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それは殺戮だった。
殺人で殺害で殺傷で殺業で殺生で殺略だった。遊びでもあり余興でもあり運動でもあり無意識でもあり…そして何より"呼吸"だった。
「不二何を…!!」
「越前ぐ……ぁああ゛あ゛あぁ!!」
仲間が絶叫をあげる中咎凪虎次郎は目を背けることはなかった。拘束されていないが、せめてもと仲間が虐殺されてゆくのを瞼に焼き付ける。
自分の実力不足で苦痛に顔を歪めるのを嘆きながら。
「サエ、助け…!」
「ごめん……」
血が顔に吹きかかる。床も壁も天井までにも血がついていてこれ以上になく真っ赤。そして部室にはもう裏世界の者しか残っていない。
「さて、咎凪はどう死にたい?」
「≪人類最美≫は拷問を望んでるけど楽に殺してもいいすよ」
「…楽に死にたいとは思わない」
仲間は苦しんで死んだ。
咎凪家にも裏世界にも上手く馴染めず作り笑顔を浮かべるしかなかった彼に本物の笑顔を教えてくれたのは他でもない六角のテニス部だったのに。一人楽に死ぬなど申し訳なくて顔向けできなかった。
「そっか…なら」
咎凪虎次郎の予言が正しいなら死に様は
「どうするんすかマスター」
四肢切断の出血多量死
「取りあえず四肢斬ろうか」
「Yes My master」
声が聞こえた瞬間零崎唯識は右腕、闇口リョーマは左足を刈っていた。支えを無くした体はなすすべもなく床に崩れ落ちる
「…ッぐ、……うぅ…」
「あれ叫ばないんすね?」
「≪人類最美≫は断末魔を望んでるんだけど」
「ぐあ、あああぁ!」
ガスッと切断面を蹴られ叫ぶ。
彼らはもう殺人鬼と暗殺者であり佐伯虎次郎が知っている不二と越前ではなかった。人は、鬼は…≪人類最美≫の命でここまで狂えるのかと疑問に思うほどだ。
「俺は不二、越前……いや、≪裏世界≫を許さない…!」
「そう」
「あ、邪魔なんで残りも斬りますね」
関節のあたりで切断され血が大量に溢れる。
いっそもう死にたい。でも…
「まだ死なせないよ?」
与えられる激痛で、意識を失うことも許されない。これは出血多量で死ぬまで続けられる拷問。≪人類最美≫の命令に逆らった罰。
でも咎凪虎次郎はこれが正しかったと心から思っていた。裏世界、殺しよりも仲間をとってよかったと思う。痛みの中大切な仲間たちに謝罪し、訪れる死を待つ。
もうすぐ 意識が、途切れる……
「仲間がこの顔なのに笑って死ぬ佐伯は滑稽だね」
意識が途切れる瞬間
俺が最期に見たのは葵の憎しみに満ちた死に顔だった。
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