すべてを白へと
 
季節は巡り、イタリアにも冬がくる。
施設で監禁された上にほとんどの記憶がないエルには初めての冬であり、そしてこの日は初冠雪の日でもあった。

「ルッス姐!ルッス姐大変ー!」
「どうしたのエルちゃん騒々しい」
「外が真っ白なの!これって雪!?」

寝間着のまま現れたエルが興奮気味にルッス―リアの手を引き窓からの景色を見せると、確かに色の乏しかった庭が一面銀世界へと変わっていた。その光景にあら珍しい、とルッスーリアもこぼした。近年冷たい雨や薄っすらと白くなる程度の雪はあったが一晩でここまで積もるのは珍しい気がする。
まるで初めてみた!本物の雪!と喜ぶエルのために積もったようだった。早速外に出ようとするエルを慌てて引き留め、せめて着替えてきなさいと言うと風のように飛んで部屋に戻ってしまう。

しばらくするとしっかり着ぶくれたエルと朝方任務から帰ってきたばかりのスクアーロが疲れた顔で手を引かれてやってきた。

「スク兄も遊んでくれるって!ルッス姐行こ!」
「残念だけどこれから任務なのよ。そろそろベルちゃんが戻ってくるから二人で行って来たら?」
「むぅ…じゃあまた今度ね!」

エルは不満そうに頬を膨らませたが、任務に関しては口を出さない・邪魔しないことを約束していたため大人しくスクアーロと外へと出た。
しかしその不満もすぐに忘れて銀世界と初めて踏みしめる雪の感触にきゃー!と歓声をあげ走り出した。誰も歩いていない白い領地にエルの小さな足跡が点々とつく。スクアーロはその後を任務疲れと寒さに打ち震えながらゆっくりと追った。

「あんまりはしゃぐと転ぶぞぉ」
「だいじょーぶ!スク兄も早く早く!」
「疲れてるんだから勘弁しろぉ…」
「ダメー!」

エルは駆けよるとスクアーロが肩を縮こませていたマフラーを引っぺがし、振り回しながらまた走り出した。

「う゛お゛ぉぃ!エル!」
「あの木まで競争!」
「ふざけんなァ!さみぃ!」

軽やかに地面を蹴るエルを追ってスクアーロも走り出す。足の長さも速さも違う二人ではあっという間に差を縮められ、襟首を引っ掴んだ。けれど、それに驚いたエルは後ろに引っ張られて尻もちをつき、スクアーロもつんのめって雪の上に倒れた。お互い雪に埋もれて僅かに沈黙する。

「もー!スク兄しゃっこい!」
「誰のせいだ誰の。うぅ…マジさみぃ」
「ごめんね。はいマフラー」

マフラーを返すとすでに温もりは消えてしまったようで寒い寒いと首に巻き付け、それでも立ち上がらず雪の上に腰を下ろした。それを見てエルも雪の上に寝転び寒いねぇと呟きながら灰色の空を見上げる。灰色のお空から真っ白な雪が降るなんて不思議、と思っていると、まるで応えるようにチラチラと綿菓子のようなのが降ってきた。
初めて見る雪にエルは両手を広げて落ちてくる雪を受け止めた。手の平や頬に触れて粉雪は溶けて小さな滴となる。

「――これ知ってる」
「あ?」
「とても綺麗なんだもの」エスの覚醒 記憶
「んだその理屈は…」

よく分からない言葉に見下ろすとエルが雪に溶けてしまいそうな気がした。
真っ白な雪の上に散らばる白い髪、天に伸ばされる白い手の平、真新しいコートも白く、浮かんでいるのは遠い目をした水色の瞳と火照った頬くらいだ。スクアーロは思わず手を掴まえると既に凍るほど冷たかった。このまま永遠の冬に抱かれるのではと思うほどに。

「…つめて。そろそろ戻るぞ」
「ベル兄まだお迎え出来てないよ」
「そのうち来んだろ。それより風邪引くぞ」

んーとぐずる腕を引いて立ち上がらせると震え小さなくしゃみをした。ほら風邪引くぞと氷のような手を握りながら屋敷へと向かうと、エルは名残惜しそうに雪景色を見回して、ねぇねぇと手を引いた。振り向いて姿を確認すると、やはりエルは雪に紛れるほど白く、雪の精かと見まごう。

「スク兄は神さまっていると思う?」
「あぁ?なんだ藪から棒に」
「神さまに雪を白色にしてくれてありがとうって言いたいの!世界を一色に塗り替えるなら他の色じゃいやだもの」

無垢で無邪気な笑顔にスクアーロは苦笑した。
なるほど。ならこの白さにも神とやらに感謝しなければ。
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