▼ 2016 01.01「翡翠色のメルモイット」


「ユウと任務なんて久しぶりさあ」
「ファーストネームで呼ぶな。刻むぞ」
「うーん これも久しぶり」

頷いていると舌打ちをされた。お互い任務ばっかでホームでは会わんしこんぐらいのスキンシップいいじゃんよ、と言っても無視される。相変わらず冷たいさ。

資料に目を降ろすと今回の任務について詳細が書かれている。
場所はオランダの海岸沿いの街・アンジェム。なんでも晴天、無風、地震もないのに小規模の津波が起きるそうだ。海に関しておかしなことがおきるため怪奇現象としてファインダーが向かうと津波、渦潮、水柱を確認。さらに、レベル1のアクマも出現したらしい。


「いた"らしい"ってのが気になるさね」
「…ああ」
「誰かが破壊した訳でもないだろうし?家にでも帰ったんかな」
「知るか。それを調べるのも俺らの仕事だろ」

レベル1のアクマ達は消えたらしい。
海上に行き来している間にいつもの小さな津波起き、こつぜんと十数体のアクマが消えた…。今回の任務はそれの調査をし、アクマがいたら破壊、怪奇現象の解明、イノセンスだったら回収だ。



「エクソシスト様!海上にアクマを発見しました!」
「げ、着いたばっかさー」
「何体だ?」
「12体です」

窓枠に足をかけ外に飛び出たユウの後を続く。すでに海は見えていてレベル1のアクマは海に向かって銃弾を撃っていた。何やってんさ? 開けた浜辺に出るとアクマと…

「おい、」

ユウも気付く。アクマの狙いの先には渦潮が発生していた。その場だけが渦状に波が回り、あたりはさざなみ一つ立っていない。あそこだけが、おかしい。

「調べようにもアクマが邪魔さ」
「さっさと倒すぞ」
「ほいほい イノセンス発動!」
「六幻抜刀」

俺は大槌小槌を発動し破壊していく。ユウも豆腐を切るように両断していき、あっという間に数は減った。さすが俺たち2人だと楽勝さあ!

「バカ兎!!」
「あい?げ、」

楽勝── と油断した。
目の前には歪んだ笑顔のレベル2。間に合わない やられると警鐘が鳴る。

「死ねぇエクソシス── ぎっ!?」

痛みを覚悟し身を固くしたが、その前に水柱が立ち上がりアクマが水に飲まれる。

「おおう?」

呆然としてるとさらに細い鞭のような2本の水柱があがりアクマを貫通した。悲鳴のような声と共に破壊される。

「助けられた…?」
「なんだ今のは?」
「分かんね」

破片がボチャンボチャンと落下すると水柱も渦潮も役目を終えたように収まっていく。
水柱は俺を助けるような意志を持っていた。…ということは。

「あいて!」
「おいさっさと潜って確かめてこい」
「俺!?」
「水なんかに助けられやがって」
「うっ……えーい今行くさ!」

ユウに六幻で押され上着を脱いで海に飛び込む。バシャンと上がる水しぶき。泡。あぶくの中で片目を開けると、驚いた表情の少女がいた。

「ぶばッ!?」
「 !! 」

少女!?
目の前にいる予想外に存在に吸い込んだ息を全て吐き出してしまった。その声ともつかない音に少女は目を丸くし自分から遠ざかってしまう。そのせいで、少女の全貌が見えてしまった。

(… 人魚!?)

白金に近い緩やかな長い髪、一糸まとわぬ女性の上半身(鼻血が出るさ)、そして人ではないエメラルド色に輝くウロコと尾ひれ

─── まごうことなき人魚だった。

思わずその姿をに見惚れ、観察する。息を吐き出したのすら忘れ人魚と見つめ合っていると、向こうも観察し終わったのか興味が失せたのか、暗い深海へ泳ぎだした。
やばいさ。ここで見失ったらもう会えない気がするし人魚のスピードには追い付けないだろう。けど息が切れそうだ。

けど捕まえるには今しかない!

(えーい ままさ!)

俺は水を蹴り、人魚がスピードに乗る前になんとか細腕を掴むことができた。振りほどくこともなく振り返って俺を不思議そうに見つめる。
で、俺はというとやっと腕を掴めたのに死にかけていた。

(息が… つーか意識が…やべ)

力が抜けて手が離れてしまう。ユウ気付いてくれっかな… それとも伸でヘルプを求めるか?ごぼりと残りの空気も抜ける。


『……。』

ふと、苦しさが溶けるように消えた。柔らかななにかの感触がして目を開けようとすると体に衝撃が当たり浮上していくのが分かる。眼帯のない片目で見ると白金の髪が揺れていた。
あの人魚が俺に抱きつくようにして水面へと引き上げている。翡翠色の、ウロコがきれいさ…。



意識のないオレンジ色の体を海面にもちあげ、人魚は周りを見渡した。幸いにも浜辺は近くそこまでオレンジ色を引っ張る。

「バカ兎!」

大きな音が聞こえ浜を見るとクロ色がいた。クロ色の方へ持っていくと軽々とオレンジ色を抱え浜辺に横たえた。

「息はあるな チッ 何やってんだ」
『……』
「助けたのか」
『……』
「おい何か言え、さっきの水柱はお前がやったのか?イノセンスはどれだ?」

しかし人魚は答えずじっとオレンジ色を見ている。クロ色──神田ユウは沈黙する女に舌打ちをしそうになったが、ひとまずは意識のないバカ兎だ、と立ち上がる。

「また来る。ここらにいろよ」
『……』

「ファインダーに繋げ。アクマは倒した、泊まれる所用意しろ」

神田はゴーレムを使いファインダー連絡を取るともう一度海を見た。すぐそこにいた女は遠くに離れ ちらりと神田を一瞥すると潜り姿を消す。

「チッ… めんどくせぇ」

神田は毒吐くとラビの胸ぐらを掴み地面に引きずりようにしてその場を後にした。


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ほとんど授業中の書き殴り

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