少しずつ変わる日常2
 
「ザンザス英語教えて!」
「他をあたれ」
「だってみんないないんだもん…」
「黙ってろ」

ぶーと口を尖らせ、仕方なく柔らかなソファーに座りお気に入りのマザーグースの本を広げる。英米人に親しまれ教養の基礎の一柱と呼ばれるマザーグースは童謡以外に子守唄やかず数えやなぞなぞがあり、エルには打ってつけ教材だった。
しばらく執務室にはペンが走る音とページをめくる音だけが響いていたが、ふとエルは手を止めて首を傾げた。さらにぺらぺらとめくり後ろの方を見ているがまた首を傾げる。本のページを再び戻すと今度はザンザスを盗み見る。

「ザンザスにもんだいです」
「……」
「As white as milk,And not milk;(ミルクのように白いけどミルクじゃない)
As green as grass,And not grass;(草のように青いけど草じゃない)
As red as blood,And not blood;(血のように赤いけど血なんかじゃない)
As black as soot,And not soot.(すすのように黒いけどすすじゃない)
――これなーんだ?」
「発音が悪い」
「ぶー!」

口を尖らせて言った言葉は不正解にも拗ねた声にも聞こえる。
エルは期待の眼差しで次の答えを待ったが、ザンザスは書類に目を向けたまま一度もエルを見ようとしない。頭の中で答えは出ているが簡単に言うほどザンザスは素直でない。カリカリと万年筆が走る音が続き、やがてエルは痺れを切らして暴れだした。

「もー時間ぎれ!正解は"きいちご"だって!」
「興味ねぇ」

もーと拗ねて本をソファーにぽんと投げると執務机を背伸びで覗きこむ。

「赤いのと黒いのは実だよね?じゃあ青と白はなぁに?草じゃないの?」
「どれも実だろ」
「青い実と白い実もあるの?」

腑に落ちないようでザンザスに絵本を見せながら赤い実ならあるよほらほらとイラストを指さしている。変わらずザンザスは見向きもしないが。
ザンザスは無視を続けていたが、いつまでも執務机の横で本を広げるエルを邪魔に思い適当に、ほんの気紛れで「なら白は花だな」と呟いた。エルはその言葉に顔を上げ興味ありげに反応した。

「きいちごにもお花があるの!?」

どんなのだろう、と興奮するエルにすかさず図鑑になら載ってることを教えると青い瞳を輝かせて執務室から飛び出して行った。目障りな白が消えると執務室は静まり返る。ザンザスはグラスを呷り、これで業務に集中出来ると安堵するのも束の間、再び廊下から子供特有の軽い足音が聞こえてきた。
そして今度はノックもなしに扉が開き図鑑を抱えたエルが入ってくる。

「おいガキ「すごい!本当にお花あるんだね!しかも白くてかわいいの」
「おい「ザンザスはたくさん言葉がわかってものしりなんだね!ねぇねぇ、

ザンザスのこともお兄ちゃんって呼んでいーい?」


どこまでも無邪気に笑う純白を、今度こそ首根っこを掴んで放り出した。


(ミルクみたいにかわいいお花)
(あれ、けっきょく緑はなんだっけ?)
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