも先を越されたとど突かれたけど祝ってくれた。何でも俺がここまで人に執着したり愛したりするとは思ってなかったらしい。確かに今までとっかえひっかえじゃったからのぅ。


「雅くん」
「ん?」
「ふふっ 何でもないです」
「なんじゃー」

手をつないで帰る夕暮れ道。
結衣の歩幅に合わせてゆっくりするのは幸せな時間。ふと見下ろすと結衣の横顔に夕陽がさし余計に綺麗に見えた。

「結衣」
「何ですか?」
「好いとうよ」

頬を手のひらでつつみちゅ、と触れるだけのキスをする。夕陽に染まった頬をさらに赤くさせ、熱い瞳で見つめられる。誘惑されるってこういうことを言うんじゃな。どこぞの少女漫画である"相手の目を見れば恋しているか分かる"が最近よく理解できた。幸せに細められた目が俺を愛していると教えてくれる。

「結衣」

誘われるように俺達はまた口付けた。



幸せな恋
 (仁王雅治の純愛)


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