二本足で立つのは
連絡船第八神羅丸で行われた、クイーンズ・ブラッド大会。
結果は見事、我らがクラウドの優勝。
実況を務めていたチトフ船長は、その締めに入ろうとしていた。
「白熱した大会もファイナルラウンドを終え、ついに栄光の王者が決定しました!その名は…!」
「その宣言、待ってもらおう!カードバウトを申し込む!」
しかし、そこに割り込む声。
え、この声…?
チトフ船長が何事かと振り返ると、そこには神羅の兵士さんがひとり…。
…って、お尻から何か長いのが出ていらっしゃるんですけど…!?
「く、クラウド…」
「ああ…」
隣にいるクラウドに声を掛ける。
クラウドも察していた。
いやま…わかるよね…。
神羅兵の服に身を包んだ彼…は二本足で華麗なダンスを披露する。
いや凄いな、そんな二本足で立てたんかい君。
「二本足で立つのは、難しいものだな」
でもその時、びたんとその場に倒れこむ…というか四本足になる。
そして正面を向いて見えたその顔。
目元はメットで見えないけれど、その下から覗く口が…どう見ても獣のソレ。
「うええ…っ、なにあれえ…」
得体の知れない恐怖に子供が泣いている…。
隣でお母さんが「大丈夫よ」って必死でなだめてた…。
いや、あたしたちは得体わかってるんだけど。
全然怖いものではないんだけども…。
れ、レッド…。
そう、そこにいたのは神羅兵の制服を着て人間のフリをしているレッドXIIIだった。
「おっと、ここで優勝者に挑戦状が叩きつけられました!この挑戦は受け入れられるのか!挑戦者のバウトの腕はどうなのか、期待が高まります!」
船長はわりとノリノリだった。
挑戦者とか、そういうのアリなんだ…!
いや観客も盛り上がってるし、盛り上がればなんでもいいのかもしれない。
レッドは階段の上からスタッと飛び降り、クラウドとあたしの前までやってくる。
そしてまた二本足で立つと、ニッと笑みを見せた。
「レッド…」
「なにしてんのレッド…」
「普段の私が獣に見えることは否定しない。しかしこの格好ならどう見ても兵士だ。問題ないだろう」
「問題しか見えない」
「しっぽ普通に見えてるけど…」
「ふっ、それはお前たちが私を知っているからだ。先入観を捨てろ」
クラウドとあたしの突っ込みなど何のその。
まったく動じず、自信満々のレッドXIII。
いや、しっぽ見えてるの先入観関係ないよね…!?
レッドはそのまま先程までレジーが座っていた椅子に腰?を下ろす。
まあ…なんか展開として面白いというのは、正直認めますけども。
「それよりクラウド、私の挑戦を受けるのか、それとも受けないのか?」
椅子に座り、足を組むレッド。
凄いな、足とか組めるのか。
いやむしろ組んだという事はその方が楽なのか?
まあでも、問題は勝負をどうするのか。
あたしはクラウドをちらりと見た。
「受ける気はない。もう十分楽しんだからな」
「え!?受けないの!?」
まさかの拒否…!!
いや絶対受けると思ってたから、あたしは思わずビックリする。
するとクラウドはそんなあたしの反応に「え」って顔をした。
ていうか、あたしだけじゃなくて…もう周りもすっかりそういう雰囲気になってるわけで。
「クラウド、ファイト!」
「レッドも頑張って!」
「おうおう、やれやれ!」
観客に交じっていたエアリス、ティファ、バレットの声援が飛んでくる。
周りもひゅーひゅー言っている。
そんな観客たちの声に、船長も受けると解釈したようだ。
「クラウド選手、挑戦を受ける模様です!さあ、エキシビジョンマッチの開幕です!」
船長のその声に、観客たちの熱気もピークに達する。
いやまじで、下手したら決勝戦より盛り上がってるのでは…。
「あははー、クラウド、これは受けるしかないのではー?」
「はあ…」
これは背けられないでしょ、と笑えば、クラウドはため息をつく。
でもこれで覚悟は決まった様子。
クラウドはキリっとレッドに向き直る。
「いいだろう、カードバウトだ!」
スチャッ…とカードを一枚構え、それをレッドの前へと叩きつけたクラウド。
いや、クラウドもノリノリじゃん!?
こうしてクイーンズ・ブラッド大会、エキシビジョンマッチが開幕したのだった。
「さあ、はじめよう」
「やりたかったんだな…」
「もちろんだ」
戦いながら、そんな会話を交わしているふたり。
いやあ…本当、相当やりたかったんだろうな、レッド…。
最初の受付でもかなり食い下がってたし。
こうして参加出来て良かったね…。
でも、ルールは知ってるみたいだったけど、腕前ってどうなんだろう?
そう思いながらふたりの対決の行く末を追っていると、レッドの腕前はなかなかのものだった。
え、普通に強いじゃん、レッド。
これは挑戦者として申し分ないっていうか。
でも、やっぱりクラウドは強いのです。
「完敗だ…。クラウド、強いな」
勝負はついた。
結果、クラウドの勝利。
レッドXIIIは流石だと頭を下げる。
でも、レッドXIIIの腕前にはクラウドも感心していた。
「お前もな。いい勝負だった。いつの間にそんなにやりこんだんだ?」
「狩りの基本は観察だ。試合を見ていれば、ルールも定石も把握できる。あとはそれを応用してやればいい」
「なるほど。流石だな」
なんか、もっともらしい会話をしているふたり。
うーん、ややこしく言いますなあ…。
まあいつものことだけど。
そしてそのややこしさにもっともらしく納得しちゃうのもクラウドらしいのである。
「完全なる勝者は、クラウド・ストライフ!」
ともかく、これで本当に、クラウドがまごうこと無き勝者であると実証された。
席を立ったクラウドは、トロフィーを持つ船長の元へと進んでいく。
「凄まじいバウトを見せつけた、栄光の優勝トロフィーは君のものだ!」
キラキラのトロフィー。
差し出されたそれを受け取ったクラウドの顔には笑みが浮かんでいた。
あ、嬉しそう。
そしてクラウドはトロフィーを高くつき上げ、小さな鼻歌を歌う。
ファンファーレ…!
うわ、クラウドの鼻歌とか貴重…!
珍しく楽しそうなクラウドの姿にちょっとドキドキする。
だって、ちょっと可愛いじゃないか…!
「盛り上がりを見せたクイーンズ・ブラッド大会もこれにて終了となります。ご参加いただいたカードバウターの皆様、誠にありがとうございました。コスタ・デル・ソルまでは順調に航行中です。到着まで、ごゆっくりお過ごし下さい」
チトフ船長は大会の終わりを伝える。
観客たちも各々散っていき、こうしてクイーンズ・ブラッド大会は幕を閉じた。
「楽しかったね」
「そうだな」
人込みが空いたところで、あたしたちはなんとなく集まった。
駆け寄ってきたエアリスがクラウドに笑えば、クラウドも否定することなく頷く。
うん、やっぱり楽しかったみたいだ。
「レッドにはびっくり!」
「せっかくの大会だからな」
「すご〜く強かったよね、流石!」
ティファとエアリスに突かれているレッドも同じく楽しそう。
うん、こんな姿を見ていると、本当最後に遊べて良かったねって思う。
「で、どうする。船はいつ着くんだ?」
「明日だよ」
「じゃあ、到着まで寝ちまうか。流石に疲れたぜ」
船の到着は明日。
ティファにそう聞いたバレットは欠伸をしながら客室の方に向かっていく。
確かに、朝、ジュノンに乗り込んでパレードがあって…それからこの船に乗り込んで。
色々あって、やっと落ち着けたって感じだよね。
船の上だと特にやることも無いし、もうここからはゆっくりしちゃうのが良さそうだ。
「あーあ、でも決勝戦、やっぱクラウドと戦いたかったなー」
戻る途中、隣をクラウドが歩いていた。
だからあたしはそんなことを言って「ふふふ」と笑った。
まあ、それは悔しかったよねー。
折角セミファイナルまではいけたのに、あそこで負けちゃったんだもん。
「なら、今からやるか?」
すると、クラウドはそう言って足を止めた。
あたしは驚いて振り返る。
「え、今から!?まだやるの?さっきレッドとのも渋ってたじゃん?まあ、最初だけであとはノリノリだったけど」
「…別に、ノリノリじゃない」
「いやいや、こうスチャッ…カードバウトだっ!って」
「…………。」
さっきのクラウドの姿を思い出す。
あれをノリノリと言わず何と言おう。
クラウドが顔をしかめたから、あたしは思わず笑った。
クラウドは小さく息をつく。
「…俺も、決勝の相手はナマエだと思い込んでたからな」
「えっ、本当?」
「ああ。どうする?やるか?」
これは、つまり…。
クラウドもやりたかったって思ってくれてたって考えていいのかな…?
やるか?って、もう一度聞いてくれたし…。
あ、ちょっと胸がきゅうっとした。
嬉しいって、そんな気持ち。
「うん!じゃあ、やりたい!」
そう答えれば、クラウドはふっと笑って頷いてくれる。
こうしてあたしはクラウドとデッキまで引き返した。
あそこならテーブルもあるし、なにより潮風が気持ちいいし。
「じゃあ、カードバウト!」
でも、優勝者と…一応、セミファイナルまでは進めた同士のカードバウト。
ひとつ違ってたら対戦してたふたりじゃないかって、ちょっと周りがざわざわして…。
実は早めに切り上げたのは、また別の話である。
To be continued
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