無様にもがく真田の頬を撫でながら女はクスクスと楽し気に笑う。部活や日頃の稽古で鍛えられた体は見事だったが、所詮中坊が学校で頑張った程度の筋肉。縄で関節を固められた真田はロクに動くことも出来ず女にされるがままだった。

「お…お前は一体何者だ!」
「私は闇口夜魅。それだけ分かっていればいい」

夜魅は再度携帯を取り出すと数度タップし繋いだ電話に「天吹」と呼びかけた。
殺し名第六位《天吹正規庁》。殺し屋の匂宮、暗殺者の闇口、殺人鬼の零崎、死神の石凪と比べ知名度の低い「天吹」だが、それでも裏世界を支える一角。綺麗にするために殺す「掃除人」の働きは実は裏世界の中でも大きい。

「シゴトの時間よ 綺麗にしなさい」
「『もう準備出来てるでヤンスーー!!」

突然背後の襖が大きく開かれ、本体の声と携帯を通した声とで二重音声が響いた。夜魅はピシリと携帯が悲鳴をあげるほど握りしめ現れた少年──天吹しい太を睨んだ。
天吹は巨大なリュックを背負い特徴的なアイスクリームを思わせる髪型を揺らして無邪気に笑う。

「お久しぶりです夜魅様!夜魅様が"御馳走"してくれるなんて──あああ!コレが"御馳走"でヤンス!?」

天吹しい太は瞳を爛々と輝かせ真田に飛びつくとべたべたと触りだす。抵抗さえ出来ない真田は身をよじりながら不快そうに顔を歪め、少年の顔を凝視する。そして見覚えのある顔に驚く。

「お前…1年の浦山しい太か!?」
「真田部長!?あわわ…夜魅様これが"食材"でヤンスか?」
「そうよ?お前はもっと肉を食べたほうがいいからね 食べ応えがあるのを用意したわ」
「確かに硬っい筋肉でヤンス…」

真田は頭上で飛び交う理解の出来ない会話に困惑し、立海高校1年テニス部の浦山しい太――いや天吹しい太は不満そうに目の前の肉の塊を撫でて検分した。天吹しい太は大食いだが甘党なのだ。痺れを切らした夜魅は天吹の頬を撫で上げ蠱惑的に囁く。

「文句ある?お掃除も出来ず食い散らかすしか能のないお前を飼ってあげたのは誰かしら」
「夜魅様でヤンス!!調理法を考えてたっす!」

あらそう?と笑顔を浮かべると夜魅は可愛いペットの頬にリップ音を落とし、これから起きる事のため窓を開けて窓枠に座った。天吹の行動にはさほど興味がないようで再び携帯を取り出す。だがその前に思い出したように顔を上げてニッコリ微笑んだ。

「うふふ、今回はゲスト回よ。ずっと私だと飽きるだろうから♪」
「夜魅様誰に言ってます?」
「さぁサクサクいきましょ。夜明けまでに後半分残ってるんだから」

天吹しい太は返事をすると巨大なリュックサックからいくつかの中身を真田の前に並べた。千枚通し、バーナー、工具、甘い匂いのする瓶に真田は目を白黒させている。…まだ展開が読めてないのか。つくづく虐めがいのある男だ。
天吹しい太は真田に馬乗りになると「味見をしやす」と手をわさわさ動かしている。思い出したかのように振り返り「口に何か詰めます?」と聞くが夜魅は悲鳴をBGMにするからそのままでと携帯から目を離さず手を払った。

「は、お前も連続殺人事件の共犯者か…!?」
「違うでヤンス!でも解体と料理は得意なんで安心するです部長!」

小さな手に握られた千枚通しが目の前に迫り、真田は慌てて口を開くが何を言うにももう遅い。握られた千枚通しは真田の耳に勢いよく突き刺さった。鋭い痛みに悲鳴を上げる間もなくブツブツと音を立てて耳全体にまんべんなく穴を開けていく。時折穴を拡張しようと先端を突き刺したままぐりぐりと円をかくとぐぎぃぃと奇妙な声がもれた。

「次はタレをかけるでヤンス〜」

甘い匂いのする瓶を開けるとハケを使ってタレを塗りこむ。るんるんと陽気に穴にまでしっかり染み渡らせると今度はバーナーを持ちあげ、目瞑るヤンスと言い強火で耳を炙っていく。するとタレのおかげか香ばしい匂いが部屋に立ち込めてきた。和室に響く野太い悲鳴と食欲のそそる匂いはなんともミスマッチだ。
天吹しい太は香ばしいにおいに涎をすすると「いただきます!」と行儀良く手を合わせた。食材には感謝しなければいけない。これは夜魅の教えだった。特にこれなど両親が15年も手塩にかけて大切に育てたものなのだから。美味しく育てた生産者にも感謝の意を示す。そして、天吹しい太は合わせた手を離すとすぐさま真田の耳へかぶりついた。顔を傾け犬歯を柔らかな肉に突き立て食い千切る。所詮厚さ数ミリの肉は簡単に噛み切られくっちゃくっちゃと口の中に納まった。

「ぐあぁぁぁあ!!」
「ん!部長なかなかの味でヤンス」
「それはよかったわ たまには活きが良いのも食べないとね」
「貴様…きさまら…ッ!」

どんなに野太い声ですごんでこようがちっとも怖くない。私達は両親に感謝しないとねと笑い合った。

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