▼ 2016 01.02「翡翠色のメルモイット」



次の日、早いうちに神田とラビは浜辺へやって来た。あれから今まで津波や渦潮の被害はなく、アクマもいない。人魚がまだここにいるか分からないが、とにかく話しイノセンス適合者ならば黒の教団へ連れていかなければならない。

昨日ラビが潜ったポイントまで行くと2、300m離れた所に小さな渦ができていた。

「どうするさ?」
「行くしかないだろ」
「え〜潜るのはもう嫌さ…死にかけたし」
「自業自得だ」
「あ!こっち来てるさ!」

泳ぐ準備をしていると渦はおさまり、白と緑の影が動く。50mまで近付いてくると水面から顔を出した。昨日間近で見た翡翠色の瞳は確かに2人を見ている。

「助けてくれてありがとーーさーー!!」
「うるせえ!」
「名前はなんて言うんさー?もうちょっとこっちおいでー!!」

ラビが大声で呼びかけるが反応はなし。
人魚は50mから近づくことはなく沈んだり顔をのぞかせたりを続け、昼を過ぎたころにはどこかに行ってしまった。
仕方なくラビと神田は人魚について情報収集をしたが目ぼしいものはない。誰もが口を揃えて人魚が不吉の象徴であることしか話さなかった(けどそんな伝説世界中にあるさぁ)


話が通じないならば強行手段と言ったのは神田だった。

呼びかけに応じない、近付きもしない人魚にしびれを切らしラビと神田は沖に漁業の網を張り捕獲作戦に出た。これなら強引でも対話できる可能性が上がり教団に連れて行くこともできる。
そして、無事夕方には網にかかってくれたのだが…


「そっち押さえろ」
「科学班へ映像を送りました」
「私は水槽の準備を」
「チッやっぱり言葉は通じねえか」

待ってさ、と声がかすれた。
確かに俺も準備を手伝ったけど網にかかった人魚を見てすぐ後悔した。

砂まみれになり髪も腕も尾ひれも黒い網にぐちゃぐちゃに絡まり声もなく苦しげに口を動かしている。ウロコが網に引っかかり抉れそうになる。

「ユウ待つさ、ファインダーも」

ファインダーが注射器を持ち出したところでようやく体が動いて止めることができた。

「なんつうか、これはないわ」
「は?」
「この人魚は命の恩人なのにこんなやり方させる訳にはいかないさ」

ユウ達を押しのけて持ち前のナイフで網をざくざくと切っていく。人魚はもう衰弱しているのかもがくことはなかった。
ユウになんと言われようと止められようと網を全部外してやって海へと返してやる。海水の中でぱちっと目を開くと一瞬の間に砂を巻き上げ沖へと去っていった。


「おいバカ兎 勝手な事しやがって!」
「いやーさすがに人道的じゃねぇからさ。適合者で仲間になるならちゃんとした形で教団に連れていかせたいだろ?」

へらっと笑うと案の定苛立たしげに舌打ちをして俺に背を向けて歩き出した。あらら?

「あれどこ行くんさ?」
「テメェとは付き合いきれねぇ。長引かせるつもりなら俺は別任務につく」
「真面目さぁ」

つい茶化すとユウの背中からビリッと火花のような怒気が走り、冷や汗が流れる。斬られるかと思ったけどそのままユウは宿にも戻らず帰ってった。


「まぁ俺一人でもなんとかなるさ!絶対あの美少女人魚と仲良くなって任務も完璧にこなしてみせるさー!」


言葉は通じずとも、俺を2回も助けてくれて優しさがある。誠意をもって向き合えばなんとかなると確信していた。



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