零れ落ちるもの | ナノ


 さざめく愛 


まだ少し気分が悪い。
デートから二日経ったけどじんと腰は痛む。それに痛みを感じると雅くんとした行為を思い出して顔が熱くなってしまう。…初めてだった。驚いた。怖いと思った。昨日と今日、雅くんからの連絡はなにもない。いつもは一時間おきに何をしているのか聞いてきたり、おはようやおやすみメールをしてくるのに…ちょっと不安になってしまう。朝は一緒に登校したのにね。

授業の終わりを知らせる鐘が鳴り我に返る。今日も授業に集中出来なかった…

「結衣ちゃん顔色悪いよ?大丈夫?」
「何ともないよ、大丈夫」
「そう?でも掃除やっとくよ!」
「ありがとう…」

掃除場所は反対校舎の美術室だから助かった。階段の上り下りは腰が辛くて大変だったし、私は優しさに甘えることにした。
友達がはしゃぎながら部活や掃除に行くのを見てゆっくり帰り仕度をする。あっという間に人はいなくなり数人しか残ってない。私はこの後どうしよう…雅くんに謝って早く帰ろうかな。何となく二人きりは気まずいし、考えたいこともある。
私は本当に………


「ちょっといいかな結衣さん」
「きゃっ!」

横からの声に飛び上がる。ばくばく鳴る胸を押さえて横を見ればビックリした様子の男子。緩いウェーブのかかった、線の細い儚げなキレイな男子。

「ぷ…ごめん、驚かせたね」
「わ、私こそごめんなさい!」

笑いをこらえて謝る人はクラスメイトの幸村くんだった。そう言えば一度兄さんの部活に顔を出した時に会ったことがある。立海テニス部の部長さんでしたっけ。

「幸村くんですよね、どうしました?」
「覚えててくれたんだ。ちょっと話があるんだけどいいかな」
「大丈夫です」

良かったと幸村くんはふわりと笑った。うわ…すっごい綺麗。優しげであの強豪なテニス部の部長、女子の中で人気なのも頷ける。私の隣の席に座ると真剣な顔になった。


「単刀直入に言うね。マネージャーになって欲しい」
「テニス部の…ですか?」
「そう。実は昨日ちょっとした問題があってね」

幸村くんの話を聞くと、昨日雅くんと兄さんが喧嘩したらしい。殴り合いや罵り合いではないみたいだけど、険悪な雰囲気で部内がギスギスしているみたい。確かに雅くんも兄さんも仲が良くない。でも陰口も特になくお互い必要以上に関わらないようにしてた。そうやって部活内でも仲間としてやってきた。けど今はお互い不快感を隠そうとせず仲間にも悪影響になるそうだ。

「二人と関係がある結衣さんに頼みたいんだ。せめて部活の間仲を取り持ってもらえるかい」
「私で大丈夫でしょうか…」
「多分大丈夫。結衣さんも関わってるみたいだし」
「え?」
「大丈夫なら行こうか。仕事を教えるよ」
「は、はい!」

慌てて立つと忘れてた痛みが響いた。
大丈夫かなぁ…


* * * *


幸村くんの後を追い少し考える。
家に帰り一人でゆっくり考えようとしていたことを打ち明けます。


私は本当に…雅くんが好き?

もちろん雅くんが告白してくれて、受けた時は純粋に好きだった。でも現在好きかと聞かれると言葉に詰まってしまう。
雅くんの傍にいると楽しい。
雅くんの隣は安心する。
雅くんとずっといたい。
でも、狂気を含む言動は怖い。理性を失っているときは不安で逃げ出したいと思ってしまう。私は今、"雅くんが好きだった"から嫌でも好きになろうと努めてるのかもしれない。嫌いになる要素はある。私をたくさん愛してくれるのに、時折首を絞めたり強く引っ掻いたりするとこ。私の周りの人を平気で傷つけること。この間だって漫画を貸してくれた男子の足を事故を装って折ったとか、まことしやかに囁かれてる。
それは事実だった。証拠写真つきで雅くんは私に報告してきたから。まるで子供が母親に自慢話をするように嬉々として。

日に日に雅くんは怖くなっていく。
このままでは私は止められなくなる。
私が傷つくだけならどうにでもなるけど周りの人が傷つくのなら、雅くんと別れる事も考えなければならない。

雅くん…


「さ、ついたよ結衣さん」
「はい……」


私は彼を愛していいの?


さざめく愛
 (不安の中彼らがいる元へ)


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