信じられる並べた肩
「あんのクソ野郎ー!!待てやコラー!!」
下水道内に響き渡る自分の声。
そしてバタバタと全力ダッシュする足音。
今、あたしたちはちっさい丸々としたモンスターを全力で追いかけていた。
《大事なものなんだ!ここの鍵が入ってる》
事はコルネオの隠れ家の扉の前まで来た時に起こった。
突然、どこからか現れたモンスターがレズリーに向かって体当たりしてきた。
その拍子に懐から飛んでしまった小袋を奪い去りモンスターは逃走。
運の悪いことにその小袋の中には扉の鍵が入っていたという。
そうとなれば追いかけるしかない。
そんなこんなでモンスターとの下水道鬼ごっこがはじまってしまった。
「逃がすかあ!!クラウド!」
「任せろ」
相手はすばしっこかった。
でもなんとか行き止まりまで追い詰めて、最後はバトルで仕留める。
狙って隙を作れば、クラウドはしっかりとトドメを刺してくれた。
さっすがクラウド〜!
きちっと決めてくれてキュンキュンである。
でも、奪っていったモンスターは前にここで戦ったアレの子供っぽかったから…まあつまりはコルネオのせいだ。
やっぱあのゲス野郎…絶対ぎゃふんと言わせてやる。
あたしはひとり、誓いを強くした。
「……。」
クラウドはモンスターの手から離れた小袋を拾い上げた。
でも、その中身は…。
「返してくれ!」
レズリーの声が響いた。
ちょっと強めの、焦ったような声。
「返してくれ」
もう一度、手を差し出しながらレズリーは言う。
袋の中に入っていたもの…。
それは鍵ではなく、花とハートがモチーフになったネックレスだった。
「鍵じゃねえのか」
「…すまない」
バレットが問うとレズリーは頭を下げた。
多分、鍵だって言ったのは咄嗟の嘘だったんだろう。
だけどきっとレズリーにとってはどうしても無くせない大切なものだった。
もうここまで来たのなら隠すこともない。
レズリーはこのネックレスの持ち主について話してくれた。
「半年前…彼女はコルネオの嫁に選ばれた後、そのまま姿を消した。その時突っ返されたんだ。酷いだろ?結構いい値段したんだけどな」
持ち主はレズリーの恋人。
そして彼女は…コルネオの嫁に選ばれた。
その事実が指すのは、つまり…。
「じゃあ、レズリーは…」
「あなたの目的って…」
「復讐だ」
あたしとティファが聞くと、はっきりした声でそう答える。
レズリーの目的は、コルネオへの復讐だった。
合点がいった。
何かとあたしたちに手を貸してくれたのは、そういう事だったのか…。
「今更だって事はわかってる。それでも片を付けないと、俺はどこにも行けないんだ…」
「好きにしろ。俺たちは上に行ければそれでいい」
ぐっと手を握り締めたレズリーに興味薄く言葉を返すクラウド。
理由なんてなんでもいい。
最初の話通り、上に行く方法を教えてくれるのなら付き合うだけだと。
ぶっきらぼう。
でも、そこにはクラウドの優しさ、ちゃんと感じた気がする。
だってそれは、最後まで付き合うって言う意味と同じだから。
「わかってる。そっちは任せてくれ」
レズリーも改めて頷いてくれた。
彼の中に嘘はない。
ちゃんと上に行く方法は知っていて、それをちゃんと教えてくれると。
「気に入ったぜ」
ここにきて、バレットもレズリーの事を信じたようだった。
むしろ好感さえ覚えていそうな。
でも、ここまで聞いたら疑う理由もないよね。
レズリーは信用に値する。
コルネオのところに着く前にそれが知れて、良かったと思う。
「んふふ、クラウドやっぱ優しいねえ」
「は…?」
隠れ家への道を戻る途中、あたしはクラウドにそう声を掛けた。
するとクラウドは少し顔をしかめてこちらを見る。
「さっきのどこをどう見て言ってるんだ…?」
「んー、なんというか、隠しきれないカンジ?」
「…意味がわからない」
クラウドはまたそう冷めた様に言う。
えー、だって少なくともあたしにはそう見えたわけで。
思っちゃったんだから仕方ない。
否定しても隣でニコニコしてるから、クラウドはちょっと反応に困ってるみたいだった。
でも、花畑で夜に言ってくれたでしょ?
優しいって、ナマエからそう思われるのは、悪くないって思う…って。
今も、反応には困ってる。
でも確かに、嫌がっているようには見えなくて。
「ふふ…っ」
「?、何笑ってるんだ」
「ううん!」
思わず頬が緩んだ。
ああ、もう、調子乗っちゃうよなあ…。
自分を見てくすくすと笑うあたしに、クラウドはまた困った顔をしていた。
「奴は俺にやらせてくれ。頼む」
そして、隠れ家が近づくとレズリーはそう言った。
レズリーはずっと待っていたのだろう。
この日…コルネオに復讐するこの瞬間を。
あたしたちは了承した。
「ここで待っててくれ」
隠れ家の扉の前まで戻ってくると、レズリーはひとりコルネオの元に向かっていった。
コルネオがぎゃふんと言う。
それはあたしも願ったり叶ったりだ。
でも、ああ見えてコルネオはきっと…ちゃんと裏世界のドンだ。
マムたちですら、強くは出られない。
油断してはいけない、そんな相手なんだとは思う。
「あいつひとりで本当に大丈夫かよ」
バレットが心配した。
その声にあたしも振り返る。
…やっぱり、なんとなく落ち着けないよね。
あたしはクラウドを見た。
「ねえ、クラウド」
「…先にもう一つ部屋があるようだった」
「じゃあ…」
「ああ、少し様子を見よう」
クラウドはそう言ってドアノブを捻ってくれた。
レズリーが中に入ったとき、隠れ家の手間にもひとつ部屋があったのが見えた。
あたしたちはひとまずそこに入り、そっとコルネオとレズリーの様子を伺うことにした。
「レズリーです。コルネオさんに報告があってきました」
中ではちょうど、レズリーがコルネオに来たことを伝えているところだった。
その声に用心深く隠れていたコルネオが顔をのぞかせる。
相変わらず「ほひ?」とか言ってるから、思わずド突き倒したくなる衝動を覚えた。
「ひとりか?」
「はい」
「ほひ?アバランチの子猫ちゃんたちは?捕まえてくるのがお前の仕事だろうが」
「すいません。その事で報告が」
「フーン?」
コルネオはレズリーにアバランチの捕縛を命令していたらしい。
レズリーは疑われないように話を合わせ、ゆっくりと近づいていく。
その背中には一丁の拳銃を隠し持っていた。
そして届くところまで来た時、レズリーはコルネオのこめかみに銃口を突きつけた。
でも…。
「フンッ!」
「ぐっ…!」
コルネオは見抜いていた。
レズリーは腕を掴まれ、そのまま捻りあげられて胸を殴られた。
その衝撃にレズリーは「かはっ」とその場に蹲ってしまう。
あ…っ!
焦りが滲む。
助けなきゃ…!
でも、タイミングは見計らわなければいけない。
「レズリー!俺が何で隠れてるか知ってるよな!」
「……。」
「アバランチの子猫ちゃんにちい〜っと喋り過ぎて、神羅に睨まれちまったんだよ。プレートがどがががーんでもっともーっと被害が大きくなるはずが、あいつらがスラムの奴らを非難させちまいやがって…」
レズリーから拳銃を取り上げたコルネオはそう語り始めた。
七番街の話…。
神羅はもっと大きな被害を想定していた。
痛いくらいに、拳を握り締めた。
それはバレットも、ティファも同じ。
この、クズ野郎…。
「ここだけの話、神羅はミッドガルを捨てて新しい楽園を作るつもりだ。俺はそこで、新生ウォール・マーケットのドンになるはずが!…今はお尋ね者。レズリー、お前には新しい店を任せようと思ってたのによ…残念だよ」
コルネオはペラペラと色んなことを喋る。
それはあの時と似ていた。
あたしたちが下水道に落とされた、あの時。
そしてコルネオは言う。
「さ〜て問題です!俺たちみたいな悪党がこうやってぺらぺらと真相を喋るのは一体どんな時でしょう〜か?」
あの時と同じ質問。
その答えを、ずっと傍にいたレズリーは知っている。
「勝利を、確信している時…」
レズリーは膝をついたまま俯き、そしてそう悔しそうに呟いた。
そんなレズリーの頭に、コルネオは先ほど取り上げた銃を突きつける。
「正解」
コルネオの無慈悲な声。
でも、させない。
今度は思い通りになんて、させてやるもんか。
「本当にそうか?」
「ほひ?」
その瞬間、コルネオの首元にチャキ…と刃物の音が響いた。
それはクラウドが剣を差し向けた音。
形勢逆転。
すぐに首を跳ねられる状況に、コルネオは両手を上げる。
「おまえらっ…」
「七番街の件、詳しく聞かせてもらおうか!」
バレットがコルネオの手から銃を奪い、投げ捨てる。
その隙にあたしとティファは蹲るレズリーの元に走った。
「レズリー、大丈夫?」
「ああ…」
あたしはレズリーの肩に手を置き、一応回復魔法を唱えておいた。
痛みは一時的な物だと思うけど、大事を取って。
そして剣を差し向けられたままのコルネオを見上げた。
「あ〜〜〜〜あっ!」
「てめえ、ふざけてんのか?」
コルネオはまるであたしたちの注意を逸らす様に部屋の奥の方を指さし始める。
そんな手に乗るわけないだろ。
バレットが睨みつけたけど、それに対してコルネオが浮かべたのはにやりとした笑み。
「ほひ〜!残念!でも、ふざけてないんだな、これが」
その瞬間、急に辺りがぐらっと揺れた。
まるで地響きみたい。
えっ!っと振り返ると、そこにはあの時も戦ったあの巨大なモンスターがいた。
「ちょっ!またこれ!って、あ!!」
揺れでクラウドの剣が首から離れたのを見計らい、ダッと逃げ出すコルネオ。
追わなきゃならない。
でも、それをこの目の前の怪物が許すはずもない。
レズリーは怪物の攻撃からティファを庇い、奥にある扉の中へ吹っ飛ばされてしまった。
コルネオも同じくその部屋の中へ逃げていく。
あの奥に出口がある?
でも、怪物が邪魔で追いかけられない…!
「まずはこいつを黙らせる!ナマエ!来いっ!」
「っ…わかった!」
クラウドに呼ばれ、掛け出す。
まずはこの怪物を倒さなくちゃ。
あたしは剣を抜き、クラウドと肩を並べた。
その時、クラウドが言う。
「ナマエ、あんたは魔法で剣を強化して、まっすぐに突っ込め」
「えっ?」
「大丈夫だ。俺が守る」
「…わかった!信じてます!」
「ああ」
クラウドが守ってくれる。
だからあたしはそれを信じて攻撃だけに集中する。
守る、だって。
ああもう。
格好いいなあ。
それに、これほど信頼出来る言葉も知らないよね。
「はあッ!!」
大ぶりな攻撃。
クラウドが剣で防いでくれるから、あたしはただ突っ込むことだけ考える。
マテリアで魔法を灯し、剣を強化する。
そうして真っ直ぐに、その巨体を貫いた。
To be continued
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