少年少女青春中


前より上手くなった化粧、細くなった体、お洒落な服を見ると全部あいつのためかと小さくため息が出る。でも苦じゃないのはとっくに恋に溺れてる証拠だ。

私はまた眠らない街へ行く。


「比呂士」

名前を呼んで彼の座るベンチに近づくと携帯から目を離してそっと笑う。あの日の非行から私たちは連絡を取り合って夜の公園で会うようになった。

「名前さん」
「今日は早いね」
「この間は待たせてしまいましたから」

隣に座ると煙草を差し出され比呂士に火をつけてもらう。今度こそ!と意気込んで紫煙を吸い込んだが思い切りむせてしまって背中をさすられた。私は比呂士と会うたびに吸うからもう何度目のチャレンジか分からないけど未だ慣れない。苦くて肺にいっぱい入ってくる感じに耐えられない。

「名前さんは無理かと」
「うう…生意気な…」

比呂士は目を細めて私の背中をさする。
と言うか、連絡を交換したときに分かったんだけど比呂士は年下なんだよね。私が高校2年で比呂士は中学3年。雰囲気からして同じくらいだと思ってたからその時は本当に驚いた。中学3年にして煙草を覚えていい人悪い人の使い分けが上手くて高校2年に諭せる。世渡り上手のレベルじゃない、いい人ぶってるが比呂士は相当なワルである。
今日も煙草を諦めた私は後ろのゴミ箱に放り投げる。微かに笑った気配がして比呂士を睨むと涼しげに夜空を見上げていた。

「月が綺麗ですね」
「ん…」

細い三日月がぼんやり浮かんでいた。東京は空気が悪いからこれぐらいの細さだと月でも霞むし星なんて所々しか見えない。その寂しさは、私たちの距離感に似ていた。ただの非行仲間なのか彼氏彼女なのかはよく分からない。あまりにも比呂士が優しいからあやふやな関係。こんな近くにいるのに触れられないし知っているようであまりお互いを知らない。なんてもどかしい。

「ねぇ比呂…「名前さん」

言葉を遮られた。
うん?と隣を見ると比呂士は立ち上がる。

「ちょっと遠くに行きませんか?」
「へ?」
「星を見に行きましょう」

え、いやいやいや!手を取られて公園の外へと歩く中慌てて時計を見ると9時近くをさしている。あの日の非行から絶対9時半には帰るようにとキツく言われたのに、遠くに行くって何どこに行くの。星なんて興味ない。文句を言ってみるが無視され比呂士はバイクの前で止まった。…バイク?

「バイク!?」
「ええ、これで行きましょう」
「不良だ…」
「今更ですよ」

少し大きなヘルメットを被せられ後ろに乗るように言われる。これ捕まったりしないだろうか。比呂士は大人っぽい顔付きだからバレないことを願う。少し不安になりながら比呂士の背中にくっ付くとエンジンが夜気を震わせた。
……手慣れてるな。


* * *


一時間ほどバイクを飛ばしてようやくついた場所は街から離れた原っぱ。街灯も少なく何もないまさに自然!!って感じのところだ。
ブカブカだったメットを外して思わず草地の方にダッシュ。もちろん虫除けスプレーはしてないけど、なんか走りたくなった!比呂士なんて置いてっちゃうもんね!

「転びますよ名前さん!」
「大丈夫だって!」

バイクを止めた比呂士も慌てて追いかけてくる。なんだかそれが可笑しくって私たちはしばらく原っぱを走り回っていた。苦笑する比呂士もちゃんと追いかけてくれて、まるで漫画の青春の1ページみたい。
ようやく満足した私は息を切らして草の上に座った。「やっと止まりましたね」と頭の上にポンと手をいて比呂士も隣に座る。原っぱは騒音がなくすごく静かで夏の風がさわさわと草を撫でる。

私たちは何も言わない。この空気は嫌じゃないんだけど、会話がなくなった途端胸がざわつく。考えてしまうのはあやふやな関係。
ねぇ、比呂士。私は比呂士のこと好きだよ。比呂士はどう思ってるの?私たちって……


「私たちって付き合ってるの…?」


………あ。
正面を向いたまま体がビシリと固まる。もしかしなくとも声に出てた。頭が真っ白になっていやな汗が出てくる。やばいやばいやばい。恐る恐る隣を見ると驚きで見開いた目とばっちり合ってしまった。余計に恥ずかしくなって顔が熱い。どうしようどうしよう!

「名前さん…」
「何でもないっ!今のなし!」

答えを聞きたくなくて比呂士の声を遮る。混乱と羞恥を隠すように膝を抱えて俯く。それでも逃げるとか立つとかしないのは答えを聞きたいからなんだろう。
夏のぬるい風が頬をなでる。

「あーホラ見て、月が綺麗だね!向こうよりはっきり見える!」

声裏がえった!しかも星を見ながら月って言っちゃったし…!どんだけ混乱してるんだ自分。確かにここの空気が綺麗だからか細い三日月もよく見えるけどさ、月って。普通星だろ!
じゃなくて別の事考えないと…何か言わないと沈黙が辛い。いつもなら平気なのに。

「名前さん」
「な、なにっ」
「月が綺麗ですね」
「……へ?」

予想の斜め上の言葉に呆ける。
私の会話にのったということ?

「…という言葉を夏目漱石は使ったそうですが知っていましたか?」
「知らない…」

「夏目漱石は I love you を 月が綺麗ですね と訳したそうですよ」

再び、頬に熱が集まる。

膝を抱えたまま顔をうずめて思う。
比呂士はずるい。本当にこんなのずるい。私はずっとドキドキしてて上手いことも言えないのに比呂士は簡単に言ってのけてさらにドキドキさせてくる。本当はいつものベンチに座るときも緊張するし会話がなくなったときだって鼓動が伝わらないか不安になるくらいなのに。

「比呂士は年下なのに生意気だ…」
「おや」
「でも……月が綺麗だね」
「ええ。とても綺麗ですよ」

私は恐る恐る比呂士と手を重ねて

宵闇に浮かぶ細い三日月見つめ続けた


少年少女青春中
 (また怒られちゃうな…)
 (ではご両親に謝罪しませんとね)
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