妹たちの苦笑



「双識兄さーん?」

玄関に顔を出してみるとまだ膝を抱えてしくしくと泣いているままだった。スーツでオールバックの青年がちっちゃく足を折っている様子はシュールだ。腕も脚も異様に長いから余計に。


「もういいですよ。お茶入れたんで中に入ってください」
「いいのかい…?中に入ったら機関銃が火を吹いたりしないかい?」
「大丈夫ですって…」

私のM870攻撃が思いのほかショックを与えたみたい。ごめんなさい…。
冷えただろう双識兄さんを中に連れて時計を見たら6時だった。そろそろ夕飯作らないと。

「夕飯作るのでリクエストとかありますか?」
「うーん和食がいいかな」
「和食ですか…」
「私も手伝うよー」

今ある材料と献立を考えながらエプロンを着ると何故か双識兄さんは目頭を抑えて感涙していた。…なんでか聞きたくない。でもちょっと気になる。


「今の、まるで新婚みたいなやり取りだったね…!なんて素敵なシチュエーションなんだ!あぁっ でも私は兄なんだそんなやましい考えなどーー!」

しない、と言いたいのか。
口の端がきゅっと引きつるとすかさず舞織姉さんに「変態は無視しましょうね〜」と背中を押されてキッチンに入った。…さすが姉さんは慣れている。

額に手を当ててぶつぶつ言ってる双識さんは置いて料理に取りかかる。姉さんが買ってきてくれた材料も含め充実してるから大丈夫そう。それに、和風なんて腕が試されるから頑張らないと。


*****


「美味しいっ!!」

肉じゃがを頬張る姿を見てほっとする。
普段は簡単に作って一人で食べているけど今日は家賊がいる。それだけで夕飯は特別な時間。

テーブルに並んだのは炊き込みご飯に野菜いっぱいのお味噌汁、肉じゃがにタラの煮付け。小さく盛ったおひたしは昨日作り置きしたものだからそのことは双識兄さんには内緒。


「二人とも料理上手だね」
「うふふ、女の子の嗜みですよ」
「一人暮らししていたらいつの間にかです」

テーブルを囲んで穏やかに流れる時間。
こうやってたまに遊びに来てくれる以外、私は一人だからこの時間がなにより幸せだった。


「きっと良いお嫁さんになるんだろうね。
………ハッ!ま、まだ駄目だからね!そんな若すぎるうちに結婚なんてお兄ちゃん許さないよ!舞織ちゃんはもう17歳で法的には結婚してもいいだろうけどどこの馬の骨か分からない輩に可愛い可愛い妹はやれないよ。幸織ちゃんも悪い人にころっと騙されないように気をつけてね。…ああ、何だか一瞬六何我樹丸の名前が浮かんだよ…殺し名呪い名全部の子が欲しいとか言ってたし手を出されそうでひやひやするよ…うふふ、その場合は私が容赦なく遠慮なく零崎するけどね。私は長男なんだから可愛い妹を守って当たり前。そうだ!二人とも結婚はやっぱりウエディングドレスかい?純白な裾をひょーんと伸ばして歩く姿はきっと素敵だろうねぇ!ベールに隠された幸福な顔は最高の宝だろうよ。でも白無垢も捨てがたいな。しずしずとたおやかに歩む姿は日本の美、大和撫子だよ!望むなら舞織ちゃんはウエディングドレス、幸織ちゃんは白無垢かな。嗚呼でもやっぱりどちらも見たい!選べない!どうしようかこの葛藤を!」


「このお煮付け美味しいね、幸織ちゃん」
「肉じゃがも美味しいです、舞織姉さん」


遠い目をしつつ料理を平らげる私たち。
どんどんカミングアウトしていく双識兄さん。
小さく「ご飯冷めちゃいますよー」と声をかけるとはっと我に返り箸を進めてくれた。

良かった今回は止まってくれた…。

私たちは見合わせると「困ったね」と言うように苦笑した。


妹たちの苦笑
 (でも彼が私達の憧れというのは秘密)
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