天吹しい太は味を占めたように真田の部位を味見しだした。
両耳を噛みちぎると同じ手順で鼻をタレで炙りちょん切りムシャムシャ。舌はプライヤーで掴みだすと表面はカリッと中はレアに炙り塩をかけて味わってた。タンは美味しいよね。仙台で牛タン食べたいなぁ。
真田の悲鳴をBGMにするつもりが早々に舌を切られたせいで悲鳴が生き生きとしてないのは残念だけど、まあ顔面がより不細工になって面白いから良しとした。顔が真っ平でウケる。次は指をおやつにするようで鋭利なハサミでちょんっと切断するとそのまま口に放り込んだ。ボリボリくちゃくちゃと音だけならまあ美味しそう。生ってどうなの。ボーンインソーセージ的な?

「グエー!爪剥ぐの忘れたでヤンス!爪は不味いでヤンスよぉ〜」
「しい太 そろそろ味見は終えてメインに入りなさい」
「そうでヤンスねぇ…どう調理するか悩んでたですよ」

端っこからじわじわ食していく方法もきっと楽しいでしょうけど、残念ながら今回はさほど時間がない。しい太を急かすとそれでもおやつ用に指は確保しておきたいのか軽快にペンチで爪を剥がし、指の根本からハサミでちょん切っていく。爪を剥がされる悲鳴はバッハの旋律とか言うけど舌がないから魅力は半減ね。ふふっ でも指のない手は不格好で可愛い。もう箸もラケットも握れないわねえ。

「普段はどう調理してるの?」
「オイラは全身食べるんで最初に首落として血抜きモツ抜きするでヤンスよ〜」
「ああ それじゃあすぐ死んでつまらないもんね」
「生きたままモツ抜きします?モンゴル式なら汚れず血も活用できるでヤンスよ!」
「んーそれも面白そうね」
「それともじわじわ手足でももぎます?」
「達磨じゃ丸井と被るからなぁ」
「きはま…ッ ふんはにはにを…!」

ギシリと縄が軋み真田の目に闘志が滾る。なんだ、随分大人しく味見されてたと思ってたけど動けるんじゃん。ちょっと元気になった獲物を二人で傷口をつついて遊ぶ。もっと抵抗してくれるといいんだけど呂律が回ってないのはどうも真剣みに欠ける。この顔面でらめえなんて叫ばれても萎えるよね。拷問するのに舌抜きは論外だわ。
舌がなくなってつまんなくなった計画をしい太と練り直す。この醜い豚に相応しい調理方法を。

「手足も白ものもダメなら脳みそはどうです?」
「へぇ?どうやるの?」
「頭蓋割ってくり抜いたのを調理したり頭蓋を器にドリンクにしたり踊り食いもあるでヤンス!」
「猿脳やハンニバルってことね うんうん!脳自体は痛覚を感じないっていうしイイネ!」

可愛い賢いペットと仲良くハイタッチして準備に取り掛かる。脳みそと言われても真田はピンときてないんだろう。相変わらず目をかっぴらいて現状を把握しようとしてるのか強気でいるのか。それも脳みそを調理されながら保っていられるのか見ものね。
私は持っていたモルヒネで局所麻酔を行う。しい太は工具の中から電ノコを取り出すとこめかみから生え際に沿って切り込みを入れていく。確かハンニバル博士は額から真っすぐ鋸を入れていたけどあれじゃ構造的に上手くいかない。頭蓋骨はこめかめで骨と筋が繋がってるからね。所詮映画はフィクションってことだろう。額の真上に到達すると頭皮を剥ぎ穿頭術の要領で頭蓋骨から筋を切り離す。後はゆるくなった頭蓋をミチミチズニュッと引き剥がす。だがまだ食事にはありつけない。頭蓋骨の下には硬膜くも膜軟膜に覆われているため剥離子でまとめて引っぺがす。ああ やっと麗しい脳みそとご対面だ。あわい薄桃色の表面を鮮血が彩り青い毛細血管が美しく模様を描いている。

「はっ、ひァ、あ…あ゛ぁ…」
「真田もうグロッキーなんだけど面白くないなぁ」
「精神が脆弱な輩は困るでヤンスねぇ ホラ部長!スプーンですよぉ」

さぁ実食。銀色のスプーンを真田の前で揺らすとどんどん青ざめていく。そうこのスプーンで脳みそぐちゃぐちゃにしちゃうよ〜とからかうと逃れようと身体を揺らし始める。頭皮に痛覚はあるしなんか剥がされてるって感覚はあるからやばい状況は理解しているんだろう。もう人語は喋れないと思ったけど存外はっきりした口調で「やめ、やめんか…!」と命乞いなんて始める。まあ辞める訳もなく。無慈悲にスプーンは脳みそにつぷりと突き刺さる。硬さはわりとしっかりして木綿豆腐くらい?スプーンの形に綺麗にくり抜かれても真田は絶命することなく喃語を漏らしてる。あ、私はつついただけで食べはしないよ。

「ンン!ぷりぷりして舌の上でねっとり溶ける感じ…おいしぃ〜れす!」
「良かったわ んじゃこれはあ〜ん」
「ふッグ…!?ぅ、うぅ…!グェッ」
「夜魅様は食べないんですか?炙ったら食べられるでヤンスか?」

そんな食わず嫌いみたいな言い方。こいつの脳みそ食べたら馬鹿になるでしょ。あとどうせヤコブ病とかクール―病になると言うがしい太は気にしてないらしい。普段はちゃんとした業者から全頭検査をしたものを買ってるらしいし。
しい太は次にナイフで大きめに切り出すとバーナーで炙り、どこから出したのかポン酢香る特性タレで食す。

「ン〜!香ばしくてあつあつとろっとろ!コレステロールに悪いれす〜!」
「普通に美味しそうな匂いしてる はいあ〜ん」
「あぁ゛っ、やめ、とるな、取るな…!」
「海外じゃグレイビーソースに漬けたりパン粉でまぶしてフリッターにするらしいれす!美味しそうでヤンス!」
「お前と外国を回るのも楽しそうね この宴が終わったら行こうか?」
「はッ はっ は はッ やめ、っぎぃ!」
「嬉しいれす!アメリカとフランスと…夜魅様に拾われてハッピーでヤンス!」
「そうそうもっと私を敬いなさい あなたの神様なんだから」
「あ゛ぁーッ!しっ死ぬ!それ以上は!とるな、やめっ死、死ぬ!しっ」
「そうでヤンスよ〜」「そうだねぇ」

終始食事はなごやかに進む。天吹しい太は掃除術を扱えない落ちこぼれだったけど案外解体と調理には秀でていたようで、鮮やかな手つきで頭部を切り開き脳みそを露出させると様々に調理を施していく。
脳の残りが少なくなり穴から取り出しにくくなると砂糖を煮出したものと一緒に掻き混ぜた。ぐちゃぐちゃと。氷も投げ込んで器を傷つけぬようハンドミキサーでぎゅぃぃんとクラッシュする。本当は冷凍庫で凍らせた方がいいんだけど生なら仕方ないね。お手軽脳みそシャーベットの出来上がり!

「っ、、!… 、ッっ、、」
「とうとう言語機能が駄目になったかぁ もう聞こえもしないだろうね」
「こうなると真田先輩も可愛いれすね 壊れれば害もないなんて」
「……そうね」
「…真田先輩の理由を聞いてもいいれすか?」
「別に…他の奴とそう変わらない この顔を殴られたからよ しかもグーで」

そっちが勝手に仲間意識感じて引き込んだくせにね。まぁ真田は私に興味はなかったか。普通な女子中学生に鉄拳制裁はなかなか酷だったよ。だから殺す。絶対に赦さない。でも運動野も抉られたせいか白目をむいて痙攣しても、生命維持を司る脳幹を抉られ呼吸を引き攣らせても、ちっとも感慨がわかなかった。こんなにいたぶって壊して殺しても赦せる気にはならない。だった私はどうすればいい?次はどうすればいい?

「夜魅様」

気付けばしい太は脳みそを綺麗に平らげ見上げていた。真田はもう絶命するだろう。

「次は誰を食べればいいでヤンスか?」
「…そうね私の可愛いしい太 付いておいで」

手を差し出せば従順に重ねられた。
夜はまだ長く、殺すべき元友人たちも残されている。歓喜の祭典を楽しまなければ。


【立海大附属高校】
死者:真田弦一郎
死因:ショック死

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