▼ 2017 07.07「業火の果て」

「………」

開けた窓からは暖かな空気が入り込みガタガタと列車に体を揺すられる。
初夏の陽気と適度な湿度は苦手だった。特に今のようなコンディションだと尚更。

「………」

…はっきり言うと眠たい。
瞼が重くて眠くて眠くてしょうがない。初夏の気持ちいい天気と5件続けての任務という疲労感が余計に眠りに誘う。
私はあまり体力はあるほうではない。だから任務は出来るだけ早く終わらせたいし複数回の任務は避けたい。任務先だとあまり眠れないし。

苦手な兄弟子との任務を2つこなし(しかも不発で八つ当たりされた)、元帥のおつかいをこなし、リー室長から帰宅命令が下り教団間近まで帰ってきたのに「緊急の任務が入ったからお願い」と休む暇なく出てきたのだ。
注射器のストックはあと2本。貧血はさほど酷くないがせめて数時間でも仮眠を取りたい。

睡魔に揺らぎラビさんが持ってきた資料の文字がぼやける。読んでいるのに気付いたら目が閉じてる。
ああ、毛布…タオルケットが欲しい…。


***


「(…珍しいさぁ)」

俺の前に座る少女、イリースカの顔をまじまじと見つめてみる。いつもなら「何です」と眉を寄せ不機嫌そうな声が返ってくるのに今は頭を左右に揺らし無防備に眠っていた。

イリースカ。
俺よりずっと前から教団にいる3つ年下の寄生型エクソシスト。人と関わるのを嫌い常に一線を置いて気を許さない。それはどこかブックマンと似ていて好感を持っていたけど…

「珍しいさ」

人前で船をこぐイリースカに呟く。やはり起きずにカクンと右に傾いた。

(任務続きで疲れているのだろう。眠らせておけ)
(はいよ)

ジジイの言葉には頷くが不意にいい事を思いつき団服の上着を脱ぎそろそろとイリースカの隣に移動する。ジジイの視線は無視さ。
イリースカと肩が触れるほど近くに座り髪に手を伸ばす。いつも洒落っ気なく一つに結んでる髪。三つ編みにでもしようと手に取ると編む前にイリースカの肩がずるずると落ちてきた。

(お…?)

落ちた先は俺の肩。寄りかかる頭が乗るがそれでもイリースカは目覚めない。よほど疲れたんさね。そして、やっぱり珍しいさ。今日は槍が降るかもしれない。

肩に団服をかけてやりながら今までにないほど近くにある顔を覗き込むとカサついた唇、目の下の隈、病人のような顔色が目につく。数少ない女エクソシストで、リナリーと歳が近いこともあって容姿も性格も比べられるイリースカ。
でも、やっぱりイリースカもそこそこ可愛いと思うんさぁ。なんというか性格が。

誰もが嫌いで無愛想で、眉を寄せて世界を睨んでる姿が子供っぽくていい。まるで取り作りっているようにも見える。"今のスタイルを崩すと知らないなにかに変わってしまう"と恐れる思春期の子供みたいだ。

(寝顔は子供だな)

微かに寝息をたてる頭をぽんぽんと撫でるとわずかに表情が柔らかくなった。いい夢でも見てるのかもしれない。目覚めたらどんな顔をするだろうと想像しながら俺も目を閉じた。


(起きんかラビ)
(………んあ?)
(10分ほどで降りる。イリースカ嬢を起こしておけ)
(了解)

頷くとジジイは音もなく部屋を出た。
イリースカを見ると変わらず俺に寄りかかったまま静かに寝息を立てていた。起こすのは忍びない…けど仕方ない。

「イリースカ、起きるさ」
「…………」
「もうちょっとで駅に着くぞー」
「……、」

体がぴくんと反応し重たそうに瞼を開け俺を見上げた。至近距離で目が合うが、イリースカは眠たそうに瞬きをする。低血圧だからなーと指で鼻のてっぺんを突いてやると、数秒後カッと目を見開いて覚醒した。

「な…っ ラビ!?」
「いい夢見れたか?」

わなないた後飛び上がるように俺から距離を取られた。低血圧もありイリースカは少しよろめく。

「私いつのまに寝て…!」
「可愛い寝顔だったさぁ」
「………!!」

イリースカの顔が赤くなる。いつも無愛想で冷静を装ってるあのイリースカが。
物珍しさに見つめると羞恥心のせいか余計赤みが増す。

「…珍し「シネ」 ぅお!!」

顔面に飛んできた赤い凶器、イリースカが放ったイノセンスをぎりぎりで避ける。鎖鎌に似たそれは俺の横を通過して背後の壁に突き刺さった。
あっぶね…!

「死ね!ここで死ね!」
「タンマ!悪かった落ち着くさ!」

思わずホールドアップするとイリースカは目を細め手の平から溢れ出る血液――に繋がれた鎖鎌を収めた。もうすぐ駅に到着するという車掌の声に助かったと手を降ろすがすかさずその手首を掴まれる。
あ、と気付くが時すでにすでに遅し。

そして丁度良くブックマンが扉を開けた。

「お主等…「ぎゃあああ!ギブギブ!折れる!折れる!」


ラビのみっともない悲鳴に目を丸める。
自身より大柄の男の腕を絡め涼しい顔で関節を捻り上げるイリースカと腰をかがめ座席を叩きながら叫ぶラビ。鍛錬場ではよくある光景にブックマンはあぁいつものかと頷いた。

「もう間もなく到着する。用意されよ」
「はい。お騒がせしました」
「早く止めろパンダ!」
「…イリースカ嬢」
「ぎゃあああああ!マジ折れるさぁぁ!」




***
中途半端だけどここまで。
力では敵わないけど技に秀でるイリースカは鍛錬場でラビをボロボロにしてます。これは立ちのアームロック。リストロック。
ラビ寄りではない。

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