おでかけ1
 
ジリジリと照ってきた太陽を見上げスクアーロは軽く舌打ちをした。
ピークを過ぎたとはいえイタリアの夏は厳しく日中に外出するのは億劫なほど気温が上がる。まして暗殺稼業に身を置き深夜の活動が多いスクアーロには気分を害するほどの暑さだった。もちろん、天気に負けるほど軟な鍛え方はしてない。問題なのは短気な性分だった。

久方の休暇を使ってエルを街を見せようとしたのだが、外出に気合を入れたのは乙女な心を持つルッスーリアの方で、服装や髪形を熟考し男は先に待ち合わせ場所に行くよう指示した。同じ屋敷から出て同じ場所に行くのに何でんな面倒なことすんだ、女(女じゃねぇ)の考えは分からねぇと待ち合わせ場所の時計塔を仰ぐ。
間もなく時間になるが既に10分待たされてるスクアーロには我慢の限界だった。この少年はせっかちなのだ。

「スク兄ー!お待たせ!」
「おっせぇぞ!!何分待たせんだ」
「あぅ、ルッスねぇが"レディーは男を待たせるもの"って言うから…」

本当は後5分は遅れるはずだったんだよ、と言うと銀髪の少年は憤慨する。
気が治まった頃に自分より小さい白色を見下げると首を傾げ、さらりと髪が揺れた。ポニーテールに結い上げられた髪は赤いシュシュでまとめられ、服はレース生地のカットソーにチェリーレッドのシフォンスカート。可愛らしいが観光客並みの洒落っ気だった。
服装に注目しているのに気付いたエルはくるりとその場で回ってみせる。

「かわいい?」
「おー。暑くねぇのか?」
「平気だもん」
「暑さより洒落っ気か」

歩きだしたスクアーロを追ってエルも歩き出す。夏のローマは観光客で溢れかえり、家族連れやカップル、友人同士など様々な組み合わせが通り過ぎる。スクアーロとエルの組み合わせはどう見えてるんだろうと思う。髪の色から兄妹に見えるかもな。

「スク兄、今日はどこ行くの?」
「観光じゃねぇしな。そこらのデパートでもいいか?」
「うん!どこも初めてだからしんせんだよ」

きょろきょろと周囲の外観を興奮気に見ているのは観光客と一緒だ。まずは辺りの景色を見せてジェラートを食ってからだな、とスクアーロは苦笑した。



街並みとジェラートを満喫した後少し離れた大型のデパートをを見に行く。
大した所ではないが、今はなんでも興味のあるエルは食品もファッションもアクセサリーも本も気になりくるくると回ってはスクアーロに買うか?と声をかけられる。でもどうすればいいか分からないエルは曖昧に笑って首を振った。
しかし、本屋は気に入ったのがいくつかあったらしくスクアーロが半ば押し切るように数冊の図鑑とソネット集を購入した。

「シェイクスピアなんて読めんのかぁ?」
「ルッスねぇかベル兄に読んでもらうの。ベル兄は王子で天才だから!」
「う゛ぉぉい…毒されてんぞ」
「あとはザン兄に!ザンザスもものしりなんだよ」
「ぶっ!!い、いや…ボスにシェイクスピアはやめとけ、殺されんぞ」

笑いを噛み殺そうとするが想像してしまい耐えきれず吹きだす。
肩を震わせしばらくこらえると、ふとエルの呼び方を思い出す。こいつ、一瞬クソボスのことザン兄って呼ばなかったか…?

「お前はボスの呼び方をどうにかしろ…殺されんぞ」
「エルもボスって呼んだほういい?」
「ザン兄よりはるかにいいな」

そんな事を話しながらスクアーロはある店の前で足を止めた。それにつられエルも止まるとショーケースの中に物に目を奪われた。ライトに照らされキラキラと輝く色とりどりの宝石。駆け寄ってショーケースを覗き込む姿は年相応の女の子のようだった。

「最後はここだな」
「ここ?」
「ジュエリーショップ。記念にいいだろ?」

ニッと悪戯げに笑うスクアーロも年相応の少年のようだった。
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