英雄との再会



屋上を目指すために乗り込んだエレベーター。
しかしその行き先はまだ屋上ではなく、辿り着いたのは何やら広く薄暗い怪しげな空間だった。





「宝条の施設。神羅の闇」





エレベーターから降りると、レッドが教えてくれた。

神羅の闇…。
確かになんだか寒気がするような、おどろおどろしい場所。

そこは先ほどの研究施設より更にディープな研究が行われているらしい怪しげな施設だった。





「うわあ…」

「顔、引きつってるぞ」

「いやあ、これは引きつるかなあ…。なんか、肌でもヤベエ感じが伝わってくるって言うか」

「…まあな」





降りてすぐの場所、欄干に手を掛け施設の全体を眺めていると、クラウドが隣に来て声を掛けてくれた。

どうやらあたしの顔は引きつっていたらしい。
いやでもやっぱ寒気するし。

なんとなく、自分の体を抱きしめるようにさすった。





「うーん…下手したら列車墓場より嫌かもしれない…」

「…そんなにか」

「ん?クラウドは列車墓場のが嫌だった?」

「…いや俺は…、というか、比べるようなものでもないだろ」

「そう?両方ぞわぞわするよー」





どちらもなんだか得体の知れないぞくぞく感がある感じ。

列車墓場は霊的な。
一方こちらは人の狂気みたいな…。

ま、両方嫌なんだけどね。

クラウドもその辺りは共感してくれてる模様。
まあ誰だって趣味の悪い空間だとは思うだろう。





「ぶっ壊してやりてえが時間がねえ。さっさと屋上に行こうぜ」





バレットの言葉に全員が頷いた。

アバランチの本家がヘリを回してくれるなら急がないと。
そもそもこんなところに長居する理由もない。

こうしてあたしたちは施設はスルーで引き続き屋上に向かうためのルートを探していくことにした。





「うーん、だーれもいない…」





歩きながらあたしは辺りを見て呟いた。

いや、研究施設って言うのに、人っ子ひとり姿が無かったから。
アバランチの作戦って聞いて皆避難してる?

ぐおんぐおん…みたいな装置の音だけ響いてる感じ。
それがまた気持ち悪いのなんのって。不気味さ倍増だ。

そうして施設内にあった橋のようになっている足場を渡っていると、ふと、クラウドが足を止めた。





「ん?クラウド…?」





あたしは声を掛ける。
皆も足を止めた。

見れば、クラウドはその先にある実験ポッドを見つめていた。

ポッドの中にいたのは首の無い生物だった。
でも体つきはどこか女性っぽい感じもするような…。

たくさんの管に繋がれた女性、の体…?
いや、人間ではない…よね?

なんにせよ、不気味なモノには変わりない。





「なんだありゃあ…」

「…ジェノバ」





素直に疑問を口にしたバレットにエアリスが静かに答える。

ジェノバ?
確かにその生物が繋がれた装置にはJENOVAという文字が刻まれている。

ジェノバっていう、生き物?
それは宝条博士のサンプルとは違うの?

わからないなりに少しは考えてみる。
いややっぱりわからないけど。

もうさっきからなんなのさー…。
フィーラーだのジェノバだの、得体の知れないモノが多すぎるですけど!

なんだかうんざりしてきたぞ…。

だけどそんな時、またクラウドは「うっ」と頭痛を起こした。





「クラウド?」





すぐ後ろにいたティファが気遣うように声を掛けた。

だけどティファがクラウドの肩に触れたその瞬間、ティファもハッとしたように表情を変えた。
そして慄くように、少し、後ずさる。

そこであたしたちも気が付いた。

え、なんで…。
今、そこには誰もいなかったのに…。

ジェノバのポッドの前。

今の今まで誰もいなかったはずのそこに、ゆらりと長い銀髪が揺れる。

わからない…。
でも、なんだか圧倒的な力を感じるような。

下手に近付いてはいけない。

そう、ぴりぴりと体中に感じる嫌な感覚。

銀髪がなびき、ゆっくりと振り返る。

黒いコート。
長い刀。

整った顔立ちの、男。

瞳は…クラウドと同じ、魔晄の色。
でも、色は同じでも、クラウドとは違う…。

その瞳は、酷く酷く…冷たい印象を受けるような…。





「本当に、あんたなのか…?」





クラウドは苦しみながらそう呟き、その男に近付いていった。

その瞬間、クラウドの頭痛がまた酷くなる。
もしかしたら、今までで一番。

両手で頭を押えて、呻いて、苦しんで。

それでもクラウドは一歩一歩男に近づこうとする。





「憐れだな…受け入れろ」





すると銀髪の男が、低く短くそう言った。

なんだか声だけでぞくりとするような…そんな、底知れない何かがあるような。

あたしたちは様子を窺っていた。
でもクラウドだけは…背中の剣に手を伸ばし、叫びながらたったひとりその男に向かって走り出した。






「うわああああああああああああああああああああッ!!!!!!」





それは聞いた事もないくらい、大きな叫び。





「クラウド!」





エアリスが咄嗟に名前を叫んだけど、きっと、耳には届いていない。
クラウドはまるでその男しか見えてないみたいに、ただ真っ直ぐに向かって行く。

その瞬間、銀髪の男が手に持つその長い刀を軽く一振りした。

本当に軽くだった。
でもその一撃で、今あたしたちが立っている足場が斬れてしまう。





「ひっ…!」





足場は斜めになり、そのまま崩れ落ちていく。
あたしは咄嗟に欄干を掴んで少しは耐えたけど、足場そのものが崩れてしまっては意味が無い。

皆、落ちた。

クラウドは足場が崩れ切る前に飛んで男に剣を振り落したけど、その大剣をいとも簡単に刀で受け止められた。





「感動の再会だ」





男は一言、クラウドにそう言った。

再会…。
確かにクラウドの様子からも、何か因縁がある様な感じだったけど…。

男はクラウドの体も、軽い一撃で弾き飛ばす。





「クラウドッ!!」





欄干にしがみ付いたあたしは、その一部始終が見えていた。
だからクラウドが弾き返された瞬間、咄嗟に彼の名前を叫んだ。





「っ、ナマエ!」





クラウドはハッとしたように声に気が付いてくれた。
でもあたしがしがみついていた足場も限界が来て、そのまま抗う術も無く落ちていく。





「ナマエ!!」

「クラ…!」





落ちていく中、クラウドがこっちに手を伸ばしてくれたのが見えた。

だけど、あたしたちのいた位置はいわば橋の両端だ。
到底手の届くくような距離じゃない。

聞きたい事、たくさんあるのに。

あの人だれ?クラウドの知ってる人?
でもきっと、味方じゃないんだよね?

…いや、違う。
誰って…あたし、本当に知らない人?

違うよ、どこかで見たことがある気がする。
でも知り合いとかじゃなくて、なんかこう…もっと、新聞とかテレビとか。





《ナマエ、エアリス…セフィロスを知ってるか?》





その時、前にクラウドに聞かれた言葉を思い出した。

英雄…セフィ、ロス…。

思い出した名前。
でもそれを思い出したところで、落ちていく身体はどうしようも出来ない。

出来るのはただ、痛みを軽減するための受け身を取ることくらい。

そのままあたしたちは、施設の下層部へと落とされてしまったのだった。



To be continued


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