かつての英雄
エアリスは話してくれた。
古代種の事。
神羅の事。
星の事。
古代種は、星と語り、約束の地に帰るのだと言う。
神羅は、約束の地を探している。
そこが至高の、魔晄の噴き出す豪勢な場所だと踏んでいるから。
だから古代種たるエアリスの力でその土地を探している。
そして、運命の番人…。
あたしたちが時折見かけていた、あの黒い幽霊みたいな存在がフィーラーと呼ばれているものだと知った。
それは、運命の流れを変えようとする者の前に現れ、行動を修正する。
言い換えれば、星が生まれてから消えるまでの流れ。
それから、神羅ではない本当の敵の存在。
星は滅びへの道を歩んでいて、その原因は神羅ではなく…もっと、他にいる?
エアリスは願っていた。
どうにかして、星や皆を守りたいと。
…正直、ここで聞いた話だけじゃわからないことだらけだった。
でも、エアリスの想いを聞いて、何か自分に出来ることはあるだろうかと。
友達の助けになりたいって、そんな風に思えたのは本音だった。
「脱出の目処、どうにか立って良かったね」
「ああ」
そして今、あたしたちはあの部屋を出て、神羅ビル脱出の為に屋上を目指していた。
何故屋上を目指すことになったのかというと、それはモニターを通してドミノ市長とウェッジが脱出の経路を教えてくれたから。
今、本家のアバランチがプレジデントを狙う作戦に出ているのだと言う。
そのついでに、屋上にヘリをつけてあたしたちを拾ってくれるよう、回復したウェッジが頭を下げて掛け合ってくれたのだとか。
「ウェッジ、やるね」
「ああ、正直助かったな」
「うん!ふふふ、それ聞いたらウェッジ喜びそうだね」
「え?」
「あれ?アニキ〜!って言われてるんじゃなかった?」
「……。」
にやにや笑う。
するとクラウドは隣で「はあ…」と溜め息をついた。
えー?だって言ってたじゃんね?
まあ今はとにかく、エレベーターで上へって話なんだけど。
先程、宝条博士が逃げたエレベーターが使えるのではないかと、あたしたちは元の場所に戻ることになる。
その道中、大変活躍してくれたのは、鼻を使ってにおいを追えるレッドだった。
「宝条のにおいがまだ残ってる」
「えっ、レッドって鼻効くんだ!においとか追えちゃうの!?」
「まあな」
わりと近く。
傍らを歩いていたレッドに屈み、あたしは凄いねと褒めた。
レッドは基本クールだ。
でも褒めたら、ちょっと得意気な感じにも見えた。
…なんか可愛いな、君。
なんにせよ、彼はお手柄。
そのおかげで迷う事もなくエレベーターまで辿り着くことが出来た。
…途中、宝条博士の実験サンプルみたいなのが抜け出してて、それと戦う羽目になったりはしたけどね。
だけど、そうしてエレベーターに乗って辿り着いたのは屋上ではなく…。
「宝条の施設。神羅の闇」
エレベーターを降りると、レッドが呟くようにそう教えてくれた。
開いた扉の向こうにあった景色は、広く…なんだかおどろおどろしい場所。
神羅の闇。
確かにそんな呼び方が相応しいような。
そこは、先ほどの研究施設より更にディープな研究が行われているらしい、怪しげな施設だった。
「うわあ…」
「大丈夫か」
「うーん…なんかキモチワルイねえ。なんというかこう、肌でもヤベエ感じが伝わってくるって言うか」
「…そうだな」
降りてすぐの場所、欄干に手を掛け施設の全体を眺めていると、クラウドが隣に来て声を掛けてくれた。
多分、全員一致で嫌悪感みたいなのはあるだろう。
嫌な寒気がするというか、そんな感じ。
「ぶっ壊してやりてえが時間がねえ。さっさと屋上に行こうぜ」
バレットがそう言う。
アバランチの本家がヘリを回してくれる今、下手に遅くなるのはまずいよね。
あたしたちは頷き、研究施設はスルーで屋上に続くエレベーターを探していくことにした。
だけどとある場所で、クラウドが静かに足を止めた。
「ん?クラウド?どうしたの?」
気が付いたあたしも足を止め、声を掛けた。
皆も気が付き、振り返り止まる。
その場所は、橋のような通路があり、その向こうにひとつ大きな研究ポッドが設置されていた。
止まったクラウドが見ていたのもそのポッド。
中に入っていたのは…たくさんの管に繋がれた、女性…の体?
いや…人間ではない、よね…?
「なんだありゃあ…」
「…ジェノバ」
疑問を口にしたバレットに静かに答えたのはエアリス。
…ジェノバ?
確かにそのポッドには、JENOVAという文字が刻まれている。
ジェノバっていう、生き物?
それは宝条博士の作ったサンプルとは違うんだろうか。
あー…もう。
さっきからフィーラーだのジェノバだの…得体の知れないもの色々ありすぎやしませんか。
頭がぐるぐるしてきてうんざりする。
だけどそんな時、またクラウドは「うっ…」と頭痛を起こした。
「あっ…クラウド、大丈夫?」
あたしは声を掛け、その肩に触れた。
でも、そうして触れた時…気が付く。
ぞく…と、とてつもなく嫌な気配。
それを感じたのは、橋の奥…ポッドの目の前から。
え…どうして…。
だって今、そこには誰もいなかったはずなのに。
誰もいなかったはずの、ジェノバのポッドの前。
はっ…として見たその場所には、長い銀髪の後ろ姿。
誰もが息を飲む。
黒いコート。
長い刀。
ゆっくりと振り返る…その男。
整った顔立ち。
その瞳は、クラウドと同じ…魔晄の色。
でも、クラウドは全然違う…。
その男の瞳からは酷く…酷く冷たい印象を受けた。
「本当に、あんたなのか…?」
クラウドは、呟くように男にそう尋ねた。
本当にって…クラウドの知り合い…?
でも、その瞬間、クラウドの頭痛がまた酷くなった。
もしかしたら、今までで一番かもしれない。
両手で頭を押さえて、呻いて、苦しんで。
だけどクラウドはそれでも一歩一歩、男に近づいていこうとする。
「憐れだな…受け入れろ」
すると、銀髪の男が低くそう言った。
その一言だけですら、なんだかぞくりとするような…。
どうしていいかわからない…。
でも、あたしたちがそう様子を伺っていたその時…クラウドは突然、ひとりでその男に向かっていった。
「うわああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
背中の剣を構え、聞いたこともないくらい大きな叫びをあげる。
「クラウド!」
エアリスが咄嗟に名前を叫ぶ。
それとほぼ同時、あたしも走り出していた。
背中から「「ナマエ!」」って、ティファやレッドの声がした。
だって…クラウドの声、苦しそうで。
でも、追いつけない。
追いつく前に、銀髪の男は軽く長い剣を振った。
それは斬撃。
クラウドと男の間に、スパッと入る。
本当に軽く剣を振っただけだった。
なのに…その一撃は橋を真っ二つに斬り落とした。
「嘘…っ!?」
あたしは、突然斜めになった足場に血の気が引いた。
対岸への支えを無くした橋はその状態を保てない。
斬られた場所から、垂れ下がって落ちていく。
「ぐっ…」
あたしは咄嗟に欄干に手を伸ばして少しだけ耐えた。
クラウドは、足場が斬られたその瞬間に高く跳ねて、そのままの勢いで男に剣を振り下ろしていた。
でも、男はそのクラウドの剣をも軽く長刀で受け止める。
「感動の再会だ」
男は一言、クラウドにそう言った。
そして直後、クラウドの体を弾き飛ばす。
落ちていく…。
あたしはクラウドに叫んだ。
「クラウドッ!!…っ」
でも、クラウドを助けることなんて出来ない。
そもそももうこっちも限界だ。
落ちる…っ!
欄干から離れた手。
落ちていく体。
「っ、ナマエ!」
その一瞬、クラウドがこちらに気が付いてくれた。
でも、足場もなく落ちていくクラウドにも為す術はない。
ただ、落ちていく。
聞きたいこともあるのに。
あの人は誰?感動の再会って、クラウドの知り合い?
でもきっと、味方じゃないんだよね?
…いや、違う。
誰って、あたしは本当に知らない人だっただろうか。
違う…。どこかで見たことがある。
でも知り合いってわけじゃない。
なんかこう…新聞とか、テレビとか…。
…英雄、セフィロス。
その名を思い出しながら、あたしは施設の闇の中に落ちていった。
To be continued
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