君の元まで辿りつく



「まさか…本当に来ているのか」





重役会議を盗み見た後。
男子トイレを出ると、すぐに会議室から出てきた宝条博士を見つけた。

なんだかブツブツと独り言を零してる。
内容はよくわからないけど、その姿は実に不気味で気味が悪い。

だけど、あの人はきっと研究所へと向かうはず。
そこにはエアリスがいる。

これは、絶対に逃す事の出来ない絶好のチャンスだ。





「行くぞ」





宝条博士がカードキーを使い、扉を開く。
その瞬間、クラウドの合図とともにあたしたちは走り出し、扉が閉じる前に一気に駆け込んだ。

その先は、研究施設への連絡通路だった。





「やはり…こっちの方が…」





相変わらずブツブツと独り言を零しながら先を歩いている宝条博士。
あたしたちは足音を立てない様にその後ろをついて行く。

そうして進めばまたひとつ扉があった。
…恐らくあの先は研究施設のはず。

それを察したあたしたちは、そこで行動に出た。





「動くな!」





駆け出したバレットがその背後に銃を突きつけた。





「ん?」





そこで宝条博士もあたしたちに気が付いた。

だけど、その反応は想像していたモノとはちょっと違う。

銃を突きつけられてるのに怯える様子も慌てる様子も無く…ただ本当に、後ろに人がいることに気が付いただけの反応。





「聞こえなかったのか」

「なんだね」

「ここじゃなんだからよ、仲良く中へ入ろうか」





銃を向けたまま、バレットは中に入るよう宝条博士へ促した。

博士はそれに従い、大人しく扉の中へと入っていく。
でもやっぱりその反応は面倒くさいものを見るような、そんな感じに見えた。





「……。」





扉の向こうは、やはり研究施設だった。

少し辺りを見渡せば、なにやら大層な装置が沢山並んでいる。

…薄暗くて、なんだかちょっと不気味。
でも、さっき会議で盗み見たような事が行われているのだとしたら、その感覚はきっと正常なのだろうなと思う。





「君たちはあれだろ。ナントカいう犯罪組織だろ?それなら、ここに用はないはずだ。プレジデントは上だ。ほら、行きたまえ」





歩きながら、宝条博士はこちらにそう話しかけてきた。

それはプレジデントを売っての命乞いというより、本当に面倒くさいだけみたい。

この人にとってはプレジデントの命なんてどうでもいいのか…。

ただこうしている時間が勿体無い。
早く研究に取り掛かりたい。

例えるのなら…きっとそんな感じ。





「うるせえ。とっとと歩け。全員動くんじゃねえぞ!」





バレットは研究所内にいた他の研究員たちに脅しを掛けながら宝条博士を進ませた。

他の研究院の人達は当然、侵入した不審者と銃を突き付けられた博士の姿に動揺してる。

でもそれが当然の反応だ。
だからこそ、宝条博士の異質さがより際立って見えた。





「目的を言いたまえ」





あたしたちの目的がプレジデントでは無くこの研究施設にあるのだと察した宝条博士はこちらに振り向きそう聞いてきた。

…本当に、さっさと済ませてしまおうって感じだ。

もし、その要求が博士にとって意味の薄いものだったとしたら…それがたとえ神羅の不利益になるものだったとしても売ってしまうのではないかと思った。





「仲間を解放して貰おうか」





バレットはこちらの要求を告げた。
すると博士は顔をしかめる。





「仲間?」

「エアリスはどこだ?」

「ほう、彼女の知り合いか」





エアリス、その単語を聞いてようやくその声音が変わった。
やっぱり…自分の興味があること以外には反応が薄いのだろう。





「それはそれは、なるほど…ということはつまり…」

「何ぶつくさ言ってやがる!」





あたしたちの目的がエアリスだと知るとまた独り言をブツブツと言い始めた宝条博士。
バレットが怒鳴ればちらりと視線がこちらに向いた。





「いやね、君たちが死んだら彼女はどんな顔をするかなと思ってね」





笑いながら、そんなことを言う。

あたしたちが死んだときの…エアリスの反応…。

何言ってんだ…この人…。
あまりに斜め上を行くその思考に何を言ったらいいのかわからなかった。





「てめえっ」





バレットは怒りを露わにした。
その瞬間、宝条博士はどこかに隠し持っていたらしいリモコンのスイッチを押した。





「容赦は…ふふふ、無用だな」





スイッチにより放たれた見たことのない小型のモンスター。
複数いるそれはあたしたちを囲う様に集まってくる。

その隙をついた宝条博士は、そのまま奥にある簡易エレベーターの向こうへと消えてしまった。

追わなきゃ…!
でも、それはこのモンスターたちが許してくれそうにない。

それに今エレベーターに乗る前にも博士は何か機械を操作していた。
それはどうやらサンプルポッドのロック解除だったみたいで…。





「なっ、なにこれ…!」





思わず目を見開いた。

ロックが解除され、ポッドの中からずるりと現れたのはあまりに巨大なモンスター。
これ、もしかして宝条博士が作ったモンスターなの?

その不気味さと狂気っぷりに吐き気さえ覚えそう。





「倒すぞ!ナマエ!」

「っ、わかってる!」





クラウドが声を掛けて、背中合わせに立ってくれる。
あたしはそれに応えながら剣を構え直した。

エアリスまでもうあと少し!

こんなところでやられるわけには絶対にいかないんだから!





「おい!クラウド!このちいせえ雑魚は俺に任せろ!」

「バレット!私も手伝う!その隙にクラウドとナマエはあの大きいのを!」

「わかった!ナマエ!援護してくれ!」

「了解!背中は任せてクラウド!」





迷っている時間は無い。
瞬時にそれぞれの役割分担を決める。

周りの細々とした邪魔な雑魚サンプルたちはバレットとティファが抑えてくれる。
その隙にクラウドが一番厄介な巨大サンプルを叩き、あたしはクラウドのフォローだ。





「クラウド決めて!!」

「はああッ!!!」





ふたりで隙を作り合い、ひたすらに攻めていく。

そうして相手の体力を削り続け、訪れたチャンスを逃さない。

あたしは気持ちの悪い腕に渾身の力で剣を突き刺した。
そうして抑えた隙に、クラウドが一気に剣を振り下ろす。

これが、トドメだ!!

クラウドの一撃を喰らったサンプルはぐらりとその巨体を揺らしながら、光に包まれ消えていった。
振り返ればバレットとティファも小さなサンプルをすべて片付けてくれていた。





「おい、宝条を追うぞ!」





バレットの声に頷き、あたしたちは宝条博士が乗って行ったエレベーターの方へ向かった。

幸い、エレベーターにはロックなどの機能はついていなかった。
このエレベーターは、この階とひとつ上の階だけを繋ぐだけのものらしい。

66階。
そこは、研究施設のメインフロア。

エレベーターの扉が開くと、あたしたちは一気に駆け出す。

ポッドの中に、よく知っているピンク色のスカートが見えた。





「エアリス!」

「エアリスー!!」





クラウドとあたしは叫んだ。
エアリスもこちらに気がついてくれる。

ポッドの前には神羅兵が6人…。

状況を把握をした時、どこからか宝条博士の笑い声が響いてきた。





「ふふふふ、感謝するよ。君たちのおかげで有益な戦闘データ取れた」





博士がいたのはあたしたちがいる場所より高い位置にある小部屋だった。
その部屋はガラス張りになっていて、互いの姿を確認出来た。





「随分と余裕じゃねえか!」

「データから算出した結果、この人数で十分に対応できると言う事なんでね」

「舐められたもんだぜ」

「エアリスを返してもらおう!」





バレットが叫ぶ中、クラウドも宝条を睨む。
すると宝条博士はクラウドの言葉に心底わからないとでも言う様な顔をした。





「返す?返すとは?私の記憶が確かなら、彼女は自分の意思で来たはずだが。それとも何か。彼女は君の所有物なのかね?」

「マリンを使って脅したからだろうが!」

「…見解の相違だな」





バレットが怒鳴ればこれ以上話しても仕方がないと言うように宝条博士は兵士たちに指示を出す。
銃を構えた兵士たちを前に、あたしたちも武器を構える。





「あー…きみたちにはわからないだろうが、ここには世界を変革するにたる貴重な実験体たちが眠ってるんだ。慎重にやってくれよ」





それはあたしたちに言っているのか、ここにいる兵士たちにも言っているのか。
でもその言葉は戦闘開始の合図にも等しい。

あたしたちと兵士たちは互いに走り出し、戦闘が始まった。

でも、兵士たちには悪いけど、さっきのサンプルの方がよほど厄介だ。

瞬時に片を付ければ、宝条博士の表情が少ししかめられる。





「計算を間違えたみたいだな!」

「ふーむ、未知の要因があるのか…まあいい、増援は手配済みだ」





バレットが嫌味を言ったけど、博士はめげない。

負け惜しみ?
いや、全然悔しそうでもないから、多分違いそう…。

なんにせよ、今流れはこちらにある。





「残念だな。間に合わない」





増援が来ると言った宝条博士にクラウドが言う。

うん、増援が来る気配はない。
きっとまだ此処に来るには時間がかかるはずだ。

でも宝条博士は焦らない。
むしろ興味は別のところ。

宝条博士は「…ん?」と何かに気が付いたようにクラウドの姿をまじまじと見ていた。





「その瞳、ソルジャーか?」

「…ああ」





クラウドは答える。

そうか。ソルジャーは魔晄を浴びた人間…。
となれば当然、宝条博士も深く関わっているはず。

でもだからってクラウドに何言うつもりさ。

あたしもじっと宝条博士を睨む。
いや、向こうはあたしなんて眼中なさそうだけど。

すると突然、宝条博士は何かを思い出したような顔をし、そこでゆっくりと首を横に振った。





「いや、違う。思い出したぞ。私の記憶違いだったな。お前はソルジャーでは…」





博士がそう何か言い掛けた直後だった。

ブワッ…

突如、背後に感じた異質な気配。
ぞわりとしながら振り向けば、そこにはあの幽霊のようなモノたちがいた。

え、神羅ビルにもいるの…!?

いつも突拍子無く現れる。
まさか神羅ビルの中でも見ることになるなんて思いもしなかった。

でも、今回のやつらの目的は…。
幽霊たちはあたしたちには構うことなく、真っ直ぐに宝条博士の元へと向かって行った。





「なんだこれは?わあああっ、なんだこれは…!」





目的は、宝条博士…?

幽霊たちはガラスもすり抜け、宝条博士の体をその場から引き離すように攫って行く。
それには流石の宝条博士も戸惑いを隠せず、どんどんと遠ざかりながらも困惑する声が響いていた。

でもこれは、あたしたちにとっては好機だった。




「クラウド!」





状況を見計らったようにエアリスの声がした。

兵士たちも倒した。
追っ手もまだ来ない。

宝条博士もいなくなった今、これ以上のチャンスは無い!





「バレット!」

「わかったよ、下がってろ」





クラウドの声にバレットは銃をポッドに向かって構える。
それを察したエアリスはポッドの奥の方へと身を隠した。





「おらあ!」





バレットがポッドを撃てばロックは外れ、扉が開く。

よっし…!
あたしはガッツポーズした。





「来てくれたんだ!」

「ああ」

「エアリス!」

「エアリス!おまたせー!」

「ティファ!ナマエ!」





ロックが外れ、顔を覗かせたエアリスにあたしたちは再会を喜んだ。

あたしはブンブンと手を振った。
エアリスも笑いながら振り返してくれた。

ああ、やっと…やっと会えた!

無事に手が届くところまで来られて、なんだか凄くホッとする。

でもその時、また武装した兵がこちらに向かってきた。
おっと、これは増援が来た感じ?

ちょっとだけ緊張が走る。

だけどもう、ここまで来たらだいぶ気は楽だった。
うん、エアリスの顔見て元気出たし!気合は十分だ!

こいつらさっさと蹴散らして、思いっきり喜ぶよ!

再び剣を構える。
こうしてあたしたちは再会に水差す武装兵たちに走り出した。



To be continued


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