蹴飛ばした青春


「…… 損な奴だよな」
「んぁ?」

ぼうっとしていたら聞き慣れたボソボソとした声が聞こえた。今日は気持ちいいカラッとした暑さで青空は澄んでるし蝉は賑やかに大合唱してるというのに、左隣の深司の湿度が高い。もう慣れてるから特に気にならないけど。水筒に口を付けるとキンキンに冷えたスポドリが喉をすうっと流れていき身体が冷えて気持ちいい。

「ここでぼさっとしてないで向こう行ったらどう?」
「えーなんで?」
「………」
「というか深司が行ってきたら」

小川に浸していた素足を蹴り上げると光が散り水面に波紋が広がる。こうやってのんびりするのも悪くないし、木の下は涼しいから動きたくない。自ら炎天下の中に出て日焼けしてまでクラスメイトと遊ぶ気にはならなかった。パシャパシャと音を立てて水を蹴り上げるがクラスの人たちは私達に声をかけるどころか気付きもしない。それは高校に入学してから私は深司以外、深司は私以外と話したことがないからだ。
別に一匹狼がいいという訳ではない。中学の時は部活もやって友達もそれなりに多かったけど…何でだろうか、高校生になってからものすごくつまらなくなってしまった。高校生になったら大人になれると思ってたのに蓋を開けてみれば義務教育とさほど変わらない教師政治に勉強部活文武両道。いい大学のためにを謳って面倒なことばかり。

この時間も何なんだ。生徒たちが決めたLHRで河原に遊びに行くって、小学生か。こんなんなら教室で本を読んでたほうがよっぽど有意義だよ。

「……アホらしいよな」

今のつぶやきは伊武深司。深司も高校に入り私と同じことを思ったらしくお互い冷めた者同士隣り合ってしまった。格段仲がいいわけでもないけど同じ中学だったという繋がりがこのようにさせたんだと思う。それに五月蝿くない彼とのこの距離感は居心地良い。

「ねー深司」
「ん」
「やっぱ何でもない」
「……何だよそうやって人のことおちょくって楽しいのかよ。性格悪いやつ」
「あはは」

冷えた足を水からだし深司の隣に座る。濡れたままの足には砂利が付いてしまうけど、そんなもの乾いてからほろえばいい。私のこと見てるのは深司だけだしいいでしょ。涼しい木陰ではさわさわと気持ちいい葉音が聞こえ、五月蝿いクラスメイトの声が遠くなり落ち着く。クラスメイトがいなくなったらもっといい環境なのにね。

「……名前は俺といて楽しいのかよ」
「まぁまぁ楽しい」
「……そう」

それだけで黙ってしまった。

「深司は日向に出なくていいの?」
「……俺はいい」
「そっか。なら私も遠慮しとく」

青春を満喫しているクラスメイトを見ながら私は笑った。日陰バンザイ!
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