船を襲うモンスター
二等室の寝具はハンモックだった。
ティファとエアリスと同じ部屋に入ったあたしは、3人並んでハンモックに横になり、少し話をした後眠りについた。
眠って、どれくらい経った頃だろう?
耳に、ブーブーという警報音が響いてきた。
「なに…?」
目が覚める。
瞼を擦って横を見ると、ティファとエアリスも同じように音に気付いて起きていた。
警報音は今も鳴り響いている。
『船長のチトフです。緊急事態が発生いたしました!お客様は船室にお戻りください。神羅軍関係者は至急甲板まで集合願います』
警報音と共に、船長のアナウンスも流れてきた。
神羅軍関係者って、もしや…。
「これ、あたしたちのこと…?」
ふたりに聞いてみる。
だってあたしたち、神羅兵としてここに乗り込んだし。
もしかしたらそれゆえの放送かなーとね…。
「うん。かも」
「外、出てみようか」
頷いてくれたエアリス。
出てみようと言ったティファは一番にハンモックを下り、扉の方に向かう。
あたしとエアリスもそれに続き、3人で客室を出た。
「来てくれたか!急げ、こっちだ!」
クルーの人に誘導されるまま、ラウンジの方に向かうとそこには船長が待っていた。
クラウドたちも先に来ている。
あたしたちも急いで駆け付け、皆で船長から説明を聞いた。
「船がモンスターに囲まれてしまった。とんでもない数だ!頼む、なんとかしてくれ」
「ああ、わかった」
クラウドは退治を引き受ける。
本当は軍関係者じゃないけど、断る理由はないよね。
もし船が沈んでしまったら一大事だ。
「私は逃げ遅れた客がいないか見回りに行く。誰か…君、手伝ってくれるか」
「行きます」
「ありがとう。こっちだ」
船長はティファに同行を依頼し、客室の方に戻っていく。
となれば、残ったあたしたちは周りのモンスターの退治だ。
でもそこで気が付く。
あれ、バレットがいない?
「レッド、バレットは?」
「寝ている」
「あ、そう…」
レッドXIIIに聞いたら短くそう返された。
これは…大イビキかいて起きなかったやつですね…。
容易に想像がつく。
まあ、それなら仕方ない。
あたし、クラウド、レッドXIII、エアリスは急いで甲板の方に向かった。
「うっわ!めっちゃわらわらいる!!」
外に出ると、そこには沢山のモンスターが乗り込んできていた。
これは確かに一大事の緊急事態!!
「来るぞ!!」
クラウドに注意を促され、あたしたちは武器を構える。
そして次から次へと襲い掛かってくるモンスターたちをひたすら倒していった。
でも、あまりに数が多い。
頑張って抑えてたけど、隙をつかれて船内への侵入を許してしまう。
「クラウド、ナマエ!先に行け!」
レッドが咄嗟にあたしとクラウドに言う。
こちらはエアリスとふたりで数を減らすからと。
迷ってる暇はない。
こうしてる間にも、モンスターは侵入していく。
「ナマエ、行くぞ!」
「うん!」
あたしとクラウドはすぐに船内へ駆け出した。
「ヒイッ…!」
船内ではクルーの人が襲われ、逃げ惑っていた。
あたしたちはすぐに駆けつけ、そのモンスターを退治する。
怪我、してなきゃいいんだけど…。
あたしとクラウドは物陰に避難したそのクルーの人に近づいた。
「大丈夫か」
「怪我してたら回復しますので、仰ってください」
「はい、大丈夫です…。でも、客室にモンスターが…」
クルーの人は震える指で客室に続く扉を指さした。
扉は歪み、壊されてしまっていた。
最悪の展開…。
早く助けに行かないと。
あたしとクラウドは急いで客室の方に降りる。
そこではティファがひとりでモンスターと戦っていた。
「ティファ!」
「大丈夫!?今助けるから!」
「クラウド、ナマエ、お願い!」
ティファに加勢し、3人でモンスターを片付ける。
「状況は?」
「モンスターがかなり入り込んだと思う」
「船長は?」
「武器を取りに行くって別れたきり…。無事だと良いけど…」
クラウドが尋ねると、今の状況を簡潔に教えてくれるティファ。
あたしは近くにある扉に目を向けた。
「ここの扉も壊されてる…」
先程と同様、中の扉も歪んで壊されている。
この奥にもモンスターが入り込んでいるという事。
あたしたちはまた急いで中へと向かう。
「クラウド、ナマエ、あれ!」
走りながら、ティファが奥を指さした。
そこには倒れている数名の黒マントと、それに襲い掛かるモンスター。
「うあ、あああ…っ」
黒マントたちは苦しそうに呻く。
でも、何か様子が変だった。
これ…襲われてるというより…。
「えっ…嘘、嘘…嘘…?!」
目の前の光景に思わず狼狽える。
モンスターと黒マント…。
ふたつは交じり合って…ひとつになる。
これは、襲われてるというより、融合…!?
多分、もう戻れない。
黒マントさんたち、倒さなきゃダメなの…!?
でも、迷ってたら乗客たちが危ない。
あたしたちは戦い、その融合してしまった存在を倒した。
「モンスターの狙いは、黒マントかもしれない」
クラウドは静かに言う。
狙いは、黒マント…?
黒マントたちがいると知って、船を襲ってきた…?
それはひとつの考察。
でも今は、考えるには時間も情報も足りなさすぎる。
その時、奥の方から聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。
「バレットか」
「ティファー、バレット放送で起きなかったらしいよ。でも、この騒ぎじゃ流石に起きたか」
「あはは…ああ、だからさっきいなかったんだ。早く合流しないとね。行こう」
ひとりで戦ってるなら、とにかく早く合流しないと。
また奥へと続く扉は壊されている。
この先は船倉だったはず…。
中に入ると、またバレットの声が聞こえた。
「黒マント、どこだあ!」
姿が見えた。
バレットも奥に向かってるみたい。
あたしたちは急いでバレットを追いかける。
やっと追いつくと、バレットは船倉の最奥でひとり黒マントたちを守ってモンスターと戦っていた。
「バレット!」
ティファが背中に声を掛ける。
バレットもこちらに気付き、振り返った。
「おう、来たか!こいつら襲われるってのに、逃げもしねえ」
ここには数人の黒マントたちがいる。
バレットはそんな彼らに目を向けた。
でもその時、上の方から声がした。
「そいつらから離れろ!」
大きな声。
ハッと見上げれば、そこにいたのは銃を構えるチトフ船長だった。
「その連中はモンスターと融合して、より危険な存在に変化するらしい。私の職権で、全員処分する」
全員、処分…!?
まさか撃ち殺すってこと…!?
「おい、待て!」
バレットが慌てて止めようとする。
でも間に合わない。
無情にもチトフ船長は引き金を引き、黒マントがその場に倒れた。
「ちょっ、ちょちょ…!」
その時、それを見たひとりの黒マントが慌てふためき出した。
え、なに。
そう思った瞬間、その黒マントはバッとマントを脱ぎ捨てる。
「無実!アタシは無実!!」
その正体はユフィだった。
ユフィ…!
黒マントに紛れて船に乗ってたの!?
ユフィは慌てて船長に自分は違うと訴える。
でも今の船長からすれば、疑わしきは全て排除?
チャッ…と構えられた銃口。
「ユフィ!!」
クラウドはユフィを守るように、慌てて自分の方に抱き寄せた。
弾はユフィには当たらず、奥にいた黒マントが撃ち抜かれる。
「かん…いっぱつ…」
助けられたユフィは呆然と呟く。
全員、撃ち抜かれた黒マントたち。
船長はそこで銃口を下ろした。
「私には、乗客を守る責任がある…」
確かに、その判断は間違ってないんだと思う。
乗客たちを守る…。
その責任を、あの人は全うしただけ…。
船長は引き返していく。
ユフィは、大丈夫そうだ…。
クラウドにしがみつき、隠れていたユフィは「はあ…」と息をつく。
守っていたクラウドもまた同じように安堵していた。
「ユフィ、大丈夫?」
「うん…なんとかー…」
あたしはユフィに近づき、声を掛けた。
ユフィはぐったりしながらも頷く。
でもその時、あたしたちは目の端で何かが動くのを見た。
恐る恐る、ふたりで目を向ける。
そしてその光景に、ふたりでおののいた。
「ク、クラウド…!」
「あっ、あああ…あれ!見て見て見て!」
あたしはクラウドに呼び掛け、ユフィもしがみついたままだったクラウドの手を引いて揺らす。
あたし達が見たもの。
それは撃たれたはずの黒マントたちが一斉に動き出し、集まっていく光景。
「時は…満ちた…」
「リユ……オ…ン…」
黒マントたちは何かぶつぶつ呟いてる。
集まって、折り重なって…。
そして、ぱあっ!と何かが弾ける。
「っ…!」
思わず目を瞑る。
でもそうして次に開いた時、集まっていた黒マントたちは、何かひとつの存在へと変化していた。
「なにこれ…カンベンしてよぉ〜!!」
ユフィは声を震わせ、クラウドの腕を放してその場から逃げていく。
でも、気持ちはわかる。
これ…多分、すっごくまずい…。
なんだろう、この気配…。
前にも感じたことのある…。
前に感じたのは…神羅ビル…?
「セフィロス!」
その時、クラウドがその名を口にした。
そこであたしたちも気が付く。
渦巻く力。
その中に浮かぶ、ひとりのシルエット。
長い髪、黒コート。
そして手に握られているのは、何かの…腕…?
「かつて、怪物がいた。その怪物は人の心を読み、姿を変えた。恐れる顔、愛する顔を見せて、人を動かしたという。その怪物の名は…ジェノバ」
冷たい、静かな声。
セフィロスはそう語り、その瞬間、あたしたちを強大な風のような力が襲う。
そして、セフィロスの姿は消えた。
代わりにそこに現れたのは、強大な怪物。
きっと、神羅ビルで戦ったものと同じ…ジェノバ。
「ナマエ、出れるな」
「っ…大丈夫」
クラウドに声を掛けられる。
その声に少しだけハッとして、あたしは剣を構えて頷く。
戦う。戦わなきゃ。
意を決したようにクラウドの目を見て、クラウドも同じように返してくれる。
その瞬間、あたしたちは駆け出した。
うごめくジェノバ。
神羅ビルの時同様、とんでもない…一筋縄じゃいかないものだって、肌でわかる。
「ティファ!クラウドの為に隙を作る!手伝って!」
「了解!」
長期戦。
でも、少しずつ追い詰めた。
とどめの一撃。
あたしはティファに呼び掛けて、ふたりで連携して隙を生む。
それをクラウドはちゃんと、逃さなないで見てくれた。
「はあッ!!」
クラウドの剣がジェノバを貫く。
そして崩れた、ジェノバの体。
4人で戦って、なんとか抑え込めた。
「騙されるなよ、クラウド」
最後に呟いた、セフィロスの言葉。
消えて、そこに残ったのは…倒れた黒マントたち。
あたしは、恐る恐る…近づいた。
もう、動かない…。
亡くなってる…。
なんだか、いたたまれない…。
「クラウド…」
その時、クラウドを気遣うティファの声がした。
振り向くと、クラウドは剣を仕舞う。
そして…。
「ああ、騙されるものか」
そう一言残し、クラウドは先に船倉を出ていく。
騙すって…なんだろう。
クラウドの背中を、あたしは見つめる。
ティファとバレットも、同じように見つめていた。
『船長のチトフです。お騒がせしていました艦内のトラブルは、先程無事収束いたしました。現在本艦は航路を戻し、順調に航行中。コスタ・デル・ソルへの到着は、明朝の予定です。輝く太陽の下での素晴らしい休日を夢見て、今夜はどうぞ、ごゆっくりとお休みください』
船長の声が、船内に流れる。
事態の収束を知らせるアナウンス。
もう、モンスターの気配はない。
確かにもう、危機は去っただろう。
あたしたちは、セフィロスを追っている。
でもまさか、こんなところでジェノバと戦うことになるなんて…思ってなかった。
勝てたことに安堵する。
だけど、なんとなく…ちょっと落ち着かない、そんな気持ちだった。
To be continued
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