楽しい未来を想像して



「ねえ、クラウド。コルネオの話が本当だったとして、その場合、神羅の狙いは何だと思う?神羅の本当の目的。私達を潰すためだけなら、代償が大きすぎるよね」

「七番街の破壊と引き換えの利益か。俺には想像がつかない」

「コルネオの嘘だよね。だって、コルネオだもの…」





下水道を歩きながら、ティファはクラウドにコルネオの話をどう思うか聞いていた。

上の街もスラムも、七番街の全てを破壊する…。

それはあまりにも大逸れた作戦。
だからどこか現実味がなく感じていた。

なんにせよ、早くここからは出ないと。
そう思いあたしたちは足を進めた。





「この大きな水路知ってる。向こう側は七番街だよ」

「あ、前に教えて貰ったやつ!そうだ、大きな水路挟んでるんだよね」

「六番街との境か」





しばらく歩き、目的だった大きな水路に辿りついた。

そこは六番街と七番街の境目。
水路を越えて七番街側の扉に入ればスラムに出られるはず。

でも、残念ながら近くに向こう側に渡れそうな道はない。
それを探そうにも下水道内は妙に入り組んでてまるで迷路みたいになっている。

なんでこんなわかりにくい道にするかな…!
誰への嫌がらせだ、まったくもう!

うんざりしたけど、七番街側に渡る道は絶対にあるはず。
それは確かだから、あたしたちは諦めず下水道内を歩いて行った。





「あ、道出来た」

「ついてる。向こう側に渡れるよ!」





色々と回り、電力を復旧させたり水門のレバーを動かしたり。
そうしていると、水の流れが変わって、運よく反対側に渡れる足場が出来上がった。

やったぜ!ってティファとハイタッチ。

水の上だからかなり不安定だけど、多分大丈夫だろう。
念のためクラウドが「先に渡って様子を見る」と一番手を買って出てくれた。

板を確かめながら渡っていくクラウドの背中を見ていると、ティファがあたしの手を握ってきた。





「ん?ティファ?」

「…ダメ。ナマエ…最悪の事態、考えちゃう…」

「ティファ…」





ティファの瞳は不安そうに揺れていた。
あたしは握られた手をそっと握り返した。

大逸れた、現実味のない作戦。

道を進むたび、時間が経つたび…。
もしも本当だったらという気持ちも強くなっていく。





「気持ち、わかるよ」





するとエアリスもそう言って寄り添ってくれた。

最初は皆と話したり、下水道に棲みついてるモンスターにうんざりしたり、他の事に気をやれる余裕みたいなのがあった。
でも、少しずつ少しずつ、不安な気持ちも増えていって…。

ティファは、それをうまく振り払えずにいた。

確かに、不安はチラつく。

でも、まだ確定じゃない。
本当でも、まだ防ぐ手段はある。

あたしはまだ、そう前向きに考えることは出来ていた。

だから出来るだけ明るくティファを励ました。





「ティファ、まだ大丈夫だよ。時間はあるはずだもん」

「…うん、七番街の破壊なんて、タチの悪い冗談…。もし、もし本当でも、ギリギリで中止になる。そうなる…。ねえ、ナマエは、怖くないの…?」

「ううん、怖いよ。だから、前向きなことを数えてる。もし本当でも、まだ大丈夫。あの柱を壊すって、かなり大がかりだよ。それに、神羅に動きがあったらスラムの皆だって不審に思う。黙ってるはずが無い。探せば色々、前向きな要素もあるものだよ」





ね、とそう笑った。
するとティファの表情も少しだけ和らいだ気がした。

そりゃ、あたしだって怖い。
七番街スラムがなくなる?そんなの冗談じゃない。

だから不安ばかり数えない。

そうだ。エアリスにも賛同して貰おう。
そうすれば、あたしもティファももう少し前を向ける。





「ね!エアリス!」





あたしはエアリスに話を振った。
その声にティファもエアリスを見る。





「…うん」





エアリスは頷いてくれた。
でもそれは想像していた明るいものとなんだか違う。

あたしたちから視線を外すように俯いて、まるで何か引っかかってるみたいな…そんな風に見えた。





「エアリス…どうしたの?」

「エアリス、何か知ってるの…?」

「えっ…?」





あたしとティファが声を掛ければエアリスは少し驚いたように顔を上げた。
やっぱりその顔はどこか戸惑っているような。

なんだか珍しい、ちょっと意外な反応。

いや、勝手なイメージだけど、エアリスってこういう時凄く励ましてくれる感じがしてたから。





「ナマエ、ティファ、エアリス。ひとりずつ渡ってくれ!」





そんな時、向こう側から声が聞こえた。
どうやらクラウドは無事に渡り終えることが出来たらしい。

あたしたちはクラウドに返事をする。
そして言われた通りひとりずつ向こう側に渡ることにした。





「じゃあ、2番目、行っていい?」

「うん、どうぞ」

「気を付けてね」





水路に一番近い位置にいたあたしはクラウドの次に渡らせてもらうことになった。

トン、と足を乗せる。
やっぱり水に浮かんでるだけだからグラグラした。

でもまあ然程問題はない。
ということで、あたしはちゃっちゃっと渡り切った。





「ヘーイ、クラウドー!」

「余裕か?」

「余裕余裕。ティファ、エアリスー!おっけー!」





向こう側についたあたしは振り返ってティファとエアリスに手を振った。
ふたりも振り返してくれる。

そしてあたしはクラウドの隣に立ち、ふたりが渡ってくるのを待った。





「出口、さっさと見つかればいいけどな」

「うん。とりあえず七番街側に渡れてよかったよ」





待ってる時、クラウドが声を掛けてくれた。

ちらりと顔を見上げる。 

…ああ、うん…やっぱり好きなんだなあ…。
やっぱり自覚したなあ…なんて。

そうして次はティファが渡ってきた。
ティファも特に問題は無し。

残すは最後のエアリスだ。

だけどエアリスの時だけはなんだか揺れが不安定になってしまっていた。
エアリスがこちら側に着く前に、ぐらりと大きく揺れて足場が沈み始めてしまう。





「エアリス!」

「エアリスっ!」

「飛べ!」






クラウドの飛べと言う声になんとか足を踏みきったエアリス。
そんなエアリスに咄嗟に手を伸ばし、あたしとティファは抱き留めた。





「ティファ、ナマエ、ありがとう」

「ふふ、どういたしまして」

「うん!無事で何より!」





エアリスが渡り切ったのを最後に、足場はドブ水の中に沈んでしまった。
本当にギリギリだった。

でも、そこに残った空気はなんだか穏やかだった。
仲良くなれているというか、素直に居心地がいいと言うか。

このメンバー、結構相性がいいんじゃないの?なんて。

でも割と、真面目にそうかもって思えた。





「ああ、また」





七番街側を歩いている途中、ティファがぽつりと呟いた。

また。

その言葉にあたしとエアリスはそれがどういう意味かを察する。
ふたりで顔を合わせ、ティファに聞いた。





「また、浮かんだ?」

「最悪の事態?」

「…うん」





ティファはおずっと頷いた。

どうしても、不安が付きまとう。
どうしても、振り払えない。

そんなティファにエアリスは優しく言った。





「どんな未来でも、変えられるよ?私、そう信じてる」

「そっか…そうだね」





ティファも頷き、振り払う努力をした。
するとエアリスはあたしの肩にトンと触れてきた。





「さっきナマエ、言ってたでしょ?前向きなこと、数えるの」





肩に触れたのは、ほら、ナマエも笑ってっていう促しだ。
それを察したあたしはエアリスと一緒にティファを見た。





「うん!ティファ、前向き前向き!」

「そうそう!楽しいことも、考えるの!七番街、守ったら…」





エアリスは言う。
七番街を守ったら、その後は何をする?と。

そしてティファは想像する。
守れた先にある、楽しい未来を。





「守れたら…上で買い物、どう?えっと、例えば、雰囲気のある小物や食器を探すの」





ティファはあたしとエアリスを見ながらそう言った。
それを聞いたエアリスもティファとあたしの顔を見る。





「ティファと、ナマエと?」

「お?」

「ふふ、良ければ。ね、ナマエ。いいよね!」

「うん!行きたい!あ!じゃああとカフェ行こうよ!で、皆で食べ比べとかするの!どう!」

「もう、ナマエ、食いしん坊!でも、うん!絶対、行く!」





想像した未来。

ティファとエアリスと買い物!
そんなの絶対楽しいに決まってる!

3人ともそう感じているのがわかって、あたしたちは3人で笑った。





「クラウドは荷物持ち」

「い〜っぱい持たせちゃう」

「ガンバレー、クラウド」





最後はクラウドをちらりと見ながらこっそり小声で。
視線と自分の名前が出た事くらいは聞こえたのかクラウドはきょとんとしていた。





「俺がどうかしたか?」





それがおかしくあたしたちはまた少し笑った。

そうして橋のようになっている道を渡り出す。
だけどその時、異変が起こった。

どうやら足場が脆くなっていたらしい。
あたしたちが上に乗ったことで、一気にひびが入ってしまった。





「あっ、え!?ちょ!?」

「え!う、嘘!!?」

「っ、まずい!これ!」





ちょお!!?なんで!これコンクリートじゃないの!?
やばいやばいやばいやばい!!!

焦りながらもあたしたちは一気に走ってなんとか向こう側に渡れた。

でも、その後ろ。

咄嗟に助けようと駆け出してくれたのだろう。
クラウドが踏み込んだその途中、足場はガラッと崩れ落ちてしまった。





「つかまって!!」





エアリスが急いで武器のロッドを差し出した。

クラウドの反射神経は流石だ。
彼は落ちながらも、パッとロッドの端を掴んでくれた。





「く、クラウド…っ!」

「離さないでね…!」

「一気にあげるよ…!」





あたしたちは3人がかりでそのロッドを持ち、力を込めた。

下は底が見えないドブ水。
絶対っ、落とすかああぁぁああ…!!!

そしてティファの「せーの!」の合図で3人一気にロッドを引いてクラウドの体を引き上げた。





「ああっ…!」

「きゃ…っ」

「ぐえっ」





びたんっ!!!
一気に引き上げたその衝動で、あたしたちは全員倒れ込んだ。

ちょっと待って!なんかあたしの悲鳴だけ全然可愛くなかったんだけど!?
自分の悲鳴の女子力の低さに思わぬダメージを受ける。
クラウドにも聞かれたじゃん?!いやもうそんなの今更だけど!!
でも多分ショックがでかいのは惚れた自覚の痛みだろう…うう。

って、そうだよ!そんなことよりクラウドだよクラウド!!

パッと振り向けばクラウドは足場に手を掛けることが出来たようでそのまま無事に事なきを得ていた。

よ、よかった…。
助けられて、全員ホッと息をつく。





「悪いな」

「いえいえ」

「ふうっ…」

「あー、ビックリしたねー」





ああ、まだちょっとドキドキしてる。
だってまさかあの足場が崩れるとは誰も思わないし…。

まったく神羅め…!
いくらスラムだからって最低限の整備くらいしてくれよ…。

まあ、全員無事で本当良かったけどね…。

うん、もうこちらは七番街側。
あとはどこでも、出口を見つけられれば七番街だ。





「よし、じゃあさっさと出口探そ!」





早く地上へ。
あたしはそう皆に声をかけて、先の道を進み出した。



To be continued


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