重役会議を覗き見て



エスカレーターホールに出ると、エレベーターに乗ろうとするプレジデント神羅と重役のハイデッカーの姿を見つけた。
恐らく話に聞いた重役会議に向かうところなのだろう。

当然だけれど、プレジデントの周りは兵士たちが囲んでいた。
警備の体制は万全。厳重だ。

そんなところに近付いても今のあたしたちには何の得も無い。
あたしたちが今優先すべきはとにかくエアリスの救出だ。

だからそれだけを考えて、そのまま真っ直ぐにエスカレーターへと向かった。





「わ、なんか豪勢な感じの部屋だ」





エスカレーターで上の階に上がると、すぐに広い部屋が見えた。
扉はすぐに閉まってしまったから中はちらりと見えただけだけど、さっきの展示で見た重役たちが揃っているようだった。

あそこが例の重役会議室か。





「宝条博士もあの中に?」

「そのはずだ」





ティファが聞けばクラウドがそう答える。

宝条博士もあの会議室の中にいるはず。
だからその会議の様子を覗き見て、チャンスを見計らう。

その方法は、この階にあるダクトパイプに潜り込むことだ。





「敵情視察。そのための監視ポイントを探す」

「なに格好つけてる。トイレの中からダクトに入るって話だろ。トイレはどこですかって聞きゃあいいじゃねえか」

「必要ない。自分で探すさ」





協力者さんが教えてくれたダクトの入り口は男子トイレの中。

まあ、ここが神羅の関係者だけが入れるフロアなら、トイレの場所聞くのもちょっと変…かも?
別に隠し扉探してるわけでもないし、見つけること自体はそう大変じゃないだろうしね。

何にせよクラウドは誰かに聞く気は無さそうだし、あたしたちはフロアを回り、トイレの場所を探していった。





「じゃあ、待ってるね」

「いってらっしゃーい」





ほどなくトイレ発見。
ティファとあたしはクラウドとバレットに手を振った。

だって流石にこの先は入れないもん。
ていうかこうして男子トイレの前に立ってる時点で色々変だ。

でもその様子に、何故かきょとんとする男性二名。





「あ?目立つだろ」

「ティファ、ナマエ。中の方が安全だ」

「それは、そうだけど…ねえ、ナマエ」

「うん…それはねえ、いやいやいや…、…え、マジ?」





なんか普通に返された。

クラウドは真顔だ。ド真剣だ。
そんな顔されるとこっちは何とも言えなくなる。

え、本当に入れってか!
いやそりゃ確かにここで待ってるのもなかなか不審ですけども!

あたしとティファは顔を合わせた。





「ティファ…じゃあ、入る?」

「うん…、ま、そうだね…」

「わー…痴女と勘違いされませんように」

「ナマエやめて」





…まあ、とりあえず覚悟を決める。
こうしてあたしとティファも男子トイレに入る事になった。





「はあ…良かった、誰もいない」

「うん、セーフセーフ…」





中に入るととりあえず使用している人はいなかった。

あー…よかった。
ティファとあたしは一安心の息をつく。

そうしている間にクラウドは個室をひとつひとつ確認して先にダクトを見つけてくれていた。





「これか」

「あった?」

「ああ」





あたしはクラウドに駆け寄り一緒に天井を見た。

一番奥の個室。
そこに格子の蓋がはめられたダクトの入り口があった。





「外せそう?」

「ああ。ちょっと待ってくれ」





クラウドは便座の上に立ち、手を伸ばして格子を外した。

どうやらネジとかはついていなかったらしい。
無事に外せてよかった。

でも、その様子を見ていたバレットはちょっと顔をしかめてた。





「俺は…」

「見張りを頼む」

「だよな」





ダクトパイプは狭い。
入り口の大きさからみても、バレットは…ギリギリ?入れるかなって感じ。

それは本人からしてもそうということで、バレットにはここに残って見張りをして貰う事になった。

そうすると次はあたしとティファがどうするか。
でもこれに関してはあたしもティファも答えは完全に決まっていた。





「私たちは行ってもいい?あんまり、ここに残りたくないよね…ナマエ」

「絶対残りたくないよ!クラウドお願い!」

「わかった。俺が先に行こう」





クラウドも特に反対することなくすぐに了承してくれる。

こうしてバレットに見張りを頼み、あたしたちはダクトパイプの中に3人で潜りこんだ。





「わし、見たんだ!廊下を歩いているのを、しっかりとこの目で!」





狭いダクトを進み、繋がる一番奥。
そこに重役会議の部屋と繋がる格子を見つけた。

あたしたちは声や物音を立てない様に、息を潜めて会議の様子を覗った。

部屋を見つけた時、中はなんだかちょっと揉めてる様にも見えたけど、途中からだったし何の話をしていたのかはよくわからなかった。
でもプレジデント神羅はあまり興味が無さそうだったし、それはそう重要な話でも無かったのかもしれない。





「リーブ」

「はい。七番街の被害報告が出ました。倒壊した家屋の数が…」

「暗いニュースは結構」

「え…」

「他にないのか」

「…では、七番プレートの再建計画について」

「再建はしない。古代種の協力が得られることになったからな」





話は変わり、七番街プレート…そして古代種、すなわちエアリスの話へと移っていく。

七番街やエアリスに関することなら情報を得ておきたい。
難しい話だけど、少しでも理解しようとあたしは真剣に話に耳を澄ませていた。

七番街の再建は無し…。
その代わり、新たに計画されるのはネオ・ミッドガルの建設。

それは約束の地という場所に、新たな魔晄都市を建設する事…。

そういえばコルネオも新しいミッドガルの話、してた気がする。

約束の地って言うのは、さっきの見学ツアーで見た映像にそんな話が出てたっけ。
古代種たちが、夢見た場所?そして魔晄エネルギーで溢れる豊かな土地…。

話を聞く限りでは、そんな感じだったような。

でも全体的に曖昧。
よくわからないというのが正直なところだった。





「宝条博士」

「検査結果は予想通りだ。純血種だった母親より数値は下がるが、古代種と呼んでも差し支えないだろう」





そして話はエアリスのことへ。
重役たちの視線もあたしたちの目的である宝条博士にへと向けられた。





「約束の地はいつごろ分かる」

「その件で提案がある。自発的な協力を強制的に引き出す方法を試してみないか?大事な古代種だ。壊さない様に最大限の注意は払う」





プレジデントの問いにそう語る宝条博士。

…なんだか、話の流れが不吉なものに変わっていく気がする。

神羅はエアリスに約束の地を探させようとしている。
そのためにエアリスに拷問しようとしているってこと…?





「拷問なら、私に任せて」

「戦場仕込みで良ければ、俺も手伝おう」

「肉体的にも精神的に痛めつけるやり方が私は好きでね」





拷問と聞き目を光らせた、兵器部門と治安維持部門の統括…。
確か名前は、スカーレットとハイデッカー。

でもそれに対し自分にも好みのやり方があると笑う宝条博士。

神羅の重役にまともな奴なんていない。
そう言っていたバレットの言葉が頭に蘇る。

…笑ってる。

笑って、この人達…何の話をしているんだろう。

そしてそれを認めるプレジデント神羅。





「方法は任せる。ただし、母親の二の舞は許さんぞ」

「ああ〜。それに関連して考えている事がある。つまり、古代種の繁殖だ。古代種の男が見つかればいいが、望みは薄いだろう。ソルジャーあたりから始めようかと。もちろんS式、G式も試そうと思う。加えて目下、私の興味は異種交配にあってね、どうだろう。気になるだろう?」





宝条博士は嬉々として話す。

それってつまり…エアリスを。

何を、言ってるの…この人…。
酷く気分が悪くなる。胸糞が悪い。

その話に、あたしは思わず口元を押さえた。

するとその時、クラウドにトンと肩に触れられた。





「……。」

「……。」





顔を上げれば、クラウドは頷いた。
それはもう行こう、と言う合図だ。

会議はもうそろそろ終わる。
部屋から出て宝条博士が研究室に戻るタイミング…そこが、あたしたちの最大のチャンス。

ティファともアイコンタクトを取り、あたしたちはダクトの中を引き返した。





「どんな感じだ?」

「白衣の男を追う。そいつが、科学部門統括の宝条だ」





男子トイレに戻り、バレットに状況を説明した。

着実に、エアリスに近づけている。
でもなんだか、気持ちは焦りを増した気がする。

だからあたしは急ごうと促した。





「…早く、いこ」

「なんだ、早く男子便所から出てえってか」





ガクッ…。

バレットの言葉に思わずずっこけそうになった。
ちょっと…!緊張感が…!

いやそりゃ早く出たいけど!!
それは間違いないけども!!!






「いやそれもだけどっ!!早く、助けなきゃ…」






だけど、焦りは消えない。

クラウドがエルミナさんに少し強引にでも助けに行った方がいいと言っていた理由が今凄くわかった気がする。
ここは、なんて場所なのだろう。





「ナマエ、落ち着け」

「…うん」





クラウドになだめられ、あたしは言われた通りに少し落ち着こうとした。
うん、焦ってるのは自分でもちゃんとわかるから。





「大丈夫だ。必ず、助ける」

「…クラウド。…うん!」





クラウドはちょっと見透かしたみたいにそう言ってくれた。

その言葉は、なんて力強い。
あたしはクラウドを見つめ、しっかりと頷いた。

さあ、宝条博士を追えば、エアリスはきっともう目前だ。

そう気合を入れ、あたしたちは宝条博士を追うべく会議室の方へと向かった。



To be continued


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