4つの研究室を越えて



「クラウド、大丈夫かな。様子、ずっと変だったよね」





クラウドたちとの通信を切り、研究室に向かう途中ティファがそう言った。

クラウドの様子。
確かにここまでに色々と気になる部分はあった。

何度も起こる頭痛。
呻いて、苦しんで、怯えて。





「うーん、でも、さっき話した感じではもう大丈夫そうだった。頭痛もしてなかったし」

「うん、心配ないよ」






さっきの通信の時の様子を思い出しながらあたしが前向きな言葉を探せば、エアリスも頷いてくれた。
そしてエアリスはティファの顔を覗きこむ。





「それより、ティファは?」

「えっ…」





逆に心配をされ、ティファは戸惑ったような声を零した。

確かに、ティファもさっき…少しだけ変だったかもしれない。

頭痛を起こすクラウドの肩に触れた時。
その時現れたあの男を見て…ティファの瞳が一瞬酷く揺れたこと、あたしもエアリスも気が付いていた。

エアリスが聞いたのは、きっと、そんな緊張をほぐすためだ。

その証拠に覗き込むエアリスの顔は微笑んでいたから。
それに釣られるように、ティファも柔らかく笑みを浮かべた。





「平気だよ」

「お。じゃあエアリスはー?」

「私も平気!ナマエは?」

「ぜーんぜん平気!エアリス帰ってきてレッドという仲間も増えて、むしろ元気いっぱいだね!」





辛気臭いのは性に合わない。
だから張り切って行こうと、あたしたちはテンションを上げて指示された第三研究室を目指した。

第三研究室の扉は閉まっていたから、クラウドたちに中央端末を操作して貰う事で入ることが出来た。
宝条博士が言っていた準備っていうのは、その操作も自分たちでしてくれたまえよって事らしい。…どこまでも腹立つ感じだわ。





「ナマエ、ティファ。見て」

「わー、いるねー…」

「上から行こう」





研究室の中を進んでいくと、そこには案の定モンスターがいた。

でも、お休み中みたいな感じ?
気が付かれないようにと天井に下がるパイプを伝って進もうとしたけど、パイプは大人3人分の重さには耐えられずガターン!と落ちてしまった。

そうすりゃもう、勿論モンスターさんたちのおめめもばっちり覚めてしまうわけで。





「いっ、たたた…あっ、起こしちゃった?」

「ていうか何回落ちるの!さっきからあたしたち落ち過ぎじゃない色々!」

「ナマエ集中!やるしかないよ!」

「もっち!わかってるって!こんなの一捻り!!」





避けられるならそれに越したことはないけど、戦う覚悟はしてた。

このメンバーなら、あたしとティファが前に出て、エアリスに魔法をぶちかましてもらうのがいいかな。

大丈夫。多分、さっきエアリスを助ける前に戦ったサンプルの方がよほど強敵だ。
あたしたちは互いにフォローしあいつつ、第三研究室にいたモンスターを片付けた。





「宝条博士、嫌い」

「あたしもだーいきらーい」





モンスターを片付ければ、第三研究室から出ることが出来た。
出た後、エアリスとあたしは研究室の出口に向かって「べーっ」と舌を出す。
ティファはそれを見て苦笑いしてた。

とりあえず、第一関門はこれで突破だろう。

あたしたちはクラウドたちに連絡を取り、次はクラウドたちの番。
クラウドたちが挑むは第二研究室。

あたしたちはクラウドたちの報告を待つべく、通信装置の前で待機となった。





「エレベーター、どこにあるんだろうねー」

「うーん…暗くてよく見えない、ね」





待っている間、あたしたちは施設を見渡して脱出場所の確認をしていた。
エアリスとうんうん唸ってたけど、まあ唸るだけじゃ何も解決はしないわけで。

クラウドたち、もう中のモンスターやっつけたかな。

しばらくしてそう通信端末の方を見やれば、ちょうど通信が来てティファが応答してくれた。





『ティファ、聞いてるか』

「どうしたの?」

『レッドが下に落ちた。そっちから回りこめないか?』





あたしとエアリスも近付き一緒に通信を聞けば、クラウドから言われたのはそんな要請。

レッドが下に落ちた?
あたしは急いで周りを見てレッドの姿を探した。

すると少し離れたところ、ひとりきりで複数のサンプルを相手にするレッドの姿を見つけた。





「ああ!レッド!!」

「たいへん!」

「急ごう!」





少し離れてはいるけど、確かにあたしたちのいる場所から回り込めそうだ。
あたしたちは急いでレッドに加勢するべく走り出した。





「レッドに何すんだー!!」





もはや突撃隊長。
あたしは一気に走り、レッドに襲い掛かるサンプルを剣でガッとブッ飛ばした。

その隙を狙うように、後ろにまだ気配。
でも心配はない。

そこはばっちり、ティファとエアリスが見ていて仕留めてくれる。

うん、なかなか連携とれてるよねー、あたしたち!
振り返ってありがとうの意味を込めてグッと親指を立てればふたりも同じように返してくれる。

片付けたところで、あたしはバッとレッドの傍にしゃがんだ。





「レッド!平気!?」

「ああ、助かった」





レッドは向き合うように座り直し、答えてくれた。
念のためケアルも掛けて「すまない」「どういたしまして〜」なんてやり取りも交わした。

そうして上の方にいるクラウドとバレットとも軽く手を振り大丈夫だよというコンタクトを取ると、レッドにクラウドたちの方の状況を教えて貰った。





「第四研究室を見つけたところだ。開けるには中央端末まで戻る必要があるが、あの場所からはいけなかった」

「こっち、繋がってるかも!」

「さっきクラウドたちがしてくれたみたいにこっちが開けられればいいわけだね!」

「うん。調べよう」





こうしてあたしたちはレッドを加え、今いる場所から中央端末まで行けないかを調べてみることにした。
見た感じ、行けそうな感じもする。

そうして進んでいくと、その途中、幸いなことにエレベーターも発見した。





「動いてない?ナマエ、スイッチ押してみて」

「うーん、反応しないね」





一番に駆け寄ったからエアリスに言われた通りスイッチを押してみたけど、カチカチと音が鳴るだけでランプは点かなかった。
これは…元の電源切られてるみたいな感じ。





「まだ逃がす気はない、という事か」

「本当、嫌な感じ」





レッドの言葉にエアリスがため息をつく。

つまりは宝条博士の言う通りにするしかないってこと。

あとは第四研究室のみ。
そこをクラウドたちがクリアしてくれれば、宝条博士は満足するだろうか。





「中央端末、来られたね」

「うん。待って、今レバー倒すよ」





あたしたちのいる場所から中央端末は繋がっていた。
04と書かれたレバーをティファが下ろせば、サンプルテスト開始のアナウンスが掛かる。

これで多分、第四研究室の扉は開いただろう。





『…ティファか?』

「うん、エレベーター見つけたよ」

『そうか。よかった』





レバーを操作した後、ティファは通信装置でクラウドたちに連絡を取り、エレベーターを見つけたことと第四研究室の扉を開いたことを報告した。

あたしもティファの隣に立って、マイクに向かって話した。





「クラウドー」

『ナマエ?怪我はないか?』

「全然平気!へっちゃらへーさ」

『そうか…ならいい。気をつけろよ』

「うん、クラウドもね!でもさ、エレベーター動かないんだよー。ね、エアリス、レッド」

「そうそう。たぶん、宝条のしわざ」

「奴の思惑通り、第四研究室へ行くしかなさそうだ」





もうどうせなら全員で話そうぜってんで、エアリスやレッドも通信装置の周りに集まってわちゃわちゃと話す。

とりあえず今はクラウドとバレットに第四研究室に向かって貰うしかない。
クラウドに『待機してくれ』と言われたあたしたちは大人しく中央端末のところで待っていることにした。





「クラウドとバレット、大丈夫かな」

「大丈夫でしょ。ティファ、心配?」

「うーん、喧嘩してないかなーとか」

「あ、そっち?」

「ふふふ。ふたりとも強いから、きっと大丈夫だよね」





待っている間、中央端末に寄り掛かり、ティファとそんな話をしてた。

クラウドは言わずもがな。
バレットもアバランチのリーダーなだけあって、普通に強いもん。

だからあたしたちは、ただお疲れ様って言うのを待つだけ。

そうして第四研究室の方を見上げれば、その時突然、ガガガガガガッという変な音が聞こえた。





「え!」

「なに?」





ティファと身構える。
エアリスとレッドも気が付いたようで、皆で一か所に固まり音のした方を見た。

第四研究室の、壁?

そう気が付いた瞬間、壁を突き破り何かが飛び出してきた。

それは何やら平たい…魚の様な動きをする大きな物体。
一直線に、こちらに向かってくる…!





「なっ、の、のこぎり!?」





よく見るとその平たい何かは体中に刃物を付けた様なモンスターだった。
のこぎりが魚みたいにうねうねしてる感じ!

って、そんなもん突っ込んで来たらコマ切れなんですけど!?





「うわあ!?」

「く…っ!」

「きゃあ!!」





あたしたちの気配に気が付いたのか、中央端末の方に一直線に向かってきたそいつをなんとか間一髪のところで避けた。

これ、もしかしてクラウドたちが戦ってたのかな…!
でも壁を突き破ってこっちに逃げてきたと?

だったらこっちでブッ飛ばしてやろうじゃないか!

大人しく切られてやるつもりなんてサラサラない。
あたしたちは武器を構え、そのモンスターと対峙することになった。





「ナマエ!」

「了解!うりゃ!」

「よっ、ほっ、ハッ!!」





ティファの誘導してという意図を受けとり、剣でいなして隙を作る。
その瞬間、ティファはしっかりとその隙をついて的確に拳を叩きこんでくれた。

そうして動きが乱れると、今度はレッドが飛びついて奴に牙と爪を立てた。
モンスターはレッドを乗せたまま、うねうねと宙をもがく。





「レッド!!」





あたしは彼の名前を叫んだ。
するとレッドはガリッとその鋭い牙と顎でモンスターの顔の装甲を剥いでくれた。

それを見たエアリスは、瞬時に魔法を発動させ、炎放つ。





「はっ!!」





レッドが飛び降り、エアリスの放った炎は今装甲を剥いだ部分に的確に命中する。

それがトドメ。
モンスターは炎に包まれ、ぐらりと地に落ちて行った。





「おー!皆で連携!息ピッタリ!」





今のはなんだか凄く気持ちのいいトドメだった。
皆の動きが上手く噛みあって倒せたみたいな。

そうして喜んで、息をつく。

すると4つの研究室すべての研究データをとって博士も満足したのか、エレベーターのランプが付いたのが見えた。





「あ、動きそうだよ。乗ってみる?」

「これも、罠?」





ボタンを押せば扉は開いた。
振り返って皆に確認すると、ティファはちょっと不安そう。





「エレベーターは、安全」





でもエアリスがそう言って乗り込んだから、あたしたちも頷いて乗り込む。

どうせこれも宝条博士がやってんだろうけど、進める道はこれだけだ。

はてさて、行先はどこへやら…。
階は選べない。

ガタン、という音と共に、開いた階の外に出た。





「到着?」

「ううん、そんな感じ、しないね」





ティファとエアリスが顔を合わせてそう話してる。
その通り、出口に到着って感じはしなかった。

それよりも、その階では何やらガンッ、ガンッと金属を叩くような音が響いていた。

何の音だろ…これ。
あたしはレッドと顔を合わせた。





「音がする」

「ね。向こうの方からだ」





音の正体はなんだろう。
とりあえずそれを突きとめるべく、あたしたちは道の奥へと進んでいく。

するとそこには円形の蓋の様な形状の扉があった。

音が響いてるのはその奥から。
というか、この扉を叩いてる?

あたしたちが扉の前で行くと、ちょうどその音が止まった。
そして聞こえた聞き覚えのありすぎる声。





「なんだ、休憩か?」





あ、バレットの声。
ということはさっきの音、クラウドが剣でこの扉を叩いてた?

多分こっち側の全員の頭にそういう構図が浮かんだだろう。





「こっちから鍵がかかってるんだ」

「開けてあげよっか」





鍵のレバーに気が付いたティファがそれを下ろすと、エアリスが扉をグッと押す。

あたしはエアリスの後ろでそれを見ていて、でもその時、ハッ…と異変に気が付いた。

これ、開き方がおかしい…。
マジで蓋だ…。

つまりはドアの蝶番…本来軸となるあの金具が無いわけで。





「えっ、わっ…あっ、きゃ!!」

「え、エアリス…!」





気付いた時には時すでに遅し。
蓋は倒れる様に外れ、思わぬ開き方をしたことでエアリスも前のめりに倒れ込む。

そしてその扉の向こうにいたであろうクラウドとバレットの方は…。





「な、なんだ?うおおおおおっ!?」





バレットの慌てた声。
ガシャーンッと落ちていく鉄の蓋…。




「おまたせ…」

「お、おう…」





前のめりに倒れたエアリスは間一髪で蓋を避けたバレットと目が合ったらしい。
ふたりは苦笑いと戸惑いがちに、そんな言葉を交わしてた。

なんかすっごい音したけど…大丈夫かなコレ。

あたしも恐る恐るエアリスの後ろから開いた向こうに顔を覗かせる。

すると、ぱちっとすぐにクラウドと目が合った。





「クラウド!」

「ナマエ」





目が合った瞬間、あたしはパッとクラウドの傍に飛び降りた。

クラウド!クラウドだ!
やっと会えた!!

別にそう時間が経ってるわけじゃないけど、なんか久しぶりに会った気分。

妙に嬉しさがこみあげて、多分すっごい笑顔でクラウドの前に立った。
自覚は出来た。でも素だった。





「大丈夫だったか?」

「うん!」

「そうか、会えてよかった」

「…!」





でもその時クラウドもホッとしたようにそう優しく微笑んでくれたから、あたしはまた「うん」と頷いて、再会出来たことを素直に喜ぶことにしたのだった。



To be continued


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