その優しさに触れる
「おっと、約束忘れてねえだろうな」
「わかってる。あった、地上に出よう。上へ行く方法を教える」
バレットの言葉を聞いたレズリーは部屋にあった大袋を手にし、外に出ようと言った。
彼は、笑っていた。
もう吹っ切れたような、凄く良い顔をしている。
こうしてあたしたちはレズリーに案内され、部屋の奥にあった梯子を使って下水道から出た。
「あーっ!思いっきり息が出来るぜ!」
「ほんとほんと!はー…っ、気分爽快…!」
外に出るなり、バレットとあたしは外の空気を目一杯に吸い込んだ。
下水道の空気は淀んでいて気持ちが悪い。
あの独特の臭いから解放され、あたしは「うーん」と思いっきり腕を伸ばした。
「こっちだ」
先頭を歩いていたレズリーは出口のすぐ傍にあったフェンスの扉を開け、中に入って行った。
フェンスの向こうは開発地区のようで、建設工事の道具や機械が溢れている。
とは言っても工事は中断しているのか人の気配は全然ないんだけど。
レズリーはそこで地下から持ってきた大袋を開いた。
そして中からあるものを取り出して見せてくれた。
「ワイヤーガンだ。撃ちだしたワイヤーを引っ掛けて上昇することが出来る。あの壁を越えれば七番街だ。ワイヤーがあれば、壁も瓦礫の山も昇って行けるはずだ。あくまでも上昇用だ。一度昇れば戻れないと思っておいた方がいい」
彼はその使用方法と注意を説明しながらそれぞれにひとつずつワイヤーガンを渡してくれた。
開発地区の奥の方…そこには街を隔てる大きな壁があった。
向こう側は七番街。その瓦礫の山を登って行けば、上の街に行ける…か。
わりと荒っぽい手段だ。
でも、これなら封鎖されているとかそういう心配も無く上に行くことが出来るだろう。
レズリーはちゃんと約束を守ってくれた。
「ありがとう」
「うん、ありがと、レズリー」
「俺たちもな、人を探しに行くんだ」
ティファとあたしはお礼を言い、すっかりレズリーのことが気に入ったらしいバレットは自分たちが上に行く目的をレズリーに話した。
それを聞いたレズリーはポケットからあのネックレスを取り出した。
「そうか。会えると良いな」
そして自分と重ねる様にしてそう言ってくれた。
「あんたもな」
そんな彼にクラウドもそう返す。
うん、そうだね。
レズリーも、再会出来るといいな。
ううん、きっと出来る。出来ますように。
あたしも、そう願った。
そしてレズリーはあたしたちに一度だけふっと微笑むと、再び大袋を担いでその場から走り去っていった。
「行くか」
レズリーの背を見送ると、バレットが言った。
あたしたちは七番街を隔てる壁へと向き合う。
上へ行く方法が見つかったなら、もう迷う事も無い。
それが一本道でも、進むのみ。
あたしたちは壁の前までやってきた。
「お前、これが終わってもなんでも屋続けんだろ?」
「その、つもりだ」
上る直前、バレットは突然クラウドにそんな事を聞いた。
いきなりなんだと少し不思議そうにしながらもクラウドは頷く。
それを聞いたバレットはなんだかちょっと嬉しそうな顔をした。
「あってると思うぜ」
「それ、わかる」
なんでも屋はクラウドに合っている。
バレットがそう言えば、それを聞いたティファも同意した。
「最初はよ、無愛想、気取り屋、過剰な自意識…いけ好かない奴、堂々の1位だったが流石にわかってきた。本当のお前は、違う!」
「そうそう、本当は優しいよね。子供の頃は気づかなかったけど」
ふたりはそう言ってクラウドのことを褒めた。
出会ってから、色々あった。
一番最初は、壱番魔晄炉の爆破ミッションかな。
その頃のバレットはクラウドのことがいけ好かなかったらしい。
そう言えばこの3人は伍番魔晄炉のミッションも一緒にやったんだっけ。
それから支柱の攻防戦、エアリスのこと、七番街跡の救助活動と…共に行動して、少しずつ、その見方が変わっていく。
今さっき、コルネオの屋敷に向かう前も、街の様子を見ながらなんでも屋として色々と力を尽くした。
そんな様子に、ティファは勿論、バレットもクラウドへの認識がすっかりと変わったようだ。
まあ確かに、ぶっきらぼうだし、ちょっと捻くれてるところもあるけれど…。
でもそれを聞いていて、あたしは少し「うーん」となった。
「クラウド、最初っからずっと優しかったと思うけどなぁ…」
「ああ?」
「ふふ、そうだね。ナマエはわりと、最初っからそう言ってたかも」
「……。」
ちょろっと零せば皆の視線があたしに集まる。
バレットは顔をしかめ、ティファはくすりと笑ってた。
クラウドは、無言。
するとバレットはわしゃわしゃと後ろ頭を掻きながら言った。
「ま、アホのくせにお前わりと人を見る目はあるからなあ…」
「え、そう?えへへ…って、アホは余計!」
バレットめ。いきなりアホとは失礼な。
でも褒めてくれてるならそこは素直に受け取りますけど!
そうしていると、クラウドは小さく息をついた。
「そんなものもしあっても、戦場では役に立たない。…いや、邪魔だ」
優しさは、邪魔…。
それを聞いたあたしはクラウドを見た。
するとクラウドもこちらを見てくれて、ぱちりと視線が合った。
《優しいって…あんたにそう思われるのは、悪くない気がしてる…》
夜…クラウドはそう言ってくれた。
優しさなんて、戦場では役に立たない邪魔なモノ。
今クラウドはそんな風に言ったけれど、でもそれは、そんな考え方をするのに、そう思ってくれたって事だもんね。
…そこは、自信を持って言えたかもしれない。
だって今、こっちを見てくれた。
目が合った時、少しだけ眉を下げながらも微笑んでくれた。
役に立たないのにな…って、クラウドがあたしに笑ってくれたって事だから。
昨日の言葉を思い浮かべながら。
だからあたしも笑みを返した。
「ま、神羅に優しくする必要はねえけどな」
「エアリス、待ってるよ」
「格好良く乗り込もうぜ」
バレットとティファが壁を見上げて言う。
うん、もう心の準備は出来てる。
神羅に乗り来んで、エアリスを連れ戻す。
「迎えに行こう、エアリスのこと」
「ああ」
クラウドは頷いてくれる。
バレットとティファも。
「行くぞ」
そしてクラウドのその声にあたしたちは頷いてワイヤーガンを取り出した。
構えて引き金を引けば、ワイヤーが高く撃ち出される。
よし!
エアリス、今行くよ!
ワイヤーによって浮かび上がる体。
あたしたちは上にある神羅ビルを目指し、瓦礫の世界に向かった。
To be continued
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