再会の花言葉



「奴は俺にやらせてくれ。頼む」





コルネオの隠れ家に向かう途中、レズリーはあたしたちにそう頼んできた。

レズリーがコルネオに仕えていたのは復讐の為。
彼はきっと、コルネオを追い詰めるこの瞬間をずっと待っていたのだろう。





「わかった」





クラウドは了承した。あたしたちも頷いた。

あたしは、またコルネオに会ったらどうしてやろうかって思ってた。
でもそれはぎゃふんとした顔が見られればそれで満足なわけで。

レズリーが決着をつけたいと言うのなら、それを素直に応援したいと思った。





「ここで待っててくれ」





さっきネックレスを盗まれたコルネオの隠れ家の前まで戻ってくる。
そこでレズリーはあたしたちにそう言い残し、ひとりで扉の向こうに入って行った。





「あいつひとりで本当に大丈夫かよ」





バレットはレズリーを心配していた。
最初はあんなに疑っていたのに、もうすっかり認めている証拠だ。

でも、確かに中の様子は気になるよね。

コルネオは一見マヌケそうに見えるけど、ああ見えてきっと、ちゃんと裏世界のドンだ。

前に乗り込んだ時、最初は脅しの効く情けない奴だって感じだった。
でも…ある瞬間からガラリと雰囲気が変わったから。

レズリーも恐ろしい人って言ってた。
アレはきっと冗談で言ったわけじゃない。

認めたくないけど、油断しちゃいけない相手なのは確かだ。





「ねえ、クラウド」

「…先にもう一つ部屋があるようだった。とりあえず手前まで行って、少し様子を見よう」





クラウドを見れば頷いて、そう静かにドアノブを捻ってくれた。

クラウドの言う通り、先にはもう一つ部屋がある。
レズリーが入った時にちらっと見えた。

あたしたちはその部屋まで行き、ほんの少しだけ扉を開け、隠れ家の様子を覗った。





「レズリーです。コルネオさんに報告があってきました」





見ればレズリーがコルネオに声を掛けているところだった。

でも、コルネオの姿は見えない。
どうやら用心深く隠れていたようで、レズリーの声を聞いたことで屏風の裏から「ほひ?」と顔を覗かせた。

…相変わらず、あの口調ド突きたくなるわ。





「ひとりか?」

「はい」

「ほひ?アバランチの子猫ちゃんたちは?捕まえてくるのがお前の仕事だろうが」

「すいません。その事で報告が」

「フーン?」





あいつ、レズリーにアバランチを捕まえる指示を出てたのか…。

コルネオはレズリーを疑うことなく耳打ちをするようにと手招きした。

レズリーは頷きゆっくりと近づいていく。
その背中には隠し持っていた銃が握られていた。

そして届くところまで来たとき、チャッと銃をコルネオのこめかみに突き付けた。

でも…。





「フンッ!」

「ぐっ…!」





あっ…!と、思わず焦る。

コルネオは銃を握るレズリーの腕を掴み、そのまま捻り上げて緩んだ隙にレズリーの胸元を殴った。
思いっきり殴られたレズリーは「かはっ…」と苦しみその場に蹲ってしまう。

銃も…取り上げられてしまった。

コルネオは蹲るレズリーを睨んだ。





「レズリー!俺が何で隠れてるか知ってるよな!」

「……。」

「アバランチの子猫ちゃんにちい〜っと喋り過ぎて、神羅に睨まれちまったんだよ。プレートがどがががーんでもっともーっと被害が大きくなるはずが、あいつらがスラムの奴らを非難させちまいやがって…」





そこで語られた話は、はらわたが煮えくり返りそうな話だった。

あの時、あたしたちに話をしたこと…。
神羅はもっともっと大きな被害を想定していた…。

バレットもティファも、ギリッと手を握りしめていた。





「ここだけの話、神羅はミッドガルを捨てて新しい楽園を作るつもりだ。俺はそこで、新生ウォール・マーケットのドンになるはずが!…今はお尋ね者。レズリー、お前には新しい店を任せようと思ってたのによ…残念だよ」





コルネオはひとり、ぺらぺらと色々な事を語り始める。

まるで、あの時みたい。
あの時もがらりと雰囲気が変わったかと思ったら、途端に色々な事を話し始めた。

こちらの本気を見て、脅しに屈した。
あの時はそんな風にも取れた。

でも実際は違った。





「さ〜て問題です!俺たちみたいな悪党がこうやってぺらぺらと真相を喋るのは一体どんな時でしょう〜か?」





コルネオは声音を明るくし、レズリーに問う。
それはあの時の、あたしたちが下水道に落とされた時と全く同じ質問だった。

あの時、クラウドが正解を言い当てた。

部下であるレズリーは、きっとその答えを知っている。
レズリーはぐっ…と悔しそうにその場に俯き呟いた。





「勝利を、確信している時…」





コルネオは蹲るレズリーに銃口を向ける。





「正解」





慈悲の無い声。
でも、今度は思い通りになんかさせない。

チャキッ…と、刃物の音がコルネオの首元に響いた。





「本当にそうか?」

「ほひ?」





コルネオに剣を差し向け、そう聞いたのはクラウドだった。

形勢逆転。
一歩間違えばすぐに首をはねられる。

両手を挙げたコルネオに、あたしたちも駆け寄った。





「おまえらっ…」

「七番街の件、詳しく聞かせてもらおうか!」





動揺するコルネオの手からバレットが銃を奪って捨てる。
その隙にあたしとティファは蹲っているレズリーの元に向かった。





「レズリー、大丈夫?」

「ああ…」





あたしは一応、回復魔法を唱えておいた。
多分胸を殴られただけだから一時的な痛みだと思うけど、とりあえず。

そうしていると、コルネオは突然あたしたちの注意を引くように部屋の奥の方を指差し始めた。





「あ〜〜〜〜あっ!」

「てめえ、ふざけてんのか?」

「ほひ〜!残念!でも、ふざけてないんだな、これが」





睨んだバレットの言葉にコルネオは不敵に笑った。
その瞬間、急に辺りがグラッと揺れた。

えっ!?
そう思うと同時に、あたしはその状況に既視感を覚えた。

これ…!この揺れの感じ…!
前に此処に落とされてすぐ戦ったあの時と似てる…!

そう思い出して、バッと振り返った。

すると、その予感は的中。

ドスンッとあたしたちの目の前に飛び出してきたのは、前に此処に落とされてすぐに戦ったあの馬鹿デカい怪物だった。





「ちょっ!またこれ!って、あ!!」





揺れでクラウドの剣が首元を離れたのを見計らい、コルネオはその場から駆け出して逃げていく。

あっ、こんにゃろ…!って思ったけど、きっとこの怪物は主人を追う事を許さないだろう。 

暴れ出す怪物。
勢いよく振り回された腕が、ティファに向かう。

でもそれを察知したレズリーが慌ててティファを突き飛ばし、代わりに自らが飛ばされてしまった。





「あっ!」

「レズリー!!」





あたしとティファはレズリーを視線で追う。
レズリーの体は奥にあるドアへと当たり、隣の部屋へと放り出された。

そして駆け出したコルネオもまた、その扉へと向かっていた。





「それじゃあアプスちゃん!あとはよろしく!」





隣の部屋へ逃げる直前、扉の前でコルネオは怪物にそう叫んだ。

アプス…って名前付けてんのか。

もしかしたら、あの部屋の向こうには逃げ道があるのかもしれない。
でもまずはこのアプスちゃんとやらを何とかしないと追いかけられない…!





「まずはこいつを黙らせる!ナマエ!来いっ!」

「っ…わかった!」





剣を構えたクラウドに呼ばれる。
それは前回と同じ要領でやるぞって言う意味だ。

うん、とにかく今はこいつを何とかしないと…!

あたしも剣を抜き、構えてクラウドの傍に走った。





「ナマエ!いけっ!!」

「了解!はあっ!!」





バレットやティファにもアシストして貰いつつ、クラウドがガンッと強い一撃を足に浴びせた。
その衝撃で巨体がぐらりと揺れる。あたしはその隙を逃さぬように一気に駆け出し、ザンッとトドメの一発を突き刺した。





「っ終わり…!」





ドサッと落ちた巨体。
アプスは動かなくなる。

討伐完了!

でも、それをのんびりと喜んでいる場合じゃない。

コルネオは!レズリーは!

あたしたちは急いでふたりの消えた奥の扉へと向かった。





「大丈夫か」





扉を開けたクラウドが中に倒れていたレズリーにいち早く駆け寄りそう声を掛ける。
その声に気が付いたレズリーは目をさまし、ゆっくりと体を起こす。

でもそうしてハッと気が付いた時、一番に気にしたのはやはりコルネオのことだった。





「コルネオは!?」

「すまねえ、逃がしちまった」

「…そうか」





バレットが謝ればレズリーは落胆しながらもあたしたちを責めなかった。
自分は何も出来なかった…きっと、そんな痛みだろう。





「また探すさ。どうせ他にやることもない」





レズリーは立ち上がった。
彼はまた、コルネオを探すのか…。





「探すのは、コルネオでいいの?」





するとそんなレズリーにティファがそう言った。

え、とティファに視線が集まる。
レズリーも不思議そうな顔。

ティファはそっとレズリーの手を取ると、あのネックレスを握らせた。

どうやらレズリーが飛ばされた時に落としていたらしい。





「大事な人なんでしょ?」





ティファの言葉に納得した。

そっか…。
確かに探すならコルネオじゃなくて…。





「いなくなってから気が付くんだよなあ…お前はまだ間に合うだろ?」





ティファに同意するようにバレットも焚き付けた。

レズリーの話では、その彼女はコルネオに選ばれた後に姿を消したと言う。
つまりきっと、どこかで生きている可能性が高い。





「花言葉…どういう意味だったんだろうな」





レズリーは手の中のネックレスを見つめ、そう呟いた。

彼の恋人はそのネックレスを返すとき、花言葉…と言い掛けたらしいから。

花言葉か…。
そんな話を聞けば、あたしはエアリスを思い出した。

エアリスもいっぱい花言葉教えてくれたよなあ…。

そうして何気なくレズリーの手の中に目をやれば、あれ…とひとつ気が付いた。

そのネックレスのモチーフになってる花…。
それ…エアリスが教会で育ててたあの黄色い花と同じだ。





「…、」





そう気が付いた時、隣でクラウドが少し顔色を変えた事に気が付いた。
何か言い掛けて、でも少し考える様な…そんな顔。

クラウド…?

あたしはその横顔見ていて、はっ…とした。

確かエアリスはあの黄色い花の花言葉、クラウドにも教えたって言ってた。
もしかしたら、クラウドも思い出したんじゃないだろうか。

そう思ったその時、ティファが優しくレズリーに告げた。





「再会だよ」





その単語にぴくりと反応した。





「花言葉は再会」





ティファは微笑んだ。

そうだ。確かあの黄色いお花、クラウドはエアリスから貰って…それをティファに渡したんだった。
お店のカウンターの奥に柔らかく揺れていた一輪の黄色…。

きっとティファは、クラウドから貰った時にその花言葉を調べたんだろう。

あたしもその意味を知った時、幼馴染みの再会にはぴったりだなあ…なんて、そんなことを思ったんだった。





《この黄色いのの花言葉、再会なんだってね》

《…そういえば、そんなこと言ってた気がするな》

《エアリス、クラウドには教えたって言ってたよ。で、その通りエアリスと再会したわけだね》

《まあ…そうだな》

《ティファに渡したのも大正解だよね。意味ピッタリ!幼馴染みの再会だったわけでしょ?もしかして意味、考えて渡した?》

《…いや》





エアリスの家の庭で、クラウドとそんな話をした。

再会、という花言葉を教えた通りにまた縁のあったエアリス。
花を贈られて、幼馴染みの再会と…まさにピッタリのティファ。

その話をした時、二重で掛かっててすごいねー、なんてあたしはクラウドに笑った。

うん、ちょっとロマンチックで、あたたかくなるような…そんな話だ。

だけど今は少しだけ…。

ちらりと、心に覗く。
今は少し、羨ましいな…なんて、そんなことを思った。





「…あいつを探すのが先だな。ありがとう」





レズリーはネックレスを握りしめる。
そしてあたしたちにそうお礼を言ってくれた。

花言葉…。
彼女が最後にそう言い掛けたのならば、きっとそれが彼女の願いだから。



To be continued


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