零れ落ちるもの | ナノ


 這い寄る友愛 


「みんな連れてきたよ」
「こ、こんにちは…」

部室の中にはいると全員が私を注目した。その中にはもちろん雅くんと兄さんもいて聞いていない、というように大きく目を見開いていた。ごめんなさい2人とも…勝手に決めてしまって。でも2人の関係が悪くなったなら彼女で妹の私が仲を取り持ちやすいから。きっと役に立つだろうから。

「ぶちょー!その人ッスか!?」
「ああ、マネージャーになる子だよ」
「瀬戸結衣です。よろしくお願いします」

頭を下げると暖かい微笑みと「よろしくお願いします」と優しい声をかけてくれた。皆さんは何度かお会いしてるので顔も分かるしきっとすぐ仲良くなれると思う。でも…、

「聞いとらんぜよ幸村」
「そうだ幸村。副部長である俺に言わずに…」
「柳に相談したしいいじゃん?」
「全員の意見をだな」

雅くんと兄さんは私がマネージャーをするのに反対らしい。食ってかかるように幸村くんに言ってるが当の本人はいつも通りの笑顔でかわしている。すごい。ぼんやり3人のやり取りを見ていると制服の裾を引っ張られた。可愛いくせっ毛の2年生…ええっと切原赤也くんだっけ。悪戯っぽく笑う笑顔がとっても可愛い後輩。

「先輩って仁王先輩の彼女っすよね」
「うん…どうして?」
「仁王先輩の携帯画面、先輩の寝顔だったんで」
「え!いつの間に…」
「超愛されてるっすね!」

気恥ずかしくなりながら頷いた。
雅くんはまだ幸村くんと話してるけどそれは私のことを心配してくれてるんだろう。雅くんは優しいから。見つめていると視線に気づいたのかこちらを向き苦笑しながら私の頭をぽんぽんと撫でた。

「ビックリしたぜよ」
「マネージャーになって駄目ですか?」
「あーあー上目使いで見つめなさんな。…駄目とは言っとらんき」
「本当?よかった…」


ホッと肩を撫で下ろすと柳くんが「ならば決定だな」と言い幸村くんが「マネ業の手ほどきは柳に頼んだよ」と爽やかに言い、なにか言おうとしてた兄さんを引きずって外に行った。兄さんを引きずる…幸村くんて見かけによらずすごい力持ちなんですね…。

「待て参謀、マネ業なら俺でも教えられる」
「いや俺がするのが妥当だろう」
「俺が結衣に手とり足とり教えるんじゃ」
「…コミュニケーションの一環でもある」
「コミュニケーション?はっ そんなモンいらん──」

雅くんは私を強く抱き寄せると頭のてっぺんにキスを落とした。

「結衣に悪い虫がつくじゃろ」

見せつけるように頬にもされる。
みんなが見てるのに─── そう思うと顔が燃えるように熱くなった。

「まっ雅くん!」
「…と結衣が怒るからやっぱ参謀に任せるかの」

愛しちょるよ結衣と耳元で囁き足早に雅くんも外に行ってしまった。
顔を真っ赤にしてると切原くんや丸井くんに冷やかされ、そして柳生さん達とともに外へ行く。部室には私と柳くんだけが残った。

「では始めるか」
「はい!お願いします」

メモを取り出し仕事の説明を受ける。
柳くんは優しい。説明はゆっくり丁寧に教えてくれるし、私がメモをしてる時は書き終わるのを待っててくれる。そしてなにより感心したのは柳くんの観察力。

「次はドリンクについてだ。最初は分量通りでいいが仕事に慣れてきたらこれの通りに作ってもらいたい」
「これ…皆分量が違う?」
「そうだ」

柳くんのノートには個人によって違う分量が書かれていた。端の補足には皆の味覚の好みや体質、運動量、発汗量など細かく記されてる。これ全部柳くんが分析して作ったなんて…

正直テニス部の人たちは一癖も二癖もある人ばかりなのに、ここまで詳細なのはすごい。


「慣れてきたらって…?」
「他にも仕事は多くある。慣れないうちは手が回らなくなるだろう。他の仕事が手早くこなせてからで構わない」

そして私のことも考えていてくれる。何かもう、今日は柳くんに尊敬しっぱなしだ。
メモが終わると洗濯機が洗い終わったと鳴った。部室の洗濯機は私物を入れてるときもあるらしい。誰のかを教えてもらいながら二人で畳んでいると、最後の一枚、見覚えのある雅くんのタオルがあった。

手を伸ばすと── 手が重なった。

柳くんの手だ。少し冷たい柳くんが私の手の上に重なっている。けどそれは一瞬で、すぐ私の手の甲を撫でるようにして離れていった。

「すまない」
「い、いえ……」

気まずい、気恥ずかしい時間が流れる。
赤くなった顔を伏せているとタイミング良くみんなが戻ってきた。どこか安心しながら雅くんのもとへ行く。

「参謀に何もされんかったか?」
「何だ仁王その質問は」
「そうですよ雅くん。見てくださいメモ帳がお仕事内容でびっしり」
「ほーすごいのぉ」

10枚ほどびっしり書かれたメモ帳を一瞥して、私の右手を捕まえた。いつも通りの笑みを浮かべながら手の甲を強く擦った


「………。」


気がする。



這い寄る友愛
 (もう少し観察する必要があるな…)


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