砂の山



夕日が沈む。
ビーチが、オレンジに染まる。

宝条博士と会って、きっと皆、思う事があっただろう。

夕景の中、あたしたちはそれぞれ想いを馳せていた。





「よし…と」





あたしは波にほど近い砂浜に座り、砂の山を作っていた。

砂をかき集めて、程よいところで水を掛けて固める。
ポンポンと叩いては、その繰り返し。

するとそこに、しゃくしゃく…と砂の足音が聞こえてきた。





「ナマエ」





声を掛けられた。
顔を上げれば、そこにいたクラウド。

クラウドはちょっと不思議そうにこちらを見ていた。





「なにしてるんだ?」

「お山作り。定番でしょ?」

「…定番、なのか?」

「え?違う?んで、トンネル作るの。クラウドもやる?反対側から掘って、両方から一気に!」





ポン、と叩いてお山作りは完了。

次は仕上げのトンネル堀り。
てうかそれが目的で山作ってたんだけどね。

クラウドは向かい側に座ってくれた。
どうやら手伝ってくれるらしい。

そんな姿を見て、ちょっと嬉しくて。
あたしは「ふふ」っと小さく笑った。





「クラウド、大丈夫?さっきの戦闘、やっぱちょっと大変だったよね…」

「ああ…。ナマエこそ、平気か?怪我とかしてないよな?」

「うん。大丈夫。でもやっぱパラソルじゃ慣れないよねー」





しゃく…と、指で掻いて、山を削る。
クラウドも同じように反対側を掘り始めていた。

何も考えなくていいこういう単純な作業は、ぼーっと話すにはもってこいだよね。





「宝条博士、いつの間にかいなくなっちゃってたね」

「ああ…」

「…多分、宝条博士の目的はモンスターと融合した黒マントたちだったんだろうね。その目的は達成出来たから、あとは特に執着せずに退散したのかな」

「目的はエアリスじゃないって言ってたからな。多分そう言う事だろうな」

「自分の欲の為だけ…。黒マントの人達も…ビーチの人達も…誰がどうなってもいい…。神羅の上の人は、血も涙もない人っていっぱいいるけど…。でも宝条博士の場合、冷徹っていうより…狂気、かな。なんだか、そんな感じ」

「……。」





神羅ビルで会った時から、怖いと思った。
なにより、人として外れすぎている。

もう会わなくて済むのなら会いたくないけれど。

でもきっと、いつかあの人とも…何かケリをつけなきゃならないのかもしれない。





「…なんか、ごめん。やめよっか。って、あたしから振った話だけど…」

「ああ。あんたがしたくないなら、やめていい」

「うん…。折角綺麗な景色だし、そういうの楽しもう」





そう言ってあたしは海に目を向けた。

オレンジの、海。
夕陽が沈んで、一面が染まってる。





「夕陽の沈む海って、こんなに綺麗だったんだね」





いくら見ていても飽きない。
思わず見惚れてしまう、そんな景色。

静かで、波の音だけが心地よくて。

自然と穏やかな、ほっと表情も和らいでいく。





「…旅の中、あんたは行く先々で、色んなものを楽しそうに見てる」

「あはは、うん、そうかも。実際楽しいし。初めて見るものばかりだもん」





掛けられた言葉にクラウドに夕陽から視線を戻して、頷く。

ミッドガルは、不便はないんだよね。
プレートの上なら、なおの事。

でも、思い知る。
一歩踏み出せば、世界はこんなにも広い。





「大変な旅だって、わかってる。でも、あたし…楽しみながら旅、したいな。重苦しい気持ちにばかり、目がいかないように…。楽しいとか、嬉しいとか…、そういう気持ち、大事にしたい。だから、皆と笑って旅したい。皆に笑って欲しいから」





きっと今、皆は色んなことを思ってる。

神羅のこと、黒マントたちのこと、宝条博士のこと。
それから、過去のこと。

それぞれ、抱えてるものがある。

それは辛くて、消せなくて。

あたしには、想像しか出来ない。
寄り添う事しか出来ない。

でも、今、傍にいる。





「今と…今を積み重ねた未来が、楽しいものであるように。笑って、旅したい…」

「笑う門には福来る、だな」

「うん!」





ミッドガルにいた時、あたしが言った言葉。
クラウドは、ちゃんと覚えてくれている。

ああ、それだけでなんだか嬉しい…。





「クラウドも、だからね」

「え…?」

「あは、当然でしょ?」





そう言ってあたしは笑った。

笑って欲しい。
クラウドに。





「あ…」





その時、掘り進めていたトンネルの中が少し柔くなったのを感じた。

もう少しで中、繋がるかな?

ラストスパート。
手を掻いて、クラウドとふたり、奥へ奥へ掘り進める。

すると、ぼろっと小さな塊が崩れて、掻くものが無くなった。

その時、ちょん…とクラウドの指先が触れた。





「やった!繋がったね!」





喜んで、確かめるフリ。
触れた指先をきゅっと少しだけ握った。

えへへ…どさくさです、どさくさ。

勿論、すぐ離そうとした。

でも…。





「…ああ、そうだな」

「…!」





クラウドの方からも、きゅっと握り返された。

いや、握り直す…に近いかもしれない。
指先だけじゃなくて、手を…握る。

思わず、一瞬固まった。

え、え…と…。

クラウドは山に目を向けていた。
砂の山に隠れて見えない、トンネルの中。

でも、確かに伝わる…その温度。
いつもあるグローブ、無いから…。

…いい、のかな…。

少し、欲が覗く。

あたしも…また、きゅっと…握り返した。

そんなに長い時間じゃない。
ほんの、数秒の話。

ゆっくり、離れていく。

そしてクラウドは、立ち上がった。





「そ、そろそろ戻るか…」

「あ、うん…」





こっちを見ない。
少し、泳ぐ視線。

クラウドはくるりと背を向け、歩き出す。

あたしはそっと、触れていた手に触れた。

少しずつ、消えていく温度が…名残惜しくて…。

え、ていうか夢…?
あたしの妄想…?むしろそう疑うくらい…。

…穴、繋がったの、確かめてた…だけ?





「……。」





ただ、心臓だけ…とくんとくんと、早く音が響いてた。





「おう、もう行くのか」





ビーチに続く階段のところにはバレットが座っていた。

クラウドと一緒に戻ってくると、そう声を掛けられる。
クラウドは「ああ」と頷いた。

戻っているのは皆からも見えただろう。

少し待つと、皆も階段のところに向かってくるのが見えた。





「バカンスの終わり、だね」





エアリスが最後に景色を見ながら呟く。





「まあ、ち〜っと騒ぎはあったけどな」





バレットは後ろ頭を掻く。
うん…想像していたバカンスとは、ちょっと違っていたかもだけど。

それを聞いたティファは静かに笑い、そして宿の方を見る。





「ホテルに戻ろっか」

「海から遠い、シーサイド・ジョニーな」





こうしてあたしたちは、シーサイド・ジョニーへと戻った。

ジョニーは、先に戻ってきていた。
あたしたちが帰ってきた音に気付き、ジョニーは振り返る。





「みなさ〜ん!」





大きく手を振るジョニー。
でも、その体は傷らだけのボロボロ。

手を振ったことで傷んだらしい。
ジョニーは「うっ…」とその場に蹲った。





「ジョニー、大丈夫なの!?」





心配したティファは慌てて駆け寄る。
ジョニーは何でもないように笑い、あたしたちに両手を広げて見せた。





「このくらい平気です!」

「おかげで助かった」

「うん。いい仕事してくれたよ。ありがと、ジョニー」





クラウドとあたしはそう声を掛けた。

だって今回は勝てたのは、ユフィと、それにジョニーが頑張ってくれたおかげだし。
それは絶対。間違いなかったから。

そんなお礼を聞いたジョニーは、どこか気まずそうに口を開いた。





「その…実は、俺の大活躍を見てた女の子たちが教えてくれたんです。ホテルや、カポノ市長のこと…。俺、騙されてたのになんも見えてなくて…」





どうやらジョニーは気が付いたらしい。

自分が騙されて、このホテルを買ったこと。
そして、カポノ市長はやっぱり悪党だったこと。





「お金…借りてるんだよね。返すあてはあるの?」





ティファは心配そうに尋ねる。
カポノ市長が悪党だとわかったところで、借金は無くならないだろう。

でも、それに答えるジョニーの顔はそう重苦しくはなかった。





「それが、街を救ったヒーローをカモにするなら、アンタの悪事、世界中に広めてやる〜!って、女の子たちが市長に詰め寄って、気づいたら全部チャラ!」





…なんと!

それはまさかの展開。
女の子たち、強し…!

でも、やっぱり見てて気分のいいものじゃなかったし…。
なんとかなったなら良かった。

その知らせには、素直にホッとした。





「コスタの英雄、ジョニー!必ずや、シーサイド・ジョニーを7つ星のホテルにしてみせます!」





今のところは、星なしジョニー。
でも、目一杯のおもてなしを受けて、あたしたちはその夜をシーサイド・ジョニーで過ごしたのだった。



To be continued


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