碧霄の絵画 | ナノ
眩しい。

おかしいな、昨日はちゃんと電気を消して寝たはずなのに。もぞもぞと布団から頭を出して辺りを見渡せば、電気が付いていたから眩しかったわけではなく、原因はカーテンからもれる太陽の光。そうか、もう朝なのか。

「ナマエ、そろそろ起きなさい」

遠くの方から聞こえる声に勢いよく体を起こす。まずい、ちょっと怒ってた。このまま布団の中でぐずぐずしていたら間違いなく怒られる。欠伸と背伸びをしてため息をついた。

朝は苦手だ。体と頭が重い。けど彼に起こされるよりはマシだと自分に言い聞かせて、少し暑い布団から這い出る。下から微かに香る匂いに、かなりの期待をしながら短い階段を下った。

「おはよう、ナマエ」

「おはよう、リーマス」

着替える時間さえも惜しくてパジャマでキッチンへと降りてきた私を見て、苦笑いをしたリーマスの頬に軽くキスをして椅子に座る。相変わらず、何とも美味しそうな朝食だ。

「今日は起きる時間がいつもより遅かったんじゃないかな?」

「…すみません…」

夜遅くまで本を読んでました、と呟けば、リーマスが「知ってるよ」と言って笑った。どうやら少し明かりが漏れていたらしい。何という盲点。フォークを手に持ってソースのかかった目玉焼きをつっつく。外は夏らしく、太陽がギラギラと輝いている。今日くらいは雲がそれを覆い隠してくれてもいいのだが。

他愛のない話をしながら朝食を食べ終え、魔法で紅茶を用意したリーマスが砂糖をカップに入れながら、机の脇に隠すように置いてあった手紙を手に取った。

「ナマエ、これは君に」

「私?」

誰からだろう、と封筒を裏返すと“ホグワーツ”の文字。もう一度、確認のために封筒を表に返せばそこには間違いなく私の名前。期待をこめて顔をあげれば、リーマスが私を見てニッコリと頬笑んだ。

幼い頃に、初めて自分が魔法使いだと知ったときから待ち望んだもの。リーマスが学生時代に使っていた教科書を毎晩読み漁り、それだけでは飽き足らず、シリウスが家から盗んできた(本人曰く借りた)上級呪文集まで読んで。私以上に嬉しかったらしいリーマスも、自分が苦手とする魔法薬学以外は積極的に教えてくれた。
けれど、私は正確な年齢がわからないからてっきりまだ先なのだと思っていた矢先にだ。

興奮して、自分の顔が真っ赤に染まっているであろうことは鏡を見ずとも分かる。もう一度手紙に視線を戻せば、そこには私の知らない沢山の本の名前。それが教科書だと分かっていても不思議とわくわくした。憧れのホグワーツに行けることを考えれば、そんなものは苦でも何でもない。

「早速相談なんだけど、今日ハリー達もダイアゴン横丁に買い出しに行くそうなんだ」

「本当?私達も行きましょう、リーマス!やっぱり、私とハリーは同い年なのね!」

ハリーとは、リーマスの学生時代の親友であるジェームズとリリー(“さん”とつけたら怒られた)の2人の息子である。私が赤ちゃんのころから頻繁にお世話になっていたからハリーとは双子みたいな関係で、よく魔法の勉強を2人ですることもあった。だから一緒にホグワーツに行けたらいいね、と。まさか本当にハリーと一緒に入学出来るなんて、最高の気分だ。

温かい紅茶を一口飲む。ダージリンの味が口いっぱいに広がった。

それが喉を通るときに、私の頭にある一つの考えが浮かぶ。今までにも何回か思い浮かんでは答えが見つからなかった問い。

(私が入学したら、リーマスは一人?満月の夜も、その前もその後も?)

ナマエが来てくれたおかげでこの寂しい部屋が暖かくなったよ、といつか頬笑んだリーマスを思い出す。そう言って私の頬を撫でたリーマスの手が暖かくて、その表情が優しくて。

あの時、私の全てはリーマスに奪われたのだ。その傷だらけの身体も、疲れたような声も、白髪混じりの髪の毛も、その優しい顔も。なにもかもが当たり前のように私の中に入ってきて、私はそれを受け入れた。子供ながらにずっとこの人と一緒にいたいと思った。この人が辛いと思うときにそばにいてあげたいと。

やっぱり行かない、リーマスと一緒にいたい、と口を開こうとリーマスを見れば、私を見て嬉しそうに笑っていて、開きかけた口を閉じる。

「ナマエがホグワーツに入学してくれて本当に嬉しいよ。私もあそこで沢山のことを学んで、沢山の思い出を作ったんだ」

そうニコニコと言われたら、そんなこと言えなくなっちゃうじゃない。

言いたい言葉を紅茶と一緒に、一口で飲み込む。楽しみだね、と私以上に喜んでいるリーマスの腰に、「私も、」と叫んで思いっきり飛び付いた。


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