慣れない山道
「ユフィ、俺たちはもう仲間だ。勝手な真似すんなよ」
「ん?なんでも、許可が必要って事?」
「そうだ」
「あっそう。じゃあ、歌っていいですか?」
「ああ?」
「背中、掻いていいですか?」
「あ…」
「耳ほじっていいですか?欠伸していいですか?ねえ、ねえいいですか!ねえねえねえ、いいですか!」
「あー!うるせえー!全部ダメだ!!」
「あ、横暴!おーぼー!」
「…ナマエ、おめえ…聞き分け良かったんだな」
「いやどういう意味よ!?」
コレル山を登り始めてすぐ、バレットの小言にユフィが反撃した。
イマドキの娘っこにやられるバレット。
いやでも最後のあたしに向けてきた視線は何さ!?
「ティファ、よくこんな人と一緒に戦ってきたね」
「ふふ、でも、いいところの方が多いよ?」
ユフィは次にティファに絡みだす。
知り合ったのはジュノンだけど、それにしてもスルッと会話の中心に入っていくユフィのコミュニケーション能力凄いな。
そう感心しつつ…あたしは足を止め、くるりと後ろに振り返った。
というか、少しだけ戻った。
「エアリスー、だいじょぶ…?ほい、手、引くよ?」
「ありがと…ナマエ」
既に肩で息をしているエアリス。
傍らにはスピードを合わせて歩いているレッドXIII。
レッド優しいなぁ。
あたしは手を差し伸べ、彼女の手を引いた。
先を歩く皆とは、ちょっと距離が開いてしまっていた。
「エアリス、大丈夫かな」
ティファの気遣いで、皆も足を止めた。
それに気づいたエアリスは申し訳なさそうに顔を上げる。
「ごめん、足、重くて…」
ミッドガル育ち。
当然、山道なんて慣れてない。
あたしも慣れてないから、その気持ちは物凄くよくわかった。
あっるき辛えなこんにゃろうっていう。
ただ、戦闘慣れしてる分、エアリスよりは体力があるって感じかな。
「少し休もう」
「でも、急がないとマテリア…じゃなかった。黒マント、逃げちゃうよ。そうだ!アタシが先に行って偵察してきてあげる!皆は後から来なよ。じゃあ、あとで!」
休憩を口にしてくれたクラウド。
それを聞き、ユフィは先に偵察に行くと軽快に走っていく。
わーお、元気ー。
でもバレットが言ってた許可が必要ってのはそういうのだぞ、ユフィちゃん。
ま、実際のところ偵察は助かるかもだけど。
先にモンスター蹴散らしてくれたら後続チームは戦闘楽になるし。
「あとでじゃねえよ…」
コレルに慣れているバレットは保護者的心情もあってかユフィを追いかけていく。
「心配だから、私も行くね。バレット、なんだか様子が変だし」
「頼む」
バレットの様子を気に掛けてたティファも偵察チームに入ると言った。
クラウドはそれを了承。
あたしはグッとティファに親指を立てた。
「ティファ!モンスターのお掃除頼んだぜ!」
「あはっ、了解。上で待ってるから、ゆっくり来てね」
「うん、ありがとう」
最後にエアリスを気遣い、ティファもユフィ達を追いかけていった。
さて、ではこちらはクラウド、エアリス、レッドXIII、あたしのチーム。
「んじゃ、のーんびり行きましょー」
あたしは繋いだエアリスの手をルンルンと揺らす。
残ったチームは少しペースを落とし、お言葉に甘えてゆっくりと進むことにした。
「ナマエ、あんたも山は不慣れか?」
「うん。歩き辛いねー山って。下りとかも大変そ」
「まあ、そうかもな。今日は魔法メインにしてるのはそのせいか」
「んー、そーねー。あんまりバタバタ走らなくて済むように。大丈夫。気を付けてるから魔力切れとかはご心配なく!」
「ああ、別に心配はしてない。そこは信用してる」
「へへへ!クラウドは故郷に山、あったんだっけ?」
「ああ、ニブル山だ。人は死ぬと、ニブル山を旅立つって言われてた」
「えっ、こわ。ニブル山って、そんないわく付きのお山なの?」
「いや、子供たちを山へ行かせない為の、大人たちの作り話だな」
「ああ…なるほど」
チャキッ…と剣を仕舞いながらクラウドと話す。
ユフィたちのおかげで、道中のモンスターはかなり数が少なかった。
でも全く出ないってわけじゃない。
そういうのは、率先してあたしとクラウドで片付けた。
エアリスの体力、少しでも温存させてあげたいし。
レッドXIIIはエアリスの護衛ってことで傍についててもらってる。
「エアリスー!レッドー!おっけー!」
あたしは手を振りながら叫んで、モンスターが片付いたことをふたりに知らせた。
山のところどころには、ユフィの落書きがあった。
まあ落書きっていうか、こっちだよーっていう道標だけど。
似顔絵付きなところをみると、向こうのチームは余裕綽々で進んでそうだ。
あたしたちはその目印を追いかけながら進んでいった。
「エアリス、どうだ?」
手を掛けながら、進まなきゃならない道。
クラウドは先頭を行きながらエアリスを気遣う。
すると、エアリスから返ってきた声は意外や意外、元気そうだった。
「不思議、からだ、軽いの!誰か〜!背中、押してる?」
「山に歓迎されたようだな」
レッドXIIIの謎の見解。
それを聞いたクラウドとあたしはきょとん。
「そうなのか?」
「え、そんなの…あるの?」
そんなあたしたちの一方で、当のエアリスは妙に納得しているご様子。
「そっかあ!やっほ〜!よろしくね〜!」
テンションちょっとおかしくなってるエアリス。
え、これは階段ズ・ハイならぬ…コレル山・ハイとかじゃないよね…?
「…レッド、適当なことを言うな」
「…初心者にありがちな現象だ。倒れたら私が運ぼう」
「…あたしも初心者ですけど、あれはわからんぞ…」
3人でこそこそと話す。
エアリスはひとり「やっほー!」って叫んでる。
いやマジで倒れたらどうしよう…。
なんかちょっと、いやかなり心配になった。
「あれ、神羅のロゴだ」
しばらく進むと、自然の中に似つかわしくない人工的な建造物が出てきた。
神羅のロゴ。
つまり、神羅の建造物。
なんだろう、何かのゲート…かな。
そしてそこにつくと同時に、聞こえてきた嫌な音。
「神羅のヘリだ」
「ユフィたち、大丈夫かな…」
レッドが警戒するように上を見上げる。
エアリスも不安そうに胸の上で手を握り締めていた。
「急ごう」
クラウドは少しだけ足を早め、ゲートの先に進んだ。
魔晄炉があるなら、そのゲート?
ていうことは、魔晄炉が近くにあるのかな…。
進んでいくと、ヘリの音が近くなる。
あたしたちは、地面に降りたヘリの前に辿り着いてしまった。
「ほら、さっさと降りて」
イリーナの声。
開いたヘリの扉からは、わらわらと数人の黒マントたちが降りて来る。
え、どういう状況…?
「タークス…」
「あら、こんにちは」
エアリスが呟くと、イリーナも降りて来て笑顔で挨拶された。
まさかのタークスが乗ってるとか…。
それはちょっと、ツイてない感じ…。
歩み寄ってくるイリーナ。
レッドXIIIは唸って威嚇し、クラウドはエアリスの手を引き自分の後ろに隠す。
「俺たちを追ってきたのか?」
「はい?ちがうちがう。こいつらジュノンで迷子になってたんだよね。回収して運んでたら、急に騒ぎ出してさ。だから、降ろすことにしただけ」
もう既に移動を始めている黒マントたち。
イリーナは彼らを見ながらあたしたちにそう説明してくる。
「どうして突然騒ぎ出したのか、不思議だったけど…まいっか。考えるのは私の仕事じゃないし」
「じゃあ、もう帰る?」
「うん、帰って帰って!ごきげんよう!」
帰るか聞いたエアリスに合わせて、あたしはさいならと手を振る。
だってタークスとか関わらないの一番だし!
「私と先輩は、ね」
イリーナは意味深に笑い、携帯端末を取り出した。
そしてスイッチを押すと、突然、近くにあったゲートが閉まり出した。
そしてどこからか飛んでくる、飛行型兵器。
「えっ…!」
「げっ…」
エアリスは驚き、あたしは顔を歪める。
あんにゃろ、変なの呼んだな…!?
「私が相手してあげたいけど、あいにく忙しくて。だから、今日はコイツで我慢してね」
イリーナはそう言いながらヘリの扉を閉めた。
機械兵器はこちらに近づいて来て、火炎を放射してくる。
炎に特化した兵器ですか…。
兵は飛び去って行く。
こうなったらもう仕方がない。
あたしたちは武器を構え、その飛行兵器と戦うことになった。
「ああもうっ、まったくもう!」
「ナマエ!魔法陣、張ったよ!」
「おっけー!エアリスふたりで同時にドーン!」
「了解!」
あたしは走り、エアリスの張った魔法陣の中に入った。
ひとつ分の詠唱で魔法が2発発動する魔法陣。
エアリスと呼吸を合わせて、ふたりでサンダラを放つ。
その雷で、兵器の外装はだいぶ削れた。
兵器はレッドXIIIに向かい、ガトリングを放ってくる。
でもレッドはそれを上手く避け飛び上がると、剥がれた外装目掛けて鋭い爪を叩きつける。
「トドメだ!」
最後はクラウド。
レッドが叩きつけたことで少し落ちた機体。
そこに剣を思いっきり振りかざし、刺し込む。
綺麗に入った…!
クラウドの大きな剣は、兵器の中枢に届いただろう。
兵器は煙を上げながら、落ちていく。
そしてドンッと派手に爆発して砕け散った。
「やったね!」
「うん!完全勝利!」
エアリスとあたしは顔を合わせて喜び、パンッとハイタッチした。
クラウドも「うん」と頷いてくれる。
誰も怪我をしていない。
綺麗な勝利だった。
でも、気になる事は、やっぱりタークス。
「タークス、やっぱり動いてる」
エアリスはヘリが飛んでいた方向を見る。
何をしているのかは…よく、わからない。
でも、タークスが動く案件なら、きっとロクなものじゃない。
「急ごう、バレット達が待っている」
レッドが言った。
神羅のヘリが飛んでて、ユフィたちを心配した。
でもユフィたちはここにはいなかった。
向こうのチームは…タークスとは、遭遇しなかったのかな。
クラウドとレッドXIIIは先に向かって歩き出す。
でも、エアリスは足を止めたまま。
あたしはエアリスに声を掛けた。
「エアリス?」
「ナマエ…」
手を取られる。
ぎゅっと握って、エアリスは空を見上げてる。
すると、クラウド達も足を止めたままのあたしたちに気が付いた。
「エアリス、ナマエ?」
「ミッドガルって、どっちかな」
エアリスは空を見上げたまま、そう聞いてくる。
ミッドガル…。
ジュノンから船で海を渡って…だから、東…?
おぼろげな知識。
するとレッドXIIIがちゃんと教えてくれた。
「方角的には東だ」
やっぱり東であってた。
そしてレッドXIIIはその場でぐるりと回り始め、ピタッと止まった。
どうやら彼は身一つで東西南北がわかるらしい。
「向こうだな」
レッドXIIIはどちらが東かを教えてくれた。
あたしとエアリスはその方角の空を見る。
「お母さん、元気かな…」
「エアリス…」
呟いたエアリスの横顔を見る。
お母さん…エルミナさん。
そういえば、神羅ビルにエアリスを助けに行って、そのままミッドガルを出ちゃったから…。
「俺たちがあった時は元気だった。心配してたけどな。な、ナマエ」
「あ、うん。元気だったよ」
クラウドに話しを振られ、こくんと頷く。
そうか。
最後に会ったのは、あたしやクラウドになるのか…。
「親不孝だね、私」
握ったままの手。
少しだけ力が強くなる。
「事情を話せば、わかってくれるさ」
「説明、大変そう」
クラウドの言葉にエアリスは小さく笑う。
あたしは隣で、そんな彼女の顔を覗き込む。
「そしたら、手伝うよ?」
「ふふっ、ほんと?じゃあその時、またお母さんの料理、ご馳走してあげる!」
「おお!ほんと!?」
「ふっ…あははっ!ナマエ、さてはお母さんの料理の虜になっちゃったんでしょ?」
「へへー、バレたか」
そんな風に話して、ふたりで笑う。
うん、でもきっといつか。
エアリスを送り届けて…。
エアリスがあの家で、なにも心配することなく…あたたかいご飯を食べて、あたたかい布団で眠って…。
そんな日常が来たらいい。
あたしは、そう願ってた。
To be continued
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