口にしたその名は
59階、スカイフロアにて。
更に上に進むために必要なカードキーの手続きを無事に済ませる事が出来たあたしたち。
なんだか順調過ぎて逆に不安を覚えたけど、進まないという選択肢はない。
これから辿るのは、見学ツアーと称されたルートだ。
それはプレジデント神羅の歩みの展示だったり、神羅の手掛ける事業の説明だったり。
プレジデントの栄光の見せびらかしにはなんだか胸やけを起こしそうになったけど、とりあえずその辺りは問題なく進んでいくことが出来た。
そして今、あたしたちがいるのは61階。
そこは、神羅の英知と最新テクノロジーを結集したとかいうヴィジュアルフロアという場所だった。
「なんだろ、ここ」
踏み入れて、あたしはきょろっと辺りを見渡した。
そこはちょっとしたホールのような作りになっていた。
でも、広いだけで特に目立ったものは何もない。
これのどこらへんが神羅の英知と最新テクノロジー?
そう思っていると突然、なにやら装置が動き出した。
「へっ…」
その瞬間、ぱっと急に辺りの景色が変わった。
目の前に広がったのは、自然の豊かな景色。
光、音、風、匂い…。
それはまるで、神羅ビルの中から大自然にワープさせられたような感覚。
これ、映像?
そこで英知と最新テクノロジーの意味を理解することが出来た。
『かつてこの星には、古代種と呼ばれる種族が住んでいました。彼らは星の開拓者と呼ばれ、我々が魔晄を発見する何千年も前から地中に眠るエネルギーの存在に気が付いていたと考えらえれています』
映像に合わせ、音声が流れだした。
それはこの星のエネルギーと、そして、古代種という種族の話。
古代種って、エアリスの…。
そんな単語が聞こえたこともあり、わりと真面目にその映像を見ていた。
『月日は流れ…神羅カンパニーがまるで古代種の歩みをなぞるかのように魔晄をエネルギーとして活用する方法を編み出しました。穏やかな気候、豊かな自然、そして溢れんばかりの魔晄エネルギー。そんな土地が、この広い星のどこかで我々が来るのを待っています。神羅カンパニーは、古代種が夢見た約束の地を一日も早く皆様にお見せするべく、これからも日夜努力を続けてまいります』
豊かな自然、ミッドガルの街並み。
そんな景色を広げつつ、話はそう締めくくられる。
星の開拓者と謳われた古代種。
彼らは二千年前に落ちた隕石によって滅んでしまったが、現代では神羅カンパニーが同じように星のエネルギーを活用する方法を見出した…ね。
都合の良い話をしているのだろうなっていうのは、まあわかる。
古代種たちも星のエネルギーを使っていたとして、それは多分、根本的な何かが違うんじゃないかな…というか。
いや、詳しいことはわからないけどね。
そして、映像は終わる。
ワープしたかのように広がっていた景色は、ふっ…と先程の何もないホールへと戻った。
「終わりか?」
「う、うん…そうっぽい?」
バレットに聞かれたから、あたしも多分と頷いた。
でも、それもつかの間。
戻ったと思った景色は、またパッと一瞬出来切り替わった。
「えっ…」
それは、なんだか変な景色だった。
先程の景色は、緑や明るい空、見ていて綺麗だと思えるようなもの。
なのに今映っているそれは、真っ赤で不気味な…おどろおどろしい空。
周りの景色は街。
神羅ビルもあるからミッドガルなのはわかる。
「隕、石…?」
赤い空には、ぽっかりと何か大きな物体が浮かんでいた。
思わず隕石と呟いたのは、さっき古代種たちが滅んだ原因が隕石だと聞いたから?
隕石からは、大きな竜巻がいくつも上がっている。
それは魔晄炉、神羅ビルも破壊して…ミッドガル中を瓦礫で包んでいく。
大勢の人が、逃げ惑う。
まるで、地獄みたいな光景だった。
「ナマエッ!」
「えっ…」
その時突然、名前を呼ばれた。
振り向けばぐいっと肩を引き寄せられる。
えっ!?
びっくりした。
でも恥ずかしさより、戸惑いの方が勝った。
なぜならそれは、クラウドが酷く焦っているように見えたから。
「離れるな!俺から絶対に!」
「えっ」
強く、切羽詰まったように言われる。
クラウド…?
どうしてそんなに焦ってるの?
だってここは、映像の中でしょ?
逃げ惑う人々も、あたしたちはすり抜けていく。
映像のものには触れられない。
だからこれは、現実じゃないってちゃんとわかる。
だけどその時、ゾクッ…と、背筋から凍り付くような嫌な気配を感じた。
「っ…」
え、なに…これ。
思わず息を詰める。
その時、クラウドも同じようにしているのがわかった。
肩に触れるクラウドの手。
力が強くなる。
あたしも、その手に上から触れた。
わからない…。
わからないけど、なぜか漠然と、恐怖心を感じて。
「…運命の流れが、変わったか」
そして、誰かのそんな声が聞こえた気がした。
運命の、流れが変わった…?
それってどういうこと?
運命って、何…?
「セフィロス…」
すると、傍でクラウドがそう呟いた。
セフィロス…?
神羅が誇る最高のソルジャー…英雄セフィロス。
名前なら、誰だって知っているその人。
でも、どうして…?
そう思った時、目の前の景色がふっ…と変わる。
恐ろしく、リアルな映像はそこで終わった。
「ちくしょう、まだ頭がクラクラすんぜ。とんでもねえ映像を流しやがって。子供が見たら泣いちまうだろ!」
バレットの文句。
景色は、元のホールへと戻った。
もう、切り替わる気配もない。
本当に映像は終わったようだった。
「ただの映像じゃない…」
クラウドは神妙な顔でそう言う。
…でも。
ええっと…。
あたしはちょっと、ど、どうしようか…と悩んでた。
それは多分、ていうか絶対…はたから見てもアレなわけで。
だから、こちらを見たバレットに突っ込まれた。
「お前ら何くっついてんだよ」
「え…あっ、わ、悪い…!」
慌てて、抱き寄せられていた手が離れる。
クラウドは考え込んで、抱き寄せていたことを忘れていたらしい。
あたしも慌てて首を横に振った。
「う、ううんっ、あたしも…ただの映像じゃないって思ったから…」
「あ、ああ…」
「はあ?ビビりか?お前ら」
さっきのは、ただの映像じゃなかった。
それはあたしも同意だったけど、それを言ったらバレットにビビりだと言われた。
…ただ、ビビって大袈裟に感じたってだけなら、それでいいんだけど。
でも、感じた冷たい嫌な気配は…本当だった気がする。
それに、セフィロス。
クラウドが呟いた名前。
…どうしてクラウドはセフィロスと言ったのだろう。
そもそもクラウドって、前からちょっとセフィロスのこと…気にしてる気がする。
もういない、過去の人。
あたしの中では、そんなイメージなんだけど。
…もしかして、スカイフロアで教えてくれた…因縁の相手って?
少し、そんな想像をした。
でも今は、聞いている時間はない。
「…先に進もう」
クラウドはそう言って歩き出す。
こうして、あたしたちはヴィジュアルフロアを出て、先に進むことにしたのだった。
To be continued
prev next top