日が暮れスクアーロとエルは帰路に着く。スクアーロは自らの買い物と本屋の袋を持ち、エルはジュエリーショップの手提げを大切そうに抱きしめゆったりと歩む。幸せそうにはにかむ姿が今日の満足を物語っておりスクアーロも満足そうに笑った。
そんな誰もが微笑ましくなるような光景のなか、突然スクアーロの顔が曇った。
(チッ…わざわざ大通りを通ったってのによぉ)
背中がチリチリと焼けるような視線。殺意。
二人が買い物をした地区は決して治安がいいわけではないが、観光客が多い大通りを選び夜の帳が訪れる前に帰ろうとスクアーロなりに気を付けていた。だが細道からねっとりと絡む視線にただの安っぽい喧嘩ではないと悟る。これは復讐や報復のそれだ。
(こいつの前で荒事は出来ねぇな)
エルは何も気付かず腕の中の袋を見下ろしてまだ嬉しそうにしている。幸い愛用の剣はなくとも武器はいくつか忍ばせている。やれない事はない。
「あー腹減ったなぁエル。飯も食ってくか」
「夕飯はお家じゃないの?まだちょっと早いよ」
「いや猛烈に腹減って今すぐ食わねぇと駄目だ…」
弱ったフリをするとエルはわたわたと慌てだして周囲のお店を見渡した。ちょうど辺りにはレストランがいくつか並び明るいランプが輝いている。エルはその中で少しファンシーな可愛らしいお店を指だしスクアーロの服を引っ張った。
「エルもお腹空いてきた!あそこで食べたいなぁ」
「おーじゃあ先席取っててくれ」
「スク兄は?」
トイレ、と言ってちょうど通り掛かった場所を指さすと頬を膨らませて「早く来てね!」と駈け出していった。スクアーロは明るいレストランへ吸い込まれていくエルを見送り、細道へ姿を消す。その瞬間黒服の男が闇からぞろぞろと這い出てくる。街灯などない道に刃物の鈍い光だけがやけに目立つ。
早く終わらせねぇとエルが待つからなぁ。この服も汚すわけにもいかねぇ、と獲物をきらめかせた。
◇
「スク兄おそーい!こっち!」
「おぅエル……なにちゃっかり頼んでんだぁ…」
にわかに賑わってきたレストランのテーブルに向かうとすでに料理が湯気を立てて並んでやがった。もちろん俺の分も。てかこれ高いやつじゃねぇか…?値段を確認したくともすでにメニューは下げられ若干青くなる。「この後スープとパンとデザートもあるんだよー」ってまじか。伝票がない事にもうなだれるがもういいかと諦める。今日はエルのための日だ。白い頭をぽんぽんと撫でるとやはりエルは嬉しそうに笑う。
「なにかにおいするね」
「おー上手そうな匂いだな…」
「? うん美味しそう!」
じゃあ食べよ!とフォークを握ったのを見て2人は食事を始める。
明々と照らすライトの下は笑顔と談笑と料理の匂いに満ち、さきほどの細道の気配など影もなかった。[ 8/13 ]