思う想いは重すぎる


――だから無駄だっていったじゃん。
結果なんて分かってるのに後押しする病なんて残酷すぎるね。


「コカロ!?」

胃がひっくり返ったような嘔吐感に身体がくの字に折れ曲がる。そのまま激しくえづき何が起きたのか自分も分からなかった。咳き込み涙が滲み背中に大きな手が添えられたけれど止まる気配がない。堪えることすら頭から抜けていて何度も咳き込み、ようやく膝や床に散らばった花に気付き戦慄した。オレンジや黄色の八重咲きの花。嗚呼、名前はなんだっけ?

「マリーゴールド…」

そうだ。これはそんな名前だった。他人事のように思考は動くのにいまだ花を生産し続ける。酸っぱい胃液と青くさい花のにおいにさらに気持ち悪くなる。ああ 汚い 汚らしい。こんなの全然綺麗じゃない。身体は異物を拒絶するように込み上げ涙と共に溢れてくる。ゲホンとさらに花を吐くとアルファロは私の背から手を離した。気味悪いよね。こんなの。

「一体なにが…」
「触らないで!!」

花に伸びた腕を咄嗟にピシャリと叩いていた。吐いた花に触れると感染するらしい。アルファロは、感染しても花なんて吐かないだろうけどね。
アルファロの驚きと困惑が浮かんだ表情にもう誤魔化しなんてきかなくて、私は花を吐きながら苦しくて虚しくて笑うしかなかった。

「マジック、なんてね 無理あるよね」

アルファロはすぐ花吐き病を知ってしまうだろうね。花を吐く原因も治療法がないことも。そしてこの感情をどうする事も出来ないが故に苦しめてしまう。それだけが嫌だったのに。ほら、そんな顔させたくないのに。告白のつもりじゃなかったけど彼が好きなのは変わらなくてまた彼を困らせる。
膝に散らばったマリーゴールドをかき集めて立ち上がる。クローゼットを開けるとゴミ袋を引きずり出しマリーゴールドを加えた。ゴミ袋には白、ピンク、青、黄色の色とりどりの名前も知らない花たちが傷み腐り大量に詰まってる。まるで吐き出した愛の成れの果てをゴミにしてるようで何度やっても虚しい行為。

「コカロ、その花は」
「ん?ただの花、なんでもないよ」
「そんな訳ないでしょう 今吐いた事も、まさかグルメ界の病気では」
「…アルファロには絶対感染しないから大丈夫」

絶対うつらせないし、うつる訳ない。
もう説明するのも億劫で、傷付きたくないし困った顔を見たくなくてアルファロを素通りする。私達ってめんどくさいね?アルファロだって嫌悪の表情からもう心配する兄の顔になってる。私だって好きなのに拒絶する。

「コカロ!医師に見せましょう」
「…見せてもどうにも出来ないよ。だから全部見なかったことにして」

さっきまでの事全部なかったことにしてほしい。私もさっきの「冗談」はなかったことにするから。
私はアルファロの手をすり抜けて部屋の扉を開いた。もうお願いだから帰って。これ以上は私にもアルファロにもどうしようも出来ない。だったら一人にしてほしい。

「明日も早いからもう帰って」
「コカロがそんな状態で帰れるわけが、」
「もーそんな気遣いいらないから…」「大丈夫」「今に始まった事じゃないし」「むしろ身体がかるいくらい」「ね?」「気にしないで」「心配しないで」「さっきはへんなこといってごめん」「もう行って」「わたし

明日になれば貴方の妹にもどるから!」



バタンと乱暴に扉を閉める。アルファロを追い出すと部屋に静寂が戻り深い深いため息がこぼれた。……。アルファロの気配はまだ扉の前から動かない。思わずノブに手が伸びる。縋りたい。自分に嫌気がさす。手は止まり一度落ちる。それでも手を伸ばし指先が触れた。

「………」

結局扉は開くことなくカチャンと鍵を掛けた。その音を合図に堰き止めていたものがまた口から溢れ出す。飽きもせず。もう止めように彼がいなければ嗚咽も花も止める理由はなかった。息が詰まり苦しさに崩れ落ちると一緒に見知らぬ花も散らばる。マリーゴールドではないピンクの花の名前はやっぱり分からなかった。

──明日になれば妹になるから

終われないマリーゴールド



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