返品不可の恋


今日クラスの女子から珍しくお菓子をもらっちまった。4時間目にあった家庭科はお菓子作りで、お菓子と言えばブン太と連想するはずがその女子は俺にカップケーキを照れながら手渡してくれたんだ。もちろんブン太の奴は山ごとくお菓子を貰い上機嫌に自慢してきたが俺はこの一つだけで十分嬉しい。俺のこと忘れてない女子もいるんだなとじんわり感傷に浸る。

けど、同時に困ってもいた。これをどうすればいいのか。今すぐ食べるか家に持ち帰るか、早いとこ片付けなきゃならねえ。だって俺には「ジャコー、何ソレ」
…こいつがいるからな。

冷めた氷のような声に振り向くと笑顔を浮かべた、けど目がまったく笑っていない名前が立っていた。

「あはは、ジャッカルそれは手作りのカップケーキに見えるけどどうしたの?何で持ってるの?それ女子から貰ったものだよね?何でジャッカルが私以外の女からお菓子貰って大事そうにしてるの?私は大好きなジャッカルのために今日も5時に起きて愛のこもったお弁当を作ってきたんだけどコレと比べたら授業でぱっぱっと作ったやっすいカップケーキなんか塵屑以下だよね。いらないよね。当たり前だよね。私はジャッカルのためにジャッカルの好きなもので栄養があって体力のつくお弁当を考えて頑張って作ったんだもん。ほら火傷までしちゃって、でもこれもジャッカルのためだと思うと嬉しくなっちゃうんだ。私の愛のこもった料理を食べてくれて栄養になって、それで今日も部活を頑張れて、テニスをする姿を私は見れる。なんて素敵な連鎖!ううん私のお弁当がなくたってジャッカルが格好良くて素敵で魅力的なのは変わらないけどね!ジャッカル、ジャコー大好きだよ。すっごい好き。ジャコーの一番が私じゃなくてもいいから私の一番はジャコーでいさせてね。ジャコーのためにだけに私は呼吸をして心臓を動かしてるの。ジャコーが私の前からいなくなったら私も死ぬ…場所的意味だったらどこまでも探しにいくけどね。ふふっ大好きジャコー。大好きすぎてジャコーにまとわりつく女すべて殺したい。ん、分かってるよジャコー。ジャコーのことなら何でも分かってる。可哀想だから殺したら駄目なんだよね。優しいなあ、そんな優しさも大好き。女に優しくしたら殺すけど。やだなあ怯えないでジャコーにはしないから。女の精神と身体をズタボロにしてもう悪い事二度と出来ないようにしてあげるくらい…かな。
……あれ、どうしてうなだれてるのジャコー」

ちょこんと名前が隣に座る。何でだか分からねえが俺は名前に好かれてしまって四六時中ストーカーされている。チラリと盗み見るとばっちり視線があって幸せそうに笑った。正直に言うと名前は黙ってれば可愛い。俺と同じでブラジルの血が混ざってて気も合うし故郷の話をするときには普通に楽しい。けどよ、それとこれは違うよな。

「まだそれ持ってるのジャコー?いらないよね。あ、ジャコーの代わりに私が捨ててきてあげるね!ぽーい!!」

可愛くラッピングされたカップケーキが俺の手から抜き取られて投げられた。弧を描いて飛んでいきフェンスの向こうに落ちていく。…はは、さすが取りにはいけねえよな。

「さっ ゴミは捨てたしお弁当にしよ」
「…………」
「今日は豚ロースのチーズ挟みだよ!」
「…………」
「ジャコー前に美味しいって言ってたもんね」
「…………」
「何でなにも言わないの…?」

ハッと我に返る。あ、いや無視してた訳じゃないんだ。ただ放心してたというか理不尽を感じてたというか…カップケーキをくれた女の子が可哀想だと思い、もう少し黙っていると名前はどんどん小さくなっていった。お弁当を抱えておどろおどろしいオーラを背負い始める。

「頑張ったのに…5時に起きたのに…食べてくれないんだ…これじゃ駄目なんだ。もっと愛がないと…これじゃ足りないんだ」
「あ、おいっ!」

止める間もなくお弁当が滑っていきコンクリートの上にぶちまけられた。色とりどりの料理が無残なことになり、空になった弁当箱がカランと無常な音を立てる。

「ごめんなさいジャコー、ごめんなさい…」
「俺も悪かった!すまねえ!」
「ううんジャコーは悪くない何も悪くないよ」

もう一つのお弁当も捨てようとするが今度は止めることが出来た。くそー俺にはこいつの扱いが分からねえよ!どうすりゃいいんだっ!

「弁当食うからよ!でもお前の分なくなるか…くそっどうすれば…」
「……食べてくれるの?」
「お、おう!」
「じゃあ二人で半分こしない!?私ジャコーにあーんてしてあげる!」
「…………」
「駄目…なんだ」
「いや…駄目じゃねえよ」

「ふふっジャコーは優しいな嬉しいな幸せだな。これからもずーっとラブラブしてようね!」


返品不可の愛
 (こいつをどうにかしてくれ…)
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