ブレインポッド
宝条博士の研究施設。
次に広がっていたのは、明かりのついていない暗い部屋だった。
そこには病院にあるようなキャスター付きの白いパーテーションがいくつもあり、またそれらしい機材も置いてある。
まるで医療機関を思わせるような感じ。
だけど…。
「病院…じゃねえよな」
同じように病院を連想したであろうバレットが呟く。
でもその声にはきっと違うだろうという予想も滲んでいた。
そこにレッドが冷静に言う。
「実験体に治療は不要だ」
「じゃあ…」
あたしは、少し声が震えた。
「改造、あるいは解剖か…」
クラウドの呟き。
それを聞いて、思わずぞくりと身震いた。
こんなところに病院があるはずないって、予想はついてた。
でも、その答えを聞くと、やっぱり気分が悪くなる。
「まともじゃねえな」
そう言ったバレットの声に頷くことしかできない。
狂気…。
頭に浮かぶのはその一言だったから。
「っ!」
そんな時、前を歩いていたクラウドが突然足を止めた。
え、と思った瞬間、その理由はすぐにわかる。
それは部屋のあちこちにあったパーテーションが勝手に動き出し、あたしたちの周りを取り囲むように浮遊していたから。
「なっ…幽霊…!?」
あたしは思わずそう口にした。
だって、まるで列車墓場の時みたいな…!
でも、その答えは違う。
正解は、周りを舞うパーテーションの隙間から見えた。
「あれ…!」
そこに見えたもの。
それは先ほど、レッドを硬直させていたあの兵器。
動きを止めるだけじゃなくて、こういう風に操ることも出来たってことか!
なんにせよ、襲ってくるならやるしかない。
あたしたちは武器を構え、その兵器にへと走り出した。
「えっ、なにこれ!毒!?」
びしゃっと床に落ちた汚染物質。
あたしは咄嗟にその汚れを避けた。
そいつはポッドのような形をしていた。
そして蓋を開くと、その中から汚染物質を撒き散らかしてくる。
それは見るからに毒々しい。
多分喰らったら毒状態になる…。
「オラオラオラァ!!」
その時、遠距離から攻撃出来るバレットが一気に銃を集中して放った。
すると敵の体がぐらりと揺れる。
この調子ならこのまま押せる…!?
「バレットやっちゃえ!頑張れ!!」
「おうよ!!」
ここで一気にバレットに削り切ってもらうのが得策かもしれない。
そう思ったあたしはバレット頼みで応援した。
バレットも勢いがあるときはそのまま乗っていくタイプだからガンガン撃ちまくってくれる。
よし、いける…!
だけど、そう思った時だった。
「えっ…!?」
急に幻覚のように、ぶわっと敵が分裂したような光景が見えた。
でもその直後、目の前がカッと明るくなって、とてもじゃないけど目を開けていられなくなる。
ホワイトアウト。
何も見えなくなった時、体に硬直感と毒々しい苦しさが襲い掛かってきた。
「ぐうっ…」
「うおぉ…」
「ゼェ…ゼェ…」
辺りが見えるようになった時、動けず脱力する皆の呼吸が聞こえた。
でも、それはあたしも同じ。
「うっ…く…」
動けなくて、膝をつく。
毒に体が蝕まれていくような感覚。
そしてそんなあたしたちをぐるりと取り囲む何体ものあの兵器。
さっき幻覚かと思ったのは現実で、本当に数が増えていた。
そしてそいつらは、同時に蓋を開いていく。
これ…ま、まずい…っ!
多分こいつら、全員で毒の汚染物質をあたしたちに浴びせようしてる…!
そう気が付いて、あたしは息苦しさの中、無い頭を慌ててフル回転させた。
どうするどうする!どうしよう…!
その時、微かに指先の感覚が戻り始めていることに気が付いた。
そこになんとか力を込め、さっき範囲化とセットにしていた回復のマテリアを無造作に外して床に転がす。
そしてその隣の穴にはめていた治療のマテリアをずらし、魔法を唱えた。
「エスナ…っ!!」
その瞬間、体が自由になっていく感覚を覚えた。
範囲化だから、きっとみんなも同じはず。
「っ、治ったか…!?」
「…!ああ、ナマエの手柄だな」
「ナマエっ!」
息苦しさから解けた皆の声がした。
クラウドはすぐさま駆け寄ってきてくれて、剣を盾にして毒から守ってくれた。
バレットとレッドも、各々咄嗟に避けていた。
「大丈夫か?」
「うん!平気!間に合ってよかった」
クラウドは気遣う様に腕に触れて支えてくれた。
あたしは頷いて答える。
でも、このまま悠長にしてる場合じゃないね。
「よし、反撃開始だよ!」
数は増えた。
でも、倒せない相手じゃない。
治療のマテリアをうまく活用していけば、そう苦戦は強いられないはずだ。
こうして再び、あたしたちはあの兵器に向かっていったのだった。
To be continued
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