学生はチャイムに縛られたまま


ここしばらく考えてたこと。

「私何してるんだろ…」


読んでいた本を閉じて溜め息をつき外を見る。どこかのクラスで体育があるみたいで楽しそうな笑い声とともにボールの準備をしていてた。ふざけ合って笑う姿は絵に描いたような青春。

でも私にとってはいらない時間。

私の名前は零崎幸織。…学校では左紀幸織と名乗っているけど裏世界じゃ誰もが畏怖する異端の殺人鬼集団の一人。
私は家賊の中で一番年下でまだまだ弱いし、一般人を見て殺意を抱くことも稀なんだけど…こんなに普通にしていていいんだろうかと思う。だって誰も学校なんて行ってないよ。人識兄さんは中学中退だし舞織姉さんは零崎になって普通に学校をやめている。


教室を見るとグループになったクラスメイトが昨日のテレビのことを楽しげに話している。

この学校は双識兄さんが選んでくれた水仙ヶ丘女子高校。舞織姉さんが通った県一頭が良い所でも澄百合学園のような傭兵養成学校でもない本当に普通の普通校。
どうして私だけこんなところにいるんだろう。日に日に焦燥感だけが積もっていって皆と離れていきそうで不安になる。私はもっともっと、姉さん達に近付きたいのに。


「あ、あの…左紀さん…」

「はい?」

おさげの委員長がおろおろしながら次は移動教室だと教えてくれる。
気付いたらほとんどの人が移動していて残りも荷物を持ち動き始めてる。

「ありがとう。今行くね」

「う、うん…」

本当にこんな学校抜け出したい。


*****


お昼になり中庭でお弁当を広げる。

秋も終わりに差し掛かり寒くなってきたから外に出てくる人もいなくて自由にゆっくりできる。自分で作ったお弁当を食べ、放課後はどうしようかとぼんやり思考を巡らせているとお昼休みも残り10分というところで携帯が震えた。電話らしく画面を見ると「双識兄さん」と表示されていて慌てながら出る。

「双識兄さん…久しぶりです」

「久しぶりだね幸織ちゃん!」

その声だけで自然と笑顔になった。
零崎一賊長男・双識兄さん。私の大切な家賊。電話をするのは(双識兄さんにしては)久しぶりだ。一週間も連絡が来ないなんて珍しい。

「本当に久しぶりだね幸織ちゃん!
一週間という途方もない時間に電話もメールもあげれなくて本当にごめんよ。寂しかったかい?そりゃあもう寂しかっただろうね!でも大丈夫もう恐ろしい忙しさは終わったからね。これから毎時間電話をあげれるくらいさ!ところで私はこの通り元気なんだけど幸織ちゃんはどうだったかな。風邪とか引いてないかい?これからもっと寒くなるから気をつけてね。でも今の可愛い声色ならきっと元気なんだろう!リルなんか最近インフルエンザになったのにも関わらず暴れてたみたいで熱が…」

「兄さん兄さん、話が…」

「ああ、ごめんごめん逸れてきたかな。久しぶりだとつい長電話しちゃってねー幸織ちゃんならなおさらだよ。えっと本題なんさけど──少しお手伝いしてほしいことがあるんだ」

「──はい」

さっきまで饒舌な兄さんの話に相槌を打ち笑っていたけど、声色が変わり私も表情を引き締めた。周りは…大丈夫誰もいない。

「ちょっかい掛けてきた連中がいてね…強くないし人数も多くない。けど呪い名で周りを固めてきたんだ。少々面倒なことになりそうだから援護できるかい?」

「任せてください」

「うふふ…ありがとう幸織ちゃん!お兄ちゃんは大助かりで嬉しいよ!
そうだあのね、」

双識兄さんの言葉を遮るようにチャイムがなった。
確か次の授業は数学?せっかく兄さんが電話くれたのに…授業とどっちが大事かと言ったらもちろん兄さんだろう。サボる決心をするとそれを見透かしたように

「サボるのは駄目だからね」

「………でも」

「でもじゃないの、学生の本分は勉強だから。詳しい話は後でするよ」


じゃあね、と優しく声のあとプツリと電話が切れてしまった。
「あーあ…」とため息をついてようやく私は立つ。兄さんの会うのは半年ぶり。

いやな学校も、何だか頑張れそうな気がした。



01.学生はチャイムに縛られたまま
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -