花嫁オーディション



怪しげな部屋から階段を上ると、なにやら派手で明るい部屋に通された。
どうやらこの部屋がオーディションをする部屋らしい。





「よーし、娘ども!ここに整列!」





コルネオの手下に横に並べと命令された。
あたしたちはその指示に従い、一定の間隔をあけて4人で整列した。





「あん?見た顔だな。どっかで会ったか?」





その時、手下のひとりがクラウドとあたしとエアリスの顔をまじまじと見てきた。

あ!こいつ、闘技場での盛り上げ役の片割れだ!

覗きこまれた時、こちらはすぐに気が付いた。
でも化粧をしている事もあってか、向こうはあたしたちを思い出せないみたいだった。
そもそもクラウドとか性別変わっちゃってるしね。

まあ気づかれたら面倒だし、バレなかったならそれでいい。

クラウドはガン無視。
あたしやエアリスは首を横に振って適当に誤魔化しておいた。





「よおし、お前たち準備はいいか!行くぞ!我らがウォール・マーケットのカリスマ!ドン・コルネオ様の登場だ!」





そして遂に、ドンとの対面の時が来た。

欲望の街のドン。この街で一番権力を持った人。
いったいどんな人なんだろう。

今までの流れから絶対ロクな奴じゃないだろうけど、なんだか少しだけドキドキした。





「ほひ〜!!!」





その時、男の高い声がした。
え、と見れば部屋の奥にあるカーテンの影から覗く顔がひとつ。

覗いたその姿に、一瞬思考が停止した。





「いいの〜、いいの〜」





カーテンの奥から出てきたのはひとりの小太りなオジサンだった。
その人はニヤニヤとしたイヤラシイ笑みを隠すことなくあたしたちの前に現れる。

こ、このオジサンが…ドン・コルネオ?

思わず目をパチパチとさせてしまった。
え、だってさ…この欲望の街の一番の権力者で、あのマム達でさえ頭が上がらないのがこの人?

正直、どんな人なのかってまったく想像がつかなかった。

でも…だけどもだ。
こんな小太りなオジサンだとは欠片もイメージしていなかったもので!!

ていうかそもそも「ほひ〜」ってなんだ!
地声はわりと低いみたいだけど、その声だけは妙に高めだった。





「どのおなごにしようかな〜。ほひ〜ほひ〜」





やっぱりほひ〜だけちょっと高くなる。
コルネオは鼻息を荒くしながらあたしたちに近付いてきた。





「どのおなごにしようかな〜!ほひ〜ほひ〜!」





目の前まで来ると、ひとりひとりをじっくりと舐め回すように眺めはじめた。

エアリスなら深いスリットから覗く足を下から上に。
ティファなら長い髪の匂いを嗅ぎつつ強調された胸を恥じることなく凝視。

まじか…!このオッサン、まじか!!!

オーディションってこういう事…!?
あまりの嫌悪感に思わずぶるりと身震いした。





「ほひ〜、お前もいいのう〜」





そして遂にコルネオの目があたしに向いた。

思わずひくっと顔が引きつりそうになる。
いや耐えたけど!多分!





「…っ、」





レースで透け感の出た胸元と、ミニの丈から出る足をまじまじと見られる。

その間あたしはずっと息を詰めていた。

うう、鳥肌立ちそう…!
なんでだ、数秒のはずなのに物凄く長く感じるぞ…!

エアリスとティファの後だから面白味なんてまったくないだろうに!!
いいからとにかく早く去れい…!!

とりあえず、なんとか自分の番は耐えた。

そしてコルネオは最後にクラウドの元へ。
クラウドに至っては肩と腕を触られていた。

う…あたしは触れられなくて良かった…。
…いや、クラウドごめん。

だけどまあ…あたしは選ばれないだろうからなあ…。





「……。」





あたしは両サイドをちらちらと見た。

うん、ティファもエアリスも美人さんだ。
本当、冗談抜きで。

それにクラウドもこの姿で街を歩いたら男の人が振り返るくらいに可愛くて綺麗に仕上がってる。
…まあ、クラウドが選ばれたらそれは笑い話だけど。

だから比べてこれといった特徴のないあたしを選ぶ理由は無いんだよなあ…。
そりゃマムのおかげでいつもより多少は見栄え良くなってるのかもしれないけど…。

でも抜群のスタイルとか、清楚感とか。
これといったアピールポイント無くない?っていう。

もし選んだら、何の気の迷いだよってね。





「ほひ〜!決めた!決〜めた!今日のお嫁ちゃんは〜!」





そして全員をじっくり見たところでコルネオはお嫁さんを誰にするかを決めたようだった。
だけどその台詞でちょっと引っ掛かる。





「今日の?」





エアリスが顔をしかめて聞き返す。
多分、今オーディションを受けている全員が引っ掛かっただろう。





「努力次第で、明日も明後日も奥さんでいられるぞ!」





答えたのは闘技場で盛り上げ役をしていたあの片割れの手下だった。
奴は親指を立てながら平然とそう言い切る。

その発言で“今日の”というその意味を察し、あまりのクソっぷりに嫌悪感で一杯になった。

うわ…最低だ…。最悪すぎる…。





「ゲス野郎」





その時、隣からぼそっと吐き捨てる声が聞こえた。

え…。
あたしはちらりと隣に目を向ける。

吐き捨てたのはクラウドだった。

うわ…クラウド、ドストレートに言った…。

でも…。
それを聞いた時、思った。

その感情はごく普通の、ごく当たり前のものだ。
でも最低野郎しかいないこの部屋の中で、そう言ってくれる男の人は何だか凄く格好良く思えた。





「あ?おい、今の誰だ?」





クラウドの声はそう大きなものではなかった。
でもそれはコルネオの耳にも届いてしまったらしい。

あ、これ…まずいのでは…。

コルネオは声の聞こえた方、クラウドの方へゆっくりと近づいていく。





「お前か?」





コルネオはクラウドの前まで来ると、じろりとその顔を見た。
クラウドの方もコルネオを睨みつけていた。

うわ、ちょ、やっぱこれまずいよね…?
あたしは隣で睨む合うふたりの様子に冷や汗が出そうになった。

だけど、そんな心配は杞憂だった。





「いいね〜、いい!その跳ねっ返り!へし折ってやるわ〜!」





睨みあっていたかと思えば、コロッと表情を緩ませてそう言ったコルネオ。

ん…?
え、あ、アレ…?





「今日はこの強気なおなごだ!」





そしてまさかの展開。
あろうことか、クラウドはそのまま今夜のお相手に選ばれてしまった。

って、えええええええええ!?!?!?

さっきの一言でコルネオに変な火をつけちゃった…?
え、…ま、まじで…?





「ほひ〜!こばむ仕草がういの〜、うぶいの〜!」





コルネオに手を掴まれ引かれたクラウドはその場から動こうとはしなかった。
でもコルネオはそれすら恐ろしく前向きに捉える。

クラウドは思いっきりコルネオを睨みつけていたけど、今のコルネオはその視線を屈服させることで頭がいっぱいなんだろう。

でも選ばれてしまったからには仕方がない。
手を引かれたクラウドは嫌な顔をしたままゆっくりと歩き出す。





「あとはお前らにやる!」





そしてコルネオは最後に部下たちにそう言い残し、クラウドを連れて奥の部屋へと消えて行った。

あとはお前らにやる…ね。
それはつまり残ったあたしたちは部下に恵んでやると。

なんとも失礼で胸糞の悪いハナシ。

でもだからってこんなところで暴れるわけにもいかないから、あたしとティファとエアリスは上機嫌な部下たちに連れられ部屋を移動することになった。





「おい、お前ら!お客さんだ!仲良くするんだぞ!これもコルネオ様のはからいだ!感謝の心を忘れんなよ〜」

「「「コルネオ様、ばんざーい!」」」





連れてこられた部屋は部下たちの詰所だった。

部下たちはドンから恵まれた女の登場に妙なテンションで騒ぎ出す。

多分オーディションのたび、こういう事は行われているのだろう。
とことんクズでゲスの集まりだなここ…。





「さて、御嬢さん方、準備はいいかい?」





この部屋にはオーディションの場にいなかったもうひとりの盛り上げ役の男もいて、そいつがニヤリと笑いながらあたしたちにそう聞いてきた。

もしかしたら、部下たちからも得られる情報があるのかも…なんて思ったりもしたけど、どうやらこれは望み薄そうだ。

そうと決まればこんなところで大人しくしてやる理由はない。
あたしたちは3人で顔を合わせた。





「準備?それなら、いつでも。ティファ、ナマエ、どう?」

「うーん、4人か。勿論、いけるよね、ナマエ?」





ふたりに聞かれ、あたしは「んー…」と部屋を見渡し武器になりそうなものを探した。
あ、あそこにモップあるな。あれなら使えるかも。

それを確認し、あたしはふたりに笑って頷いた。





「うん、余裕!」

「よし、じゃあ急いでクラウドを迎えに行こう!」

「「うん!」」





3人で頷く。
よーし、クラウド待っててね!

でもその前にこの胸糞悪くてたまってたイライラ、思いっきりぶつけてやる!

そう決めたら、なんだかスッとした。

すると、怯える様子もないあたしたちを不思議に思ったのか、盛り上げ役だった男があたしとエアリスの顔をまじまじと見てきた。
オーディションにいた奴は違和感で誤魔化せたけど、どうやらこちらは気が付いたらしい。





「お前ら、闘技場の…!」





でも、今気が付いたところで何の支障も無い。

男がハッとしたその瞬間、エアリスが思いっきり男の股間を蹴り上げた。
そしてウッ…と顔を歪めたところでティファが間髪入れず回し蹴りを決めてその男はダウン。





「何しやがる!」





そこで他の男たちの顔色も変わる。
でもね、こんな下っ端の奴らに負ける気なんて全然ないわけ。

あたしはふたりが注意を引きつけてくれている間に目をつけていたモップを手にした。
剣とは勝手がちょっと違うけど、棒術も心得くらいはあるんだから!

あたしはグルッと棒を振り回し、勢いよく手下のひとりをブッ飛ばした。

その間、エアリスがパイプ椅子を振り下ろしてもうひとり。
最後のひとりはティファが何の問題も無く正拳突きで沈めて終了。

うん、ささっとお掃除完了だ。





「エアリスやる〜!」

「ティファの方がすごい!シュッシュッ!」





さっき出会ったばかりのふたりはこの共闘ですっかり意気投合しているようだった。

うん!
ふたりが仲良くなってくれるのは、こっちも普通に嬉しいね!





「それと、あっちは…」

「うん、なんの心配もないよね」





ふたりの視線があたしの方に向く。

あたしはモップをカランと投げた。
そしてふたりに振り返り、フフンと得意げに笑った。

ええ、なんの問題もありませんよ!

そして一か所に集まり、パンッと3人同時に両手でハイタッチした。
闘技場でやったみたいな感じ。

うん、一発で息ぴったり!
ってこれが普通だけどね!

でもそうして喜んでいた時、誰かが部屋に入ってくる足音がした。

警戒したあたしたちはサッと身構える。
するとそこに現れたのはあたしたちの荷物を持ったレズリーだった。





「アニヤンから事情は聴いた。服と装備は返してやる」





どうやら彼はアニヤンからの頼みでわざわざ装備を届けに来てくれたらしい。

確かに、ここに来る前、アニヤンはあたしたちの話に理解を示して装備を届けると言ってくれていた。
当てがあるから任せておけと…。

その当てってレズリーのことだったのか…。





「あとはなんとかするから、上手くやりな」





レズリーはそのほかの処理もしてくれると約束してくれた。

彼は他の手下とはどこか違うとは感じていた。
でも、ここまで協力してくれるなんて。

レズリーはきっとコルネオを慕って仕えているわけではないんだろう。
やっぱり何か事情があるのかな。

でもそれを尋ねる間もなく、彼は部屋を出ようとしていた。





「あっ!待ってレズリー!助かったよ!」

「うん、ありがとう」





だからあたしは慌てて彼を呼び止め、エアリスとふたりでお礼を言った。
だってせめてそれくらいは言いたいと思ったし。

こうしてあたしたちはレズリーが出て行った後、元の服に着替えた。

ああ、やっぱり自分の服は落ち着くなあ…。

まあでも、たまには着飾るのもいいのかもね。





「クラウドのとこ、急ご」

「コルネオの部屋だよね」

「よーし、じゃあ行こう!」





コルネオの部屋はオーディションをやった部屋の奥だろう。
クラウドが連れて行かれたのがそこだったから。

クラウド、今頃どうしてるだろう。
とにかく急いで向かわないと。

こうしてあたしたちは頷き合い、コルネオとクラウドの元へと向かったのだった。



To be continued


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