203号室の住人
「おーっと…そう来るかあ…これは次の巻行くしかないねえ」
クラウドとティファと別れた後、部屋に戻ったあたしはボスッとベッドにダイブした。
それからどれくらいの時間が経っただろう。
枕元に積まれているのはとある長編の漫画。
ここ数日、あたしはそれを読むのが日課となっていた。
でも、今日はちょっと夜更かし気味。
明日ティファにお店に来てって言われてるんだから、早く寝なきゃな〜と思いつつ…続きが気になってなかなか目を瞑れない。
ちょうどそんなとき、ちょっと上の方でゴタゴタッという物音が聞こえた気がした。
「…クラウド?」
上、となれば思い浮かんだのは今日出会ったあのお兄さん。
けどこれ、クラウドっていうよりちょっと隣気味…?
ティファの方じゃなくて、逆隣…。
「…マルカートさん」
呟いた名前は、さっきクラウドに紹介しなかった203号室の住人。
時計を見ればもう結構いい時間。
ティファ…もう寝てるかな?
うーん…何事もなければ別にそれでいいし。
「ちょっと様子、見に行くか…」
そう思ったあたしは漫画を置き、カチャンと部屋の扉を開けた。
外に出ると、やっぱり何か音がする。
なんだろうと階段を上ってみる。
すると、上った先の通路の奥…203号室の前でマルカートさんに押し倒されているクラウドの姿があった。
「え…!?」
あたしはギョッとした。
見ればクラウドもパニックになっているように見えた。
いやわかる、あれは正直パニックになると思うけど…!!
ていうかあたしも軽くパニックだし!
クラウドは自分の肩を押さえつけるマルカートさんの手を掴んで、どうにか押しのけようとしている。
とりあえず助けないと…!
あたしがそう思って駆け寄ろうとすると、その前にクラウドは上手く足も使ってマルカートさんを突き飛ばした。
おお、流石元ソルジャー…!
って、感心してる場合じゃ多分無い。
クラウドは押し倒された際に転がってしまったのであろう通路に落ちていたあの大きな剣に手を伸ばした。
そして立ち上がり、その剣を頭上に構える…って待って待って待って!!!
「クラウド!!」
「クラウド、やめて!!!」
止めなきゃ!って叫んだその時、あたしの後ろからも声がした。
ティファだった。どうやらティファも騒ぎに気付いて部屋を出てきたらしい。
「部屋に戻ってろ!!」
静止の声を聞きクラウドもあたしたちの存在に気が付いた。
でも彼はそう言って剣を構えることを止めない。
って、だから斬っちゃ駄目だって!?
そうこうしてるうちにマルカートさんはガシッとクラウドの足首を掴んだ。
それによりクラウドはまた声を上げる。
「離せ!!!」
「クラウド!!」
なんかこれちょっと本当に斬りかねなくない!?
そう思ったあたしは駆け出して、咄嗟にクラウドの体にしがみ付いた。
いやあたしに元ソルジャー止められる!?
いやでもこれはまずい!どう考えてもまずいでしょ!?
そう考えたら無我夢中でやるしかなかった。
「クラウド!ストップ!ストップ!ちょっと落ち着いて大丈夫だから!」
「ナマエ…!…っ」
その時、クラウドはマルカートさんを見て何故かハッとした。
でもそのおかげで、剣を構えたその腕から力が抜けていくのが見えて。
もう、大丈夫かも…。
そう思ってあたしがそっと離れれば、クラウドも剣を下ろした。
「あ…ああ…」
唸るマルカートさん。
そこにティファが駆け寄ってきて、倒れ込んでいるマルカートさんの体をそっと起こし上げた。
あたしもそれを手伝うように、しゃがんでマルカートさんの肩に触れた。
「この人は203号室のマルカートさん。病気で、ずっとこんな感じなんだって」
マルカートさんを起こしながらティファはクラウドに彼の事を説明した。
さっき説明しなかった203号室の住人、マルカートさん。
彼はいつも黒いローブに身を包み、う…あ…と苦しそうに呻いている。
そして肩には49という数字の入れ墨が刻まれている。
どういう病気なのかわからないけど、いつも呻いて苦しそうで…見ているとちょっと、心苦しくなる。
「私やナマエ、時々様子を見るように大家さんから頼まれてるんだ。クラウドも、お願いね」
「ああ…」
ティファの説明を聞き、クラウドは頷いた。
そうしてあたしたちはマルカートさんを支えて部屋のベッドに座らせ、彼の部屋を後にした。
「ナマエ、よく気が付いたね?」
「ああ、うん。なんかちょっと物音するなって思って。ティファも寝てるかもって思ったから、何事も無ければそれでいいしちょっと様子見ようかなって思ったの」
「そっか」
マルカートさんの部屋を後にしながら、少しだけティファとクラウドと話した。
まあ気づいた経緯とか、そんな話。
するとそれを聞いたクラウドは少し申し訳なさそうにあたしを見てきた。
「…悪い、起こしたか」
「あ、ううん。起きてたから大丈夫!多分寝てたら爆睡して気が付かなかっただろうし」
お気になさらず〜、ってあたしは笑った。
うん。今日はたまたま起きてたから気が付いたけど、寝てたら気が付かない可能性大だ。
あんたあの騒ぎで起きなかったの?!とか、何度か言われた覚えアリだし、うん。
「起きてたって…何かしてたの?」
「うん、漫画読んでた。いや〜おっもしろくてさ〜。やめ時わかんなくて困っちゃって!」
ティファに聞かれたからへらっと笑って素直に答えた。
するとクラウドからもティファからも、何とも言えない顔された。
「…もうこの時間だぞ」
「早く寝てね…。明日頼みがあるんだから」
「…ハーイ」
まあ察するに、ふたりも寝てたんだろうな。
時計を見ればそりゃ寝てるでしょって時間だけども。
「いやあたしだってそりゃ思ってたよ、時計見る度にさ、あっヤバイなあって」
「…寝ればいいだろ」
「でも続きがさあ?気になって気になってもう…」
「そんなに面白いの?」
「面白い面白い!終わったらティファとクラウドにも貸したげる!そして眠れなくなってしまえ〜…」
「何だその手は」
呪いでも掛ける様にふたりに両手をつき出して指先を小刻みに動かしてみる。
するとクラウドが怪訝そうな顔をして、あたしは「あははっ」と笑った。
「…あんたと言う人間が、わかってきた気がするな」
「え!そう?!」
クラウドにそう言われてちょっとドッキン。
でも多分これはあんまり意味的にはよろしくなさそうだぞ!?
するとティファがくすっと笑った。
「ふふふっ、一緒にいて飽きないでしょ?」
「…そうだな」
「うーん…褒めては、いないよね?」
「そうだな」
「今度は即答!」
ティファの問いには少し間があったのにあたしの問いには間髪入れずなクラウド。
クラウドのあたしの扱いみたいなのが確立してきている…?
いや別に変に気を遣われるみたいな感じならこういう方がいいけどさ。
するとクラウドはふっと小さく笑った。
あ、笑ってくれた。
それを見てそんなことを思う。
こんなふうに笑うんだなぁ。
うん、悪くないかも。
というか…うん、結構、嬉しいって思った。
まあ、少しは仲良くなれた…のかな?
出会った初日としては、いいんじゃないだろうか。
しばらくここに住むなら、多分これから顔合わせることも多くありそうだし。
なによりあたし自身は、クラウドと仲良くなりたいと多分思ってる。
うん、もっともっとこの人のこと知りたいなって、凄く興味を持ってる感じ。
「うん、まあでもクラウドはミッション出て、ティファも今日は色々気疲れしたよね。じゃあ今度こそ本当に、おやすみ」
「ああ」
「うん、明日ね」
でももう今日は本当にそろそろこのくらいにしておいた方がいいよね。
あたしはともかくふたりは絶対疲れただろうから。
あたしはさっきみたいに階段に向かいながらふたりに手を振る。
今度こそ、おやすみなさい。
応えてくれたふたりに笑い掛け、そうしてあたしは階段を下りた。
To be continued
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