晴天のヘキレキ
「宝条…」
エアリスが呟く。
その声でこちらに気が付いた、宝条博士。
「なんだ、君達も来ていたのかね」
ひとつに束ねた黒髪。
ビーチに似合わない白衣。
レッドXIIIが唸った意味がわかった。
突如としてビーチに現れたのは、水着の女性たちを引き連れた宝条博士だった。
「ああ、今日の目的はエアリスじゃない」
エアリスを庇う様に前に出たクラウド。
それを見た宝条博士はそうじゃないと首を横に振る。
「もちろん、協力してくれるというなら歓迎するがね」
「お断りします」
エアリスはきっぱりした声で断った。
あたしはそんな彼女の手を取り、ぎゅっと握りしめる。
それは大丈夫、と意味を込めて。
エアリスも宝条博士を睨みながら、ぎゅっと握り返してくれた。
「それより…これから私の見世物がはじまる。君も参加するかね?」
そう言って宝条博士は不気味に笑う。
そしてジョニーの案内で、ビーチの奥の方へと歩いて行く。
ジョニーや周りのお姉さんたちは、カポノ市長による神羅重役のおもてなし…ってところなのかな。
それにしたって白衣の男に水着の女子がくっついて回っているのはなんだか凄く浮いた光景だった…。
「どうだ、私の助手にならんかね?生活は神羅カンパニーが生涯保障しよう」
「ええ〜、どうしよう〜?」
「今考えている実験には、女の助手が必要でね。フフフフ…そう、新たなる英雄の創造だ」
「さっすが博士〜!」
「英雄には万人がひれ伏す美しさが必要なのだ。英雄は資質や功績だけでなく、印象に対して与えられる称号だからな。君に、理解できるかね?」
「よくわかんないけど、すご〜い!」
聞こえてくる異様な会話。
女の子たちは多分意味なんてわからずにただ褒めているだけ。
でも…女の助手が必要って…。
英雄の、創造…?
意味がわからない…。
でも、多分倫理に外れた…とんでもはない話をしている気がする。
だってあの人は、神羅ビルで捕えていたエアリスに対し、繁殖だの…胸糞の悪いことを平然と口にしていた。
あの時の会議、思い出すだけで反吐が出る。
「よ〜うこそいらっしゃいました、博士!娘たちは気に入っていただけましたか!」
宝条博士はビーチの一角にある、屋根付のスペースで椅子に寝そべっていた。
カポノ市長まで来て、そのおもてなしはとんでもなく手厚い。
ジョニーは傍らにつき、大きな葉を使って宝条博士を仰いでる…。
クラウドはその異様な空間に近づいていく。
とりあえず、エアリスは近づけないように…。
でもクラウドも心配だから、あたしはクラウドについていった。
「君も呼ばれてきたのだろう」
「なんの話だ」
クラウドに気付いた宝条博士は声を掛ける。
その顔は妖しく笑っていた。
「フフフ…自覚がないのか。見たまえ、君の兄弟たちも集まってきたぞ」
そう言って宝条博士が見たのはビーチにいる黒マントたち。
黒マントたちが、クラウドの兄弟…?
何言ってんだ、この博士…。
すると博士はジョニーに何か指示を出す。
それを見たジョニーは、おもてなしの女の子たちに言う。
「並べろ!」
「「「は〜い!」」」
女の子たちは黒マントたちの元へ駆け出していく。
そして言われた通り、黒マントたちを一列に並べ、戻ってくる。
その異様な光景に、皆もこちらに来てくれた。
「おい、何する気だ?」
「さあ、実験ショーの開幕だ!」
バレットが聞くも、聞く耳を持たない博士。
いや、今から見せると、そういう意味なのかもしれない。
宝条博士は端末のスイッチを押す。
その瞬間、海から大きな機械生物がビーチに乗り出してきた。
「なっ…」
逃げ惑うビーチにいた人々。
そしてその機械兵器は格納庫のようになっており、上部が開くとモンスターが飛び出してくる。
それは、船の中で黒マントたちと融合したモンスター。
まさか…!
「なんだよコレ!」
ジョニーや女の子たちも狼狽える。
どうやら何が起こるかまでは知らされてなかったらしい。
モンスターたちは一直線に黒マントたちにしがみつき、そして船と同じように…融合していく。
「見事だ!これぞリユニオンの力!」
ただひとりだけ、喜んでいる宝条博士。
博士がまた端末のスイッチを押すと、今度は捕獲用の機械が飛び出してきた。
それはシールドを張るように展開し、モンスターと融合した黒マントたちを次々と捕えていく。
「そうそう!この状態の検体が欲しかったのだよ!」
「きっさまあああ!!」
「バレット!」
あまりに非人道的な所業。
殴りかかろうとしたバレットとエアリスが必死に止める。
「皆を助けよう」
エアリスは凛とした声で呼び掛ける。
まだビーチには大勢人がいる。
早く何とかしないとあの人たちも危ない。
あたしたちは急いで救出に向かった。
でも、あれ…ちょっと待って。
あたし今、剣持ってないよね!?
「く、クラウド!!」
走っていくクラウドに慌てて呼びかける。
だってクラウドも持ってないじゃん!
クラウドはいつもの癖で背中に手を伸ばしていた。
でもスカッ…と掴めるものはない。
そこで彼も剣は宿でお留守番してることを思い出したらしい。
「ええとええと…!…あっ!」
その時、あたしは傍に立て掛けられいてるビーチパラソルに気が付いた。
っ、なにも無いよりはマシ!
マテリアはあるし、なんとかなる!!
あたしは急いでそれを掴み、ビーチに走った。
そして通り過ぎ様、クラウドに呼び掛ける。
「クラウド!これ!」
あたしはパラソルを見せて先に向かった。
クラウドも傍に落ちていたパラソルを使うみたいだ。
「はあっ…!」
モンスターは大きく分けて三か所に固まっていた。
エアリスとバレット、ティファとレッドXIIIが組んで、ふたつは対応してくれる。
だからあたしが走ったのは、残りのひとつ。
振り回し、ボスッと当たるビーチパラソル。
棒術とかも心得はあるけど、これはそれとも感じ違うよなあ…。
「くっ…」
襲い掛かられ、パラソルで受け止め防御する。
弾き返すか、魔法で仕留めないと…。
そう考えていた時、バッと何かが抑えていたそのモンスターを仕留めてくれた。
「っ、クラウド」
「やるぞ、ナマエ」
「うん!」
加勢してくれたクラウドに頷き、ふたりでパラソルを構え直す。
モンスターはしぶとい。
皆のところも同じようで、どこも片がつかない。
早く片付けて皆のところに加勢に行きたいのに…!
「離して!」
「クラウド!」
その時、ティファとエアリスの悲鳴が聞こえた。
ハッと見れば、さっき黒マントたちを捕えていたのと同じ装置で皆が拘束され、連れ去られていた。
飛び上がり、そのまま船へと攫われていく皆。
「これはいい、古代種まで捕獲できるとは!あらためて歓迎するよ、エアリス!それに、新しい検体か…悪くない。君、英雄の創造に興味は無いかね?」
宝条博士の声。
ほんっとに…胸糞が悪い…!
エアリスやティファだけじゃない。
レッドXIIIやバレットも。
皆捕らわれてしまう。
「クラウド!」
「ああ!」
あたしは魔法を放ち、モンスターを妨害した。
そしてその隙に皆を助けるべく、クラウドと走り出す。
でも、その前にまた新たに立ちはだかる機械生物。
ああ、もう…邪魔!!
「まとめて実験に使ってやろう。無駄な抵抗はやめたまえ」
誰があんたなんかの実験に使われるもんか…!!
神経を逆なでる様な宝条博士の声を聞き流しつつ、なんとか機械生物を攻撃していく。
でも、やっぱりパラソルじゃ調子でないよ…。
それに、捕獲装置が厄介すぎる。
まるでミサイルみたいに飛んできて、一瞬でも隙を見せれば、パッとシールドを展開されてしまう。
「っう…クラウド…!!」
「ナマエ!!」
やばっ…捕まった…!
シールドを展開されると、手も足も何も動かせなくなる。
そのまま飛び上がり、船の方へと連れていかれる。
クラウド…ごめん…!
クラウドは助けようと追いかけてくれた。
でもその隙をつかれて、クラウドにも捕獲装置が飛んでくる。
「くっ…」
クラウドの周りにもシールドが展開される。
身動きできなくなるクラウド。
クラウドも、捕まっちゃった…。
「これで全員か。そろそろ引き上げるとしよう」
あっけらかんと言う宝条博士の声。
もう、ダメ…。
そう思ったその時、どこからか強気な女の子の声が響いた。
「そうはいかないよ!」
その声と同時に、ガンッと何かがあたしとクラウドの捕獲装置を破壊した。
くるくると飛んでいく…。
あれは、手裏剣…!?
機械が壊れ、体に自由が戻る。
でも空中で投げ出され、為す術なくあたしとクラウドはビーチに落とされた。
「いたっ…!」
「ナマエ!」
ドサッと砂浜に落ちた。
体が動かなかったから受け身が全然取れなかった。
そこにクラウドが駆け寄ってきてくれて、気遣う様に肩に触れてくれた。
でも、今の手裏剣って…!
そう思いあたしたちは手裏剣が戻っていく先を見る。
華麗にそれをキャッチしたのは…。
「お呼びじゃなかった?」
「ユフィ!」
「いや、助かった!」
助けてくれたのはユフィだった。
ユフィ…!
凄い!ナイスタイミング!ファインプレー!!
お礼を聞くと、ユフィは少し照れくさそうにする。
でも、ここでうかうかはしていられない。
「このまま戦ってもキリがない。アタシに考えがあるから、時間稼ぎ、ヨロシクね!」
ユフィはそう言い残すと、どこかに走っていった。
時間稼ぎ…。
考えってなんだろう…。
でも、なんにせよ…。
「やるしかないよね…」
「ああ。やるぞ」
よし、もう1回!
あたしたちは再びパラソルを手に、機械生物と戦った。
ユフィ…!
出来るだけ早く頼むよ!!
もう掴まるのは絶対御免だ!
「はあ…っ」
戦い続けて、少しずつ息が荒くなっていく。
でも、踏ん張らないと…。
そうパラソルを構え直したその時、遠くからジョニーの声が聞こえた。
「うおおおおお!!」
声の方を見ると、そこには黒マントを背負ってこちらに走ってくるジョニーの姿があった。
えっ、ちょ…何してんの…!?
こっち来たら危ないし…!
「ちょ、ジョニー…!」
あたしはジョニーを止めようとした。
でも次の瞬間、目を疑った。
「へっ…」
走ってくる…。
ジョニーが…1、2、3、4、5…!?
一斉に走ってくる、沢山のジョニー。
え、えっ、な、何!?
全員黒マントを背負ってる。
だからか、捕獲装置が一斉にジョニーたちに向かっていって…。
「かかったな!」
ジョニーたちに捕獲シールドが展開した瞬間、高らかに聞こえたユフィの声。
ユフィは宝条博士たちがいる場所の屋根の上に乗っていた。
そして器用に指を操り、忍術を発動させる。
「あっ…」
その時、ひとりのジョニーを残し、他は全部モーグリの人形に変わった。
増えたジョニーって、もしかしてユフィの忍術だったって事…!?
そしてユフィはまた、高らかに叫ぶ。
「忍法、晴天のヘキレキ!!」
捕獲装置が捕えたモーグリ人形。
ユフィが叫んだ瞬間、そのポンポンから光が放たれ、機械生物も降り注ぐ。
あっ…これ、倒せる…!
ていうか爆発する…!
「わっ!わっ!わっ!わあああああああ!!!!」
それを察した本物のジョニーは慌てて逃げ帰る。
「ナマエ…!」
「っ…」
クラウドはあたしを庇う様に前に出てくれた。
ドンッ…!!!
爆発の衝撃。
ビーチの砂がブワッと舞う。
ジョニーはちょっと吹っ飛んで、ビタッと砂浜に倒れこんだ。
「クラウド、ありがと…終わった…?」
「ああ…」
あたしとクラウドは爆発した機械生物を見る。
うん…粉々に、吹っ飛んでる…。
「おそまつ!」
屋根の上でユフィはそう言って煙玉を放つ。
気が付いて見れば、その姿は消えていた。
「ユフィ…ありがと…」
もう届かないだろうけど、あたしはそう口にする。
ううん、また次に会った時、ちゃんと伝えよう。
あの機械生物を倒したことで、捕まった皆も脱出できたらしい。
こうしてビーチでの戦いは一段落したのだった。
To be continued
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