零れ落ちるもの | ナノ


 ぶつかる情愛 


「………。」

これはどうしたものか。
俺こと柳蓮二が部室に入るといつもと変わった妙な空気が流れていた。気付いていない赤也や丸井は騒いでいるが精市は…気付いているようだな。テニス雑誌を読んでいるが口角が1.5mm上がり雰囲気を楽しんでいるようだ。

「精市」
「ああ、生徒会お疲れ柳」
「これはどういう状態だ?」
「さぁ?自分で調べたら」

ニヤリと笑い雑誌に視線をおろした。
ふむ、確かにそうだな。俺も精市の隣に座り部室内を見る。赤也と丸井とジャッカルはお菓子を食べ柳生は本を読んでいる。仁王は携帯の音楽をイヤホンで聞いていて、弦一郎は怒りを含んだ目つきで仁王を睨んでいる。あまりに静かな覇気で本人には気付いていないようだが…

「あー!仁王先輩それ誰ッスか!?」
「見るんじゃなか」
「どうしたんだよ赤也」
「待ち受けが女子の寝顔でした!」
「マジ!?」

赤也の発言で二人が携帯に手を伸ばした。仁王もやんわりと抵抗するが興味津々の二人には負けたのかあっさり丸井に携帯を取られ…弦一郎を見下すように笑った。前言撤回、仁王は弦一郎の視線に気付いていたようだ。視線がかち合った瞬間冷たい空気が流れる。それにしても、多くの女と付き合い飽きればすぐ捨てていた仁王が女子の寝顔を待ち受けにするとは驚きだ。
赤也たちはまだ携帯を見て騒いでいる。

「あぁ真田の従妹だろぃ?」
「可愛いじゃろ」
「めっちゃ可愛い寝顔っす!」
「二ヶ月か、珍しく続いてんなー」
「ブンちゃん酷いナリ…」

仁王の彼女は精市と同じクラスの瀬戸結衣か。ああ、確か先月転校してきた者で、弦一郎の家で世話になっていると聞いたな。
3年A組27番 瀬戸結衣。身長155センチ痩せ型。日本人形のような美しい黒髪に控え目な性格で男女ともに人気がある。よく外のベンチで読書しているらしい。部活は未所属。仁王も含め悪い噂は聞いていないから虐め等は受けていないだろう。確かに二ヶ月前に2人が付き合い始めたとは聞いたが今も続いていたとは…。

「この先輩とデート何回しました?」
「ちゃんとしたデートは昨日が初めてじゃな」
「へーじゃあ手出してないのか」
「仁王先輩にしては珍しいっすね!」

「いや、何もシてないとは言っとらん」


ニヤリに笑い言う仁王に、部室の空気が固まる。赤也と丸井が顔を見合わせ引きつりながら「あー…」と呟く。

「…ヤったんすか?」
「絶対無理やりだろぃ…最低」
「心外ぜよ。同意の上だった」
「嘘付け」
「まぁ最初は痛そうで泣いとったな。でも後から……」

「仁王!貴様!!」

弦一郎の怒りが爆発した。イスを後方に飛ばし仁王の胸ぐらに掴みかかったのだ。弦一郎が怒ることは珍しくない、むしろかなりの頻度で憤ることが多いがこのような激昂は俺も精市も初めて見る。雑誌を眺めながら聞いてた精市もいつの間にか視線を弦一郎に向けていた。自分のことに没頭していたメンバーも異様な雰囲気に気付いたのかやんわりと止めている。
だが、睨み合う二人は止まらないだろう。

「貴様…結衣になにをした!!」
「なにってナニじゃ」
「結衣を泣かせるなど…!」
「結衣は俺のじゃき。何があろうと俺らの勝手だ」
「結衣は貴様のものではない!俺のものだ!」
「ほう…?」

まさに一触即発。
このままでは危ないだろうと精市を見ると理解したように雑誌をパン!と閉じた。それだけで全員の視線が精市に注がれる。流石だな。

「やっぱ練習しようか」
「え!?ミーティングだけじゃないんすか!」
「皆いるからいいよね?はい、着替えて」

ジャージを手にとると皆急いで着替え始める。いまだ睨み合っていた仁王と弦一郎も「俺より遅くコート入ったら五感奪うよ」と言われると何か言いたげだったがそれぞれ動き出した。
ひとまず安心だが、現状は何も変わっていない。部内での喧嘩は全体に関わるため諫めたい。しかし問題の根元は瀬戸結衣だ。……彼女のデータを集める必要があるな。

「面白いね結衣って子」
「精市」
「遊び人の仁王と堅物の真田を惹きつけるなんてさ」
「ああ…興味深い」


仁王の彼女にして弦一郎の従兄妹
瀬戸結衣
調べあげる価値はありそうだな



ぶつかる情愛
 (と 柳蓮二の傍観)


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