SNSの中でテニス部が楽しげに会話を繰り広げている最中、ジャッカル・桑原は湯船につかっていた。
部活で汗をかいた後のお風呂はさっぱりして最高だ、と思うが彼らは今自宅でのんびり過ごしているだけなので汗一つかいていなかった。しかし入らない訳にもいかないのでいつも通り、日常的に入浴する。

「…いつ学校に行けるかな…」

呟く独り言は反響し蒸気にまぎれ消えてゆく。
学校側から提示された「立海生の緊急自宅待機」他校の生徒が殺人鬼だかに殺されての措置だとは柳から聞いているが、それがいつ解除されるかは分からない。犯人が捕まるまでどのくらいかかるのかも分からない。

「…頭、洗うか」

ざぱりと音をたて湯船から上がりシャワーを浴びる。ここで質問だ。
髪を洗っているとき、背筋がひやりとしたことはないだろうか?目を瞑っているとき、目の前に不確かな気配を感じたことはないだろうか?怖い番組を見た夜にそんな妄想をする人もいるだろう。ジャッカル桑原もこの瞬間そんな幻想を抱いた。怖い番組も怖い話もしていないのに、確かに感じた。

背筋を掠めるつめたさ
目を閉じても感じる不確かな気配

そしてそれは─── 実在 した。

「あ…?」

自分の親父の頭があった。


「ああっ!?」
「じゃじゃーん! ビックリした?」
「な…!?」

正確にはゴスロリに身を包んだ女が、切断した親父の首を持っていた──ということなのだが。あまりにも唐突。あまりにも不自然。意味の分からなさに呆然としてしまった。

「こんばんはぁ桑原くん。お久しぶりお元気そうで何より今日もテニスに勤しんでた?ふふ、今出来ないんだっけ。ご愁傷様残念ね。ちなみにこれお土産なんだけどさっきまですごい新鮮だったの」

ペラペラ喋る女は手に持っていたものを桑原の膝に投げた。それはもちろん彼の父の頭部で、切断面からドロリと赤いものが零れてくる。

「なんで…何なんだよお前…何で親父を…」
「ん?桑原くんを怒らせるためだったんだけどー冷静だね。掴みかかるくらいすると思ったんだけどぉー」
「ッ!」

挑発するような笑みにカッと頭に血がのぼる。
今の状況では彼女が何者かは分からない。けど彼の親父を無残にも惨殺したのは確かだった。逆上した桑原は彼女の言葉のまま掴みかかろうとして──


「触んなクズ」


黒いものを押し当てられた。
途端バリィ!と電撃が走り体が硬直する。彼女が持っていたのはスタンガンだった。入浴途中のため全裸でお湯で濡れていて体が最高に電気をよく通してしまうという最悪のコンディション。

「がッ は…!」
「キモいんだよタマゴ頭。見たくもないモンぶら下げてなに私の前で息してんだよ死ね」

自ら入って来たのは彼女なのだが。
それは置いときヒールの靴で腹を蹴飛ばせば簡単に体は傾き浴槽の中に突っ込んだ。桑原は頭を打ったようでスタンガンのショックと痛みでもがいている。それにさらに追い打ちをかけるようにスタンガンのスイッチを入れ…湯船に放り込んだ。


「ぎゃあああああ!!!」
「アッハ、いい感じ?これ頼んだ物なんだけど電圧いじってくれたみたいなんだよねぇ。数値とか聞いてないけど」

湯船から出ようとする姿は滑稽で彼女は楽しげな笑みを浮かべた。まるで死にゆく虫を観察するような笑みを。程なくして体半分湯船から出たところで桑原は気絶してしまった。体は虫のようにピクピクと痙攣している。突ついても反応がないと分かると彼女は再び笑い仲間を呼んだ。


「唯識くんリョーマくん、準備よろしく」
「「かしこまりました」」

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