太陽の楽園



明朝、船は予定通りコスタ・デル・ソルへと到着した。

コスタ・デル・ソルと言えば、有名なリゾート観光地。
船を降りていく乗客たちの顔は、皆どこか浮かれているように見える。

出迎えてくれる現地の人たちもアロハな格好で着飾り、陽気な雰囲気に溢れていた。





「こんなチャラチャラしたところに用はねえ!さっさと通り過ぎるぞ」





バレットは船を降りながら、なんだかちょっとイラついていた。





「あいつらが動き出したらな」





クラウドはそんなバレットに冷静に返す。

あいつら。
クラウドが言うそれは勿論、黒マントたちのこと。

黒マントさんたち…このリゾート地だと、これまたかなり浮いてるな。
全身真っ黒…暑くないのかなあと、ちょっと心配になる。

そんな時、エアリスがタタッと前に出て、あたしたちの顔を見渡した。





「ねえっ!ちょっとだけ、観光してこ?だって、コスタ・デル・ソルだよ!コスタ・デル・ソルー!」





目一杯はしゃぐエアリス。
その姿にさっきさっさと通り過ぎるぞと言っていたバレットは顔をしかめていた。

でも正直、うん、あたしはエアリスに大賛成だ!





「さんせーい!コスター!デルソー!!!ふぉー!!!」

「きゃー!ナマエー!いええー!!」





あたしはエアリスに駆け寄って、ふたりで手を握ってキャーキャー…いやむしろギャーギャー騒ぐ。

その様子にバレットの眉間のしわが濃くなったのは見ないふり!!知らん知らん!

ていうか言っとくけど、ティファだって乗り気だかんな!!





「どこかで、涼ませてくれないか…暑くてたまらない…」





その時、のそ…っとレッドXIIIが出て来た。

確かに全身毛皮だし。
サンサンと太陽の降り注ぐこの地は彼にとっては地獄かもしれない。





「毛、剃っちまえよ!」





バレットのイラつきがレッドXIIIに向いた。

毛、剃っちまえて…。
思わずちょっと吹き出した。

レッドXIIIも暑さでイライラなのかバレットを睨み返してた。





「よ〜うこそ、コスタ・デル・ソルへ!わたくし、市長のカポノです!」





そんな時、こちらに近づいてくる集団に気が付いた。
それは市長だというおじさんと、おもてなしの女の人たち。

市長は女の人たちに「さっ」と指示を出した。
するとひとりひとりが近づいて来て、あたしたちの首に花の輪…確かレイって言うんだよね。それをひとつずつ掛けてくれた。





「どうぞ!」

「わ、ありがとうございます!」





全部それぞれ色が違ってる。
あたしのは、青が基調の綺麗なレイ。





「こちらはプレゼントです。これがなくては、コスタのバカンスは始まりませんからな」





市長はそう言う。
確かに、これ付けるとリゾートー!って感じがするような気がする!

あたしはちらっとクラウドを見た。

ソルジャー服に花の飾りはちょっと浮いてる?
でもなんか可愛いかも…!

あたしはこっそり、その姿を見て小さく笑ってた。





「ここは輝く太陽の楽園。天からの恵み降り注ぐ、極上リゾート。華のない日常はパア〜っと忘れて、ど〜ぞ心行くまでお楽しみください!」





市長はそう言って、また訪れた別の観光客にも声を掛けに行く。

うん、でも、まさにそうだよね。
日常をわすれてパア〜っと楽しむ!

あたしとエアリス、そしてティファは顔を合わせた。





「ん−っと、やっぱビーチ?ビーチですか?エアリスさん!ティファさん!」

「うん!ビーチ、あっちかな?」

「その前に、シャワー浴びたいな。ホテル、探そうよ」

「「うん!」」





3人で盛り上がる。

そうだ、ビーチに行くにもまずホテルを押さえないと!
ティファの提案に頷いていると、バレットが怪訝な顔でこちらを見て来る。





「泳ぐとか、言いださねえよな」

「「「……。」」」





あたしたちはバレットの顔を見た後、3人で顔を合わせる。
そしてバレットの視線からそーっと目を逸らして…。





「言ってるな?それ、言ってるよな?」





バレットの小言から逃げるように、タターッと3人で歩き出す。

聞かない聞かない。
しーらなーい!

こうしてあたしたちは結局、ちょっとコスタ・デル・ソルを満喫することにしたのでした。





「んーっと、コスタのホテルと言えば、ロイヤルコーストとコスタ・デル・ソル・リゾートのふたつが有名なんだって」





まず、観光スタッフさんにホテルの事を聞いた。

有名なホテルはロイヤルコーストとコスタ・デル・ソル・リゾート。
でもこのふたつを含め、他のホテルもきっと満室で、飛び込みでの宿泊は難しいとの話だった。

まあでもとりあえず、行くだけは行ってみる…?ということで。

あたしたちはロイヤルコースト、コスタ・デル・ソル・リゾートのふたつを探してみる事にした。





「えーと、ロイヤル・コーストは…と、ん?あれ?ねえ、クラウド」

「どうした」





ホテルを探してる途中、なんだか見覚えのある後ろ姿を見つけた。
いや、いつもと格好は違うんだけど。

あたしはクラウドの肩を叩いてそれを指さす。
するとクラウドも「ああ」と納得していた。





「ユフィ〜!」

「ん?ああ、ナマエ!とクラウドじゃん」





声を掛けると振り返る。
そこにいたのは水着姿でアイスを握り締めているユフィだった。

おーう…すっかりリゾート満喫してるじゃん。





「あ、ユフィ、そのアイスいいなー、美味しい?」

「うん、美味しいよ。ナマエも食べれば?クラウドも食べる?あっ、それともナンパ〜?ヒュ〜ヒュ〜!水着姿がキュートだね〜って?」





あたしがアイスの屋台を見ている一方で、クラウドにふざけて絡んでるユフィ。

いつもの割増しでテンション高い?
まあでもこのリゾートの空気ならそれもわからなくもない。

うん、水着もいいなー。
やっぱリゾート来たらそういうの醍醐味だよねー!

すると、どうやらクラウドもそう思った様子?





「ああ、そうだな」





意外にもクラウドは、ユフィの事をすんなり褒めた。

おお…褒めた。
ユフィの方もちょっと面を喰らったらしい。





「な、なんだよ、意外と見る目あんじゃん?ねえ、アタシを仲間にする気ない?なんなりと、役に立っちゃうよ?ね!ナマエもアタシが仲間になったら嬉しいよね!」

「へっ?」





自分を売り込んできたユフィ。

急に言われてきょとんとする。

でもそれってつまり、ユフィ自身はこっちの仲間に加わりたいってこと?
まあウータイだって言うんなら、神羅の敵で、利害的には一致してるんだろうけど。





「ナマエ、そろそろ行くぞ。ホテル、探すんだろ?」

「え、あ、うん。じゃね、ユフィ」





ちょっと皆から離れちゃったし、確かにそろそろ行かないと。
あたしは軽く手を振り、クラウドとその場を後にする。

その背中に「ちゃんと考えといてよー!」ってユフィの声が響いた。

うーん、ユフィが仲間に…。

まあルーファウスの襲撃時を見るに、手裏剣の腕はなかなかそうだったけど。
だってあの時、もしハイデッカーが気が付かなかったらきっとルーファウスは…。

まあ、多分…クラウドがどう思うか次第?
今のところ、あんまり興味なさそうだけど…。





「でもいいなー。カームでもちょっと食べ歩きとかしたけど、コスタも色々珍しいのありそう!」

「食べ歩き?ああ、飴持ってたな」





皆を追い掛けながらも、街の様子を見る。

満喫してるユフィを見てたらいいなーってなったし。

カームでの飴…。
まあ舐めてたら神羅に制圧されて最終的に噛み砕く羽目になりましたけども!





「飴もだけどー、他にも色々!って、食べてばっかじゃなくて他のショップも見てるからね!?」





雑誌を見て、カームで回ったお店。
思い出しながら、色々と話していく。

すると、クラウドの反応は意外にも好感触だった。




「…へえ、そんなのあったのか。楽しそうだな。俺も少し気になる」

「あれ?興味あった?じゃあ一緒に回っても良かったのかな。あたしの趣味全開にクラウド振り回すのどうかと思ってたから」

「え…」

「ん?」





今、え…ってなるとこあった?
不思議に思ってクラウドの顔を見上げる。





「…別行動、そういうこと、だったのか?」

「え?うん?」





カームで武器屋を見た後、クラウドと別行動した時の話。
何か考え込む様子のクラウド。

…んん?





「…そうか」





そしてそう呟く。

なんか…嬉しそう?
なにゆえ…?

なんかよくわからんけど…嬉しそうならいい、のか?

まあ、そんなこんなで、あたしたちはホテル探しを再開した。





「本日は、ご予約のお客様のみのご案内となっております。またのお越しをおまちしております」





案内を見ながら見つけた、ロイヤルコーストとコスタ・デル・ソル・リゾート。

でもまあ案の定、そのどちらとも、やっぱり宿泊は出来なかった。

うーん…まあ、わかっちゃいたけれど。
もしかしたらキャンセルとかー…なーんて淡い期待してたんだけど、そんな上手くはいかないよね。

さて、どうしたものか。

そう悩んでいた時、突然、どこからか騒がしい声が響いてきた。





「ティファ!兄貴〜!ティファ〜!!」





え、幻聴?
一瞬それを疑う。

いやでもはっきり聞こえた。
ティファを2回呼んだことでなんか主張が凄かった…。

しかも加えて兄貴呼び。

こ、この声は…まさか。

おそるおそる振り返ると、そこにはブンブンと大きく手を振ってこちらに走ってくるジョニーの姿があった。





「あっ、嘘!ジョニー?」

「やっぱりお前か!!」





驚いたように声を上げたティファと、予想的中で思わず指を差してしまったあたし。
クラウドも驚いていたけど兄貴呼びにちょっと顔をしかめてた。





「おう、なんだナマエ、お前もいたのか」

「あたしオマケ!?」





なんか失礼なやっちゃ…。
まああたしもジョニーの扱いは雑だし、この辺はお互い様ではあるんだけども…。

でもまさか、こんな所でジョニーに会うとか夢にも思わないでしょ。





「皆さん、お久しぶりです!お元気そうで!」





この街に染まっているのか、いや…いつも通り?
陽気に挨拶してくるジョニーにティファはくすりと笑う。





「ジョニーも。ここで何してるの?」

「男ジョニー。一世一代の大勝負!ホテルのオーナーになったんだよ、俺!」





ホテルのオーナー!?
意外な返しにちょっとどよめく。

でも多分、その反応の中には期待の声も含まれていた様に思う。





「つっても、ちっこいホテルだけどな」

「ちょうど、休める場所、探してたの。行ってもいい?」





小さくてもツイてる!
多分そう思ったであろうエアリスは早速ジョニーに頼む。





「うおお!願っても無い申し出!大、大、大っ歓迎です!」





空き、あるんだ…。
ジョニーのその返事に、エアリスとティファは嬉しそうに顔を合わせる。





「実はオープン以来、お客ゼロで!へへっ…」





ジョニーはどこか、照れくさそうに笑う。
え、いつからやってるのかは知らないけど…お客ゼロ…?





「…なんか、嫌な予感がする…」

「…そうだな」





ぼそっと呟いたら、傍にいたクラウドが小さく答えてくれた。
…やっぱり、だよね…?

バレットもティファに「大丈夫かよ」と不安を訴えていたけど、それはジョニーにも聞こえたらしい。





「ヤだなあ。俺たちの仲じゃないですか。遠慮は無用ですって!」





そう言いながらパシッとバレットの腕と叩くジョニー。
いや、遠慮とかそう言う話ではないんだけども…。





「んじゃ、さっそく向かいましょう!」





ジョニーは意気揚々と歩き出す。





「あ、おい!」





不穏さを感じたクラウドが慌てて呼び止めるも、ジョニーはそんなの気にしちゃいない。





「ほら、早く早く!」





駄目だアレ…。

手招きして走っていくジョニー。
これはもう、行ってみるしかないやつじゃん…。

まあでも…今日のお宿が無いのは事実なワケで…。

それなら、行ってみるのもありなのかなあ…。





「迷子にならないように、ちゃんとついてきて下さいねー!買ったばかりなんで、ちょっと散らかってますけど、なかなかいい感じなんですよ〜!」





走りながら、ジョニーは相変わらずペラペラと色々喋ってた。
…その口の軽さが、ミッドガルを出ることになった原因だって…ジョニーが気付く日はくるのかなあ。

まあなんでも、意を決してミッドガルを出たものの…職無し、金無し、彼女無しの八方塞がり。
ゴミくずよろしく路地裏に転がってたら、カポノ市長に声を掛けられて、仕事がないならって特別に格安物件を紹介してくれたとかなんとか。

売値は相場の半分。
そのうえ、融資までしてもらったらしい。





「く、クラウド…。なんか…聞けば聞くほど大丈夫なのかって不安になるんだけど…」

「…心配するな」

「う…?」

「…俺も同じだ」





ついて行きながら、こそこそとクラウドと話す。

わー、心配するなってそっち…。

いやでもそうだよね?
やっぱそう思うよね?

だって話がうますぎるというか…。
それで、借金してるってことでしょ…?

何だかモヤモヤが取れない。
そんな気持ちを抱えつつも、あたしたちはジョニーのホテルに向かったのだった。



To be continued


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