落日の街を越えて



壁を越えた先…。
夕陽に照らされた七番街では倒壊した建物の傍で沢山の人が嘆いていた。

もう、すべてが瓦礫の山…いつどこが崩れてもおかしくない状態。

自警団の人には街の奥に行くことは止められた。
崩落の危険があるから、行っても後悔することになるって。

でも、あたしたちが目指すべき場所はそこ。
あの瓦礫で出来た塔を上って、神羅ビルへ向かう。





「あそこを登るんだよね」

「うん…やばいね。なんとか保ってます〜…って感じ」

「ちょっとでも崩れたら、ひゅううう〜…ドン!だな」





ティファが指さした先を皆で見上げる。
その瓦礫を見て、ちょっとだけ背中に寒気を感じた。

いやあれは寒気もするでしょ。
建物はところどころ崩れてボロボロで、ちょっとした衝撃できっと簡単に崩れるから。





「今に始まったことじゃない」





するとクラウドは淡々と言った。
おお、流石だ。

でもね、そうだね。
こんなのきっと今更だ。

今までも、わりと無茶してきたよね。

そう思えば、なんだか少し余裕に変わる。





「へっ、安全な道なんてとっくに無かったな」

「うん、手段があるなら進むのみ、だね!」





バレットとふんっと気合を入れた。

ところどころには救助隊が使ったであろうロープが垂れ下がっているのも見える。
きっとその辺りならワイヤーを引っ掛けて進めるはずだ。

こうしてあたしたちはレズリーから受け取ったワイヤーガンを駆使し、瓦礫の上を目指していった。





「…よ、と!」





シュタッ…と、着地する。

ワイヤーを使っての移動はちょっと楽しい。
ひゅんっと飛んでいけるのはなかなか爽快だった。

それと、もうひとつ。
あたし的にはクラウドを見てるのもとても楽しかった。

いやワイヤーガン使うクラウドめっちゃ格好よくね!?
なんだろ、着地のちょっとした動作なんかも凄く格好良いんだよな…。

うーん、ささやかな幸せ噛み締める。

そんな風にホクホクしていると、クラウドはあたしたちにちょっと待てと手で合図してきた。

どうやら何かいるらしい。
クラウドの指示のもと、そっと全員で物陰に身を潜めて伺えば、そこには神羅の飛行部隊と飛行兵器の姿があった。





「捜索か…」

「アバランチの残党、探してるってこと?」

「だろうな」





聞けばクラウドは頷いてくれた。

うへえ…とことこんやるってか。
流石神羅って感じ。





「はっ!上等だ!」





そんな状況に、バレットはわざわざ姿を晒して迎え撃とうとした。






「目的を忘れるな」





クラウドはすぐさまそれを制する。

いや当たり前だ。
だってあたしたちの目的は残党狩りを蹴散らす事じゃなくてエアリスの救出だもん。

余計な騒ぎは起こさない。
それに越したことはないのだから。





「でも、なんかさっきの兵器…厄介そうだったな」

「ああ。出来るなら衝突は避けたいな。足場も不安定だ。分が悪い」

「うん」





あたしはさっき見た飛行兵器が少し気になっていた。

ちょろっと零せば、クラウドが反応してくれる。
どうやらクラウドもそれとの遭遇は避けたいと思っていた模様。

さっき飛んでいた飛行兵器は見た事の無い型をしていた。
まあ神羅の機械兵器なんてだいたいロクなモノじゃないから避けて通れるならそれが一番いい。

とはいっても、普通の兵隊はちょろちょろしているから、多分見つかるのは時間の問題のような気もするけど…。

でも、その前にさっさとゴールにたどり着けたらいい。

立ち止まる理由はない。
あたしたちは先へ先へとどんどん進んだ。

けど、嫌な予感とは的中するもので。





「隠れろ!」





クラウドの叫びを聞き、あたしたちは近くにあったコンテナの影に身を寄せた。
するとその瞬間、ババババッ!と勢いよく銃撃が降り注いできた。





「うっわ!さっきのやつ!容赦ないな!?」





攻撃してきているのはさっき遭遇を恐れたあの飛行兵器。

弾切れって概念あります!?
それは止まない雨のようにあたしたちに向かい発砲を続けてきた。





「もう戻れねえな」

「進めるなら問題ない」





道が崩れているわけじゃない。だったら進むだけ!
あたしたちはとにかく走り、突き進んで兵器を振り払った。

幸い続く道が建物の中に入れる部分だったから、そこに入ってしまえば機械は追いかけて来ようが無かった。





「クラウド…」





またある程度歩いたところでティファがクラウドを呼んだ。

クラウドは進もうとしていた足を止め、振り返る。

もう、結構な高さまで登ってきた。
そこからは、崩れ落ちた七番街の景色を一望出来た。

広い、広い景色…。
なにもなくて。

沈む夕日はオレンジと少し紫掛かっていて綺麗だったけど、それが何だかもの悲しさを膨らませるようにも感じた。





「また、店やろうぜ」

「うん、やろう…」





景色を見ながらバレットはティファに声を掛け、ティファも頷いた。

セブンスヘブン…。
振り返ると、色んな思い出がたくさん詰まった場所だった。

あたしも、しょっちゅう足を運んでた。
何かとあると、ちょっと寄ろうかなって思う…そんな場所だったから。





「ナマエも、また手伝って…?」

「うん、勿論。お客さんとしてもいーっぱい行く!だから、またパンケーキ作ってよ、ティファ」

「…うん…!いくらでも!」





あたしとティファは、そう言って笑い合った。

この間、朝ごはんに作ってくれたパンケーキ。
本当に美味しかったから。

そんな些細な約束が、今はとても力になる。





「クラウドも、手伝ってくれる?」





ティファはクラウドにも尋ねた。

クラウドは少し視線を逸らす。
でも、ゆっくり振り向いて。





「安くないぞ。…助手もな」





短く、そう言った。
その言葉にあたしたちは笑みを零した。

捻くれた言い方。でも、やっぱり優しい。

それに、助手だって。
そんな風に言ってくれることが、凄く嬉しい。

さあ、感傷に浸るのはこれくらいにしよう。
そうしてあたしたちは再び、瓦礫の山を登り始めた。





「っしょ、と!」





また、ワイヤーガンを撃つ。
もう何度も繰り返したけど、やっぱり結構楽しいのである。

タンッ…と軽く着地すれば、今度は少し開けた場所に出た。

だけど、暢気に辺りを見渡している場合じゃない。
直後、あたしたちの足元にまた銃撃の雨が降り注いだ。





「げっ!きた!!」

「走れ!」





そこにいたのはまたあの飛行兵器。
もうっ、しつこいな!!

あたしが顔を歪ませればクラウドが後方へ逃げろと叫ぶ。

あたしたちは銃撃から逃げる様にとにかくダッシュした。





「うおおおおお!!走れ走れ走れ走れ走れ!!まずいぞ、おい!!」





バレットが走りながら大声を上げる。
あたしはその横で走りながらバングルにはめたマテリアに魔力を込めていた。

倒せなくてもいい。それが目的じゃない。
ただ一瞬でも隙を作るかどこかしら破壊して退けられれば!

先には段差がある。
そこを飛び越える為に踏み込んだ瞬間、あたしは跳び際に身体をねじって振り向き雷を放った。





「サンダラッ!!」





流石にガ級の詠唱をしてる時間は無い。
だからそこそこの威力のラ級を放った。





「どうだっ!」





魔法は命中した。
段差の向こうに着地しながらその行く末を見る。

雷に打たれた兵器は銃撃を止めた。





「おう!ナマエやるじゃねえか!!」

「いや、まだだ」





バレットが褒めてくれたけど、クラウドが冷静に言う。

うん、やっぱりこんなもんじゃダメだ。

機械の弱点は雷。
それは間違いないけれど、神羅製だもん。

そんな簡単にショートなんてしてくれない。

兵器はすぐに立ちなおすと、ギュンッ…と勢いよく飛んであたしたちの進む先に立ちふさがった。





「追いかけっこはおしまいか!」

「来るぞ!」





出来ればこの展開は避けたかったけど、もう戦うしかない!
開けた場所だったのは幸いだ!

あたしたちは武器を構え、飛行兵器をここで倒すことを決めた。





「バレットー!!」

「おう!!飛んでる奴は俺に任せろや!!」





あたしはバレットに叫んだ。
今この状況でメインで遠距離攻撃が出来るのはバレットだけだ。

そうなれば当然、主力はバレットになる。





「さっさと撃ち落とすぞ!!」

「ナマエ、今度はサンダガを撃て。俺とティファで詠唱のフォローをする。ティファ、いけるな」

「任せて!ナマエ、お願い!」

「わかった!よろしく!」





分担を決め、叩いていく。
主にはバレットが削り、クラウドとティファの支援を受けながらあたしが魔法を放つ。

時にはワイヤーガンも使い、場所を変えるような事態にも追い込まれた。

けど、なんとかプロペラ部分を壊した瞬間から一気に畳み掛け、機能停止まで持ち込んだ。





「やったぜ!これが俺らの実力よ!」





倒した…。
やっと、息がつけた。

でも、すぐに異変に気が付く。

あれ…なんか、様子変…?





「しまった…!」





なんだか変な音を立てている兵器に不穏さを感じると、クラウドが慌てたように声を上げた。

クラウドがそう言うのだ。もう間に合わなかった。
その瞬間、兵器は自爆した。

ドンッという強い衝撃。

そんな力が加われば、今いるこの瓦礫の足場は簡単に崩れてしまう。





「きゃあ!」

「ティファ…っ!」





崩れた足場に対応できず、ティファの体が落ちて行ってしまう。
手を伸ばしたところで間に合わない…!





「ナマエ!あんたは自分のことだけ考えろ!!」

「えっ!?」





クラウドがあたしにそう叫んでティファに向かって走り出した。

じ、自分だけ考えろって…!?

でも、判断に迷ってる場合じゃない。
だってあたしの足場だって崩れ始めてる。

ええいっ…!クラウドがそう言うなら信じる!

あたしは急いでワイヤーガンを放ち、崩れる足場から逃げた。

そうして宙に浮かびながら振り向けば、クラウドがティファの体を抱き留め、ワイヤーガンを放ったのが見えた。さ、さすがクラウド…カッコイイ…。

でもそちらが大丈夫なら、バレットは…。
あたしはバレットに視線を向けた。

バレットの方はティファより余裕がある様に見えたけど…。
でも、あのスピードで崩れていく足場にバレットも対応しきれなかったらしい。





「バレットッ!!」





血の気が引いて叫ぶ。

バレットの体は崩れる足場を転がって、慌ててワイヤーガンを撃ったけど、運悪く金具が外れて宙に投げ出されてしまった。





「ティファ!」

「バレット!」





クラウドの指示でティファが慌ててバレットに向かってワイヤーガンを撃った。
バレットは何とかそれを掴み、事なきを得る。

あたしが安全な足場に着地できたのは、ちょうどその時だった。

慌てて振り向き皆の方を見る。
するとすぐクラウドとティファも着地して、ふたりでバレットのワイヤーを引き上げた。

バレットの体は、ドサアッ…と足場に投げ出される。
うわ、ちょ、ちょっと痛そう…。

でも、全員無事…。





「はあ…良かった…」





あたしは安心して、力んでいたのが緩んだみたいにその場にぺたん…と座り込んだ。





「ナマエ!」

「クラウド…」





その時クラウドが急いでこちらに駆け寄ってきてくれた。
そして座り込むあたしに合わせる様に彼もしゃがみ、トン…と優しく肩に手を置いてくれた。





「大丈夫か?悪かった…。ひとりで放り出して…」

「え!あ、ううん、あたしは全然!へっちゃらだよ!」





わざわざそんな心配してくれるのか。
あたしは余裕があったし、クラウドの行動こそあの状況で取れる最善だったと思う。

だからあたしはブンブンと首を横に振り、笑顔を見せた。





「それより凄いね、クラウド!あんなとっさの判断でティファ助けちゃうんだもん!カッコよかった!」





ちょっと興奮気味?いやでもあれは本当凄かった。
あの判断力とそれを実行できる行動力よ。

おかげでティファとバレットも無事。
どうしようって本当に焦ったから、助かってよかった…。

あたしがそう褒めればクラウドはふっ…と笑ってくれた。

そして立ち上がり、あたしにも手を差し出して立たせてくれた。





「ありがと」

「ああ」





立ちあがって、お礼を言う。

なんだか離し難い。
でもいつまでも握ってるわけにはいかないから、する…と手を離した。

そうして4人で先を見る。





「さあ、もう一息」

「こっからだな」

「うん、もうすぐ本番だね」

「準備運動は終わりだ」





瓦礫の山のゴールはすぐそこ。
神羅ビルは、目前に。



To be continued


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