「亜久津先輩―!どこですかー?」
「……チッ」

東京都山吹高校。
部の後輩である壇太一の声に亜久津がイラつきながら携帯を閉じた。直後壇は部室裏に亜久津いるのを見て人懐っこそうに笑う。その警戒心のなさそうな笑いも、しつこいメールも亜久津のイラつきを加速させる。

「ダメですよ先輩!部活に来てくださいです」
「あぁ?俺に指図すんのか?」
「て、千石先輩に言われたんです」
「めんどくせぇ」

部室の壁から背を離し日向に歩き出す亜久津の少し後ろをついていきながら壇はニッコリと笑う。しかし、それはまるで貼り付けた仮面の笑み。先ほどの人懐っこい笑顔とは違うもの。


「もう連絡は来テマスヨネ?」

僅かながら亜久津は反応する。

「≪彼女≫ハお待ちですノデ、ヨロシクお願イシマス」
「チッ…」

再び舌打ちをし、天吹仁 はポケットに手を突っ込みながら歩きだした。フェンスを越え制服のままコートへ行くと案の定部長である南に声をかけられる。

「またサボってたのか?亜久津」
「あ゛ぁ?」

一睨みするだけで南と他の部員すらも震えた。そそくさと俺から離れていく。こういう方が気が楽だ。俺が睨んでもへらへら笑って近づくような…千石と壇は委員会や部室内にいたりと近くにはいない。

―――だが亜久津はさらにイラつく。

「(何で俺がんなことを…)」

ちらつくのは≪人類最美≫とかいう頭の可笑しい女からのメール。復讐のため、と脅迫じみたお願いを何度も送られてきた。アドレスを教えた覚えはない。会った事もないはず…なのに最近はひっきりなしだ。
携帯を開いてみると再び未読メールが一通。≪人類最美≫からなのは分かってるから読まずに削除した。

「おいテメェ等…」
「お、俺等か?」
「他にいねぇだろ。無事でいたかったらさっさと帰れ」

今の凄みようだったら「殴られたくないなら散れ」とも捉えられるが、違う。"らしく"もなく言った言葉に頭をガシガシと掻く。僅かながらの良心…否、直感で感じる面倒なことを回避する本能だった。この≪人類最美≫とか言う奴は絶対に面倒くさい。命令もなにも聞かないのが一番だ。

「さっさと…「だだだだーん!だめデスよー先輩!」


タオルを盛った壇が割り込む。


「亜久津は皆さんを殺さなくちゃイケナイんです」

凍るような笑みの中、天吹仁は黙ってポケットに手を入れた。

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