時刻は23:30。仁王雅治は居間に移動し電気を付ける。足元や手元を用心深く確認し戸棚周辺を探し始めたが、なにか音がした気がして振り向く。深夜の静寂に気のせいかと思うと、プツンとテレビが付き――

「続いて明日の天気予報です!小林さん!」
「ぐ!?」

衝撃のような爆音に耳を塞ぐ。
一瞬耳と共に目も閉じ、次にリモコンを探そうと目を開けると銀色が、「ぎゃああああああああああああああ!!!!」

「あれぇクリーンヒット?私っては運がいい」

ひょことテレビの後ろから姿を現した夜魅はご丁寧に耳栓を押さえたまま笑う。騒音をまき散らす片方のテレビをコンセントを抜いて黙らせ、もう一方の悲鳴という騒音を響かせる仁王雅治に近づいた。転げまわる床には血が付着しており、目を押さえる指の隙間には銀色の棒が飛び出ていた。
夜魅は割りばしとハンガーと平ゴムを用いて作った即席クロスボウを片手に、酷く痛々し気に仁王を見下ろした。口元を押さえ涙を浮かべる顔はヒロインのよう。

「いたそ…ごめんね、刺さるとは思ってなくて…今抜いてあげる」

暴れる仁王の腹を踏みつけ、眼球に突き刺さった鉄箸を引き抜く。箸は適当に放ると労わるように仁王の頭を撫でつけた。

「キャハハハッ!こんなオモチャが効くなんて笑える!やばい、涙出てきた」
「ご、のッ クソアマ゛…」
「口悪いなぁ その口も縫、!」

ひやりとしたものが脹脛に当たり咄嗟に足を引く。だが反応に後れたせいでカシュンという音と共に小さな痛みが走った。夜魅の顔から笑みが消え失せ、見下ろすと歪んだ笑みを浮かべる仁王雅治。その手にはネイルガンが握られていた。痛みの走った脹脛には刺さりはしなかったが掠った証拠として細い赤い線が残されている。


「…あは。やってくれたね仁王雅治。本当に、何度も何度も痕残してくれちゃって。殺さないと、あんた達全員殺さないと、赦さない赦さない赦さない赦さない」
「ぐ!、う゛!」

夜魅はうわごとを呟きながら何度も何度も足を振り下ろす。その度ブーツは仁王の腹に沈み、防ごうとするも尋常じゃない力に骨が軋む。力が入らない上に感覚が鈍い。仁王は残りの時間が少ないことを悟った。それでも、女をこれほど動揺させ傷を残せたのなら上出来だろうと口端を歪ませる。
腹部への衝撃がなくなったことに気付くと夜魅は少し移動し近くの赤い物を仁王の頭の横にドンと乱暴に落とす。

「殺さないと…奇野の毒なんて待ってられないわ…苦しめないと…」

それはどこの家庭にもある一般的な消火器。

「この街も、学校も、全て清算しないと終われない…ッ!」
「ング!?」

明らかに正気でない夜魅は安全栓を引き抜きノズルを仁王の口に突っ込み、レバーを握った。途端薬剤が噴射され仁王の口の中が真っ白になる。くぐもった悲鳴は薬剤に押し返され全てを飲み込む。口内の薬剤は食道から胃へ、気管から肺へ、鼻からはあふれ出し、喉奥の咽頭から耳管と中耳を通り耳からもたれ、涙小管を通って目頭からもあふれ出てくる。特に眼球は薬剤で真っ白になり今にも飛び出さんばかりに圧迫されていた。
ちなみに、加圧式の消火器はすべて噴射しなければ止まらない。約3.0s 放射時間15秒をかけて消火器を空にする頃には全てが真っ白になっていた。


「はぁ…予定がめちゃくちゃ……」

奇野に詫びを入れないと、と夜魅はため息を吐く。本来ならば1時間かけて身体をどろどろに溶かすという毒を使い仁王雅治を毒殺するつもりがこんな形になってしまった。おまけに服まで白く汚れ舌打ちをする。どうせ染まるなら血の方が美しいというのに。

「……ま、いっか。消火器で死ぬなんて世界死刑大全集の来年度版の隅に掲載されるくらいの事は出来たんじゃないかしら?うふふっ切り替えていきましょ!」

今度はどの服に着替えましょうと夜魅は上機嫌に立ち上がる。白粉を巻き上げ居間から出ようとして、あぁと思い出して振り返る。

「解毒剤は弟くんのお腹の中だよ。膨らんでるから一目瞭然だったのに、家族より我が身を優先した仁王くんの負けだね」

じゃあ今度こそさようなら。
残された仁王は肌以上に、髪以上に、白く白く漂白されそれになりに美しかった。


【立海大附属高校】
死者:仁王雅治
原因:窒息死

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