大切な人なら



「わ、公園だ!」





陥没道路を抜けるとそこには公園があった。

公園なんていつぶりだろう?
子供の頃はしょっちゅう遊んでたけど、いつの間にか全然行かなくなってしまう場所。

でも遊具とか見てると、わくわくしてくるよね!

そんな気持ちに突き動かされるまま、あたしは一番乗りで公園内に駆けだした。





「おい、ナマエ!」





すると後ろからクラウドの声がした。

振り返ると呆れ顔をしている。
その隣にいるエアリスはクスッと楽しそう。

まあいいじゃないか。
あたしは「へへっ」とふたりに笑みを返した。





「あれ、七番街スラムへ抜けるゲートなの」





エアリスは公園が面する壁を指差した。

そこには確かにゲートがある。
ああ、ここ街の境だったのか。

公園にテンション上がり過ぎて何も見てなかった。そこは反省しよう。





「閉まってるな。開くのか?」

「ね、少し座って話さない?」

「いや、そんな時間は…ナマエ、来い、行くぞ」





エアリスの誘いを断ったクラウドはあたしに戻ってこいと言ってくる。

でもあたしは絶賛ブランコ発見のテンション爆上がり中だったから「えー!」と不満げに振り返った。
そしたらクラウドは「な、なんだ…」ってちょっとだじろいだ。

だってブランコとかなんかうずうずするでしょ!乗りたいでしょ!

陥没道路だって結構長かったわけだし休憩がてら少しくらい話せばいいじゃないか。

でも、そんなことを考える前に、エアリスの性格を考えればクラウドが勝てないのは明白だった。





「クラウド、こっち!ナマエも!」





エアリスはクラウドの拒否などものともせず、自分のペースのまま滑り台の方に走っていった。

滑り台には大人でも三人くらいなら座れそうなスペースがある。
エアリスは一足先に上に上がると「早く!」と呼びかけてきた。

うん。やっぱりエアリスの方がウワテ。
クラウドは優しいから、そうしちゃえば絶対無視なんてしないもんね。

あたしも呼んで貰ったからブランコから引き返して滑り台に向かった。
あたしが近づくとクラウドは何でエアリスが呼ぶと来るんだ的な顔をしてた。てへ。

でも、やっぱりなんだかんだで付き合ってくれて、一緒に滑り台に上った。





「昔、ここでお花売ったこと、あるんだ」

「そうか」

「へー、結構遠くまで来てたんだねー」





滑り台の上で、3人並んで座る。
並びはエアリス、クラウド、あたしの順。





「クラウドって、クラスファースト、だったんだよね?」





全員が座るとエアリスがクラウドにそう聞いた。

クラスファースト。それはソルジャーの階級らしい。
教会であの赤髪も同じ事を聞いていたから、あのあとクラウドにファーストって何?と教えて貰った。





「ああ」

「そっか」

「それがどうかしたのか?」

「ううん、同じだと思って」

「同じ?誰と」





クラウドが聞き返す。
それはあたしも抱いた疑問だった。

エアリスには、クラスファーストのソルジャーの知り合いがいるんじゃないか。
それは言葉の端々からなんとなく思ってたことだけど、エアリスの口からはっきり聞いたのははじめてだった。

クラウドを挟んで座っているからあたしの位置からエアリスの顔は見えづらい。
だからあたしは少し頭を前に出してひょこっとエアリスの顔を見た。





「はじめて好きになった人」





エアリスはそう言った。
その顔は、優しくて、でもどこか少し寂しげだった。

…エアリスが、はじめて好きになった人がクラスファーストの…ソルジャー。
その人と、何かあったってことなんだろうか。





「名前は?たぶん知ってる」





ソルジャー時代、特別仲のいい人はいなかったとクラウドは言っていた。
でもきっと名前くらいなら知ってはいるだろうとその名をエアリスに聞く。

するとエアリスは、そっと一言その名を呟いた。

けどその直後、クラウドが顔を歪め、うっ…とまた頭を押えた。





「あっ…!クラウド?」

「大丈夫?」





ふたりで声を掛ける。
でもそれと同時に、あたしはちょっと今エアリスが言った名前が気になってもいた。

えっと、ザッ…。
ザック…う、ううーん…?

いや聞いてたんだけど、いいタイミングでクラウドが頭痛起こしたからそっちに気がいって飛んじゃったというか…。
けど今はもう一回って聞き返すタイミングでも雰囲気でも無い…。





「はっ…?」





その時、少し驚いたようなクラウドの声がした。
それはエアリスがずいっと覗きこむようにクラウドに顔を近づけたから。





「綺麗…」

「えっ…?」

「瞳」





エアリスが見つめていたのはクラウドの瞳だった。

青い…不思議な光を湛えた魔晄の色。

あたしも、前にじっと見た事がある。
珍しくて、不思議で、でもとても綺麗な瞳。





「ああ、魔晄を浴びたも者の瞳。ソルジャーの証だ」

「…うん、知ってる」





じっと見られることに耐えられずクラウドが視線を外しながら言えば、エアリスは小さく頷いた。
エアリスがはじめて好きになった人がソルジャーなら、その人から教えて貰ったんだろうか。





「ごめんね、こんな話!もう行こっか!」





エアリスは立ち上がった。
そしてひとり先に滑り台を降りていく。

それを見たあたしとクラウドも立ち上がり、彼女を追うように滑り台から降りた。





「前、見なくちゃね」





エアリスはそう微笑む。

前を見る…。
…それって、その人のことが忘れられない…とかなのかな。

多分、察するに、今は近くにいないのだろう。
会っていないのか、会えないのか、その辺はよくわからないけど。

そしてエアリスは歩き出した。
向かった先は、また別の遊具。





「ちょっと待ってて」





そう言われ、あたしとクラウドは首を傾げた。

その遊具にはトンネルがあった。
形状は、砂で作った山にトンネルを空けたやつに近いかな。

エアリスは屈んでそのトンネルの中に潜っていく。
何だろうと思っていれば「よいしょっ」と力を入れて何かをしている声がした。

その声にあたしとクラウドも屈んでトンネルの中を覗く。





「見て!」





トンネルの中ではエアリスが地面から何か蓋の様なものを外しているところだった。

マンホールの蓋…みたいな?
それを外したエアリスはニコッと笑った。





「隠し通路!七番街スラムまで繋がってるの!」

「えっ!?そんなところに隠し通路あったんだ!」

「うん!へへへ、すごいでしょ〜」





なんと。こんなところに七番街に直接繋がる通路があったとは。

あたしが驚くとエアリスは得意そうな顔をしてトンネルの中から出てきた。

エアリスが立ち上がると、目が合う。
多分、三者で。

その時流れた空気は、どこか寂しげに感じた。
多分、ああ、これで本当にお別れだって…そんな実感が一気に湧いたから。

何か、言わなきゃ…。
そんなことを思う。

だからあたしは口を開いた。





「「「じゃあ、」」」





でもその時、声を発したのはあたしだけじゃなくて、3人の声が重なった。

ちょっとビックリした。
だけど多分、今3人とも同じような気持ちで、同じような事を考えてる。





「ふふ、どうぞ」





エアリスは小さく笑うとトンネルの前から移動し、中に入る様にあたしたちを促した。

クラウドが歩き出したから、あたしも合わせて彼を追う。

でも、頭ではどうしようって考えてた。
どうしよう、何を言う?ありがとうと、それだけじゃ味気ないよ。

そう思いながら足を止めたその時、少し先を歩いていたクラウドもまた足を止め、くるっとエアリスに振り返った。





「帰りは大丈夫なのか?」





クラウドも同じような事を思っているのだろうか。
だったら何となく嬉しくなる。

するとエアリスは悪戯気味に笑った。





「大丈夫じゃないって言ったら?」





その答えにクラウドは目を丸くする。
そして来た道を引き返そうとした。





「家まで送ろう」

「それってなんか変じゃない?」





クラウドが真面目に言うものだから、エアリスは指摘して笑った。

折角ここまで送って貰ったのに、その道を引き返して今度はエアリスを送る。
それは確かに変だ。

笑われて考えて、クラウド自身も変だと思ったようだった。

あたしもそのやり取りに笑った。
そしてエアリスの元に駆け寄り、そっと腕を絡めた。





「エアリスー、うちのボスとっても律儀だからからかわないでくださーい」

「ふふ、ごめんね!」





エアリスと顔を合わせ、笑い合う。

いつかクラウド、自分はそんなにお優しくないって言ってた。

でもほら、やっぱり優しくて、とっても律儀。
クラウドのこういうところに触れると、なんだか心がほっとする。

だけど、エアリスが心配なのも確かだ。
だからあたしもエアリスに聞いた。





「ねえ、でもエアリス、本当に大丈夫?そこは無理しないで、正直に言ってね」

「ふふふ、ありがとう。でも、大丈夫。実は、もっと安全な近道があったりして!」





おどける様に言うエアリス。
そんな声に、あたしとクラウドも思わず笑みを零す。

もっと安全な近道。
それはきっと嘘だけれど、だけど大丈夫だよという意味でもあるから。

じゃあ…もう、本当にお別れだ。
来てしまったその時に名残惜しさを感じる。

クラウドからかあたしからか。
どちらともなくゆっくりと、じゃあ行こうか…と顔を合わせる。

だけどそんな時、公園に隣接するゲートからガタンッと大きな音がした。





「あ…」

「え…開いた?」





それはゲートが開く音だった。

あたしとクラウドは気が付いてゲートに視線を向ける。
ちょうどゲートが背中側にあったエアリスも振り向き見上げた。

見ていれば、そこから出てきたのはひとつのチョコボ車だった。
そしてその車の側面に取り付けられている小窓からチラリと見えた黒く長い髪。

それを見た瞬間、クラウドとあたしは目を見開いた。





「ティファ!?」

「えっ…!?あっ、クラウド待って!」





咄嗟に走り出したクラウド。
その背を追いあたしも駆けだす。

近づいたのは、車の後部。
そこには欄干が設けられており側面の窓よりも顔が合わせやすい。

チョコボ車に近付けばその足音でティファもこちらに気が付いてくれた。





「クラウド!よかった、無事だったんだ!あっ、ナマエも!」





クラウドとあたしは欄干を掴み、チョコボ車に軽くしがみ付いた。

そこで見えたティファは、なんだか凄く煌びやかな格好をしていた。
露出の高い、ミニのセクシーなドレス。

うわー!流石ティファ!そういうの本当よく似合うな!
…とか感心してる場合ではないよな。

ていうかマジでそんなの着てチョコボ車って、どういう状況…?

よくわからない。
でもなんとなく不穏な雰囲気を感じた。





「どうなってる?」

「うん、ティファ…どうしたの?」

「シーッ…」





クラウドとあたしが聞けば、ティファは手綱を握っている御者にばれない様にと唇に人差し指を立てた。
そして声を押えつつ、簡潔にこのチョコボ車の行先を教えてくれた。





「事情は後で説明するね。私、これからコルネオのところに行くから」

「コ…っ!?」





コルネオ!?

あたしは出しかけた声に、バッと慌てて口を押さえた。
あぶねえ!でもよし、ばれてない!

いやでも驚くのは無理ないと思うよ!?
だってコルネオ…。コルネオってさっきさ…。

さっきウォール・マーケットの話をしていた時の事を思い出す。

無法地帯ウォール・マーケット。
コルネオと言えば、そんな場所のドン…トップの名前じゃん。

あたしが驚いたように、クラウドも勿論驚いていた。

でも、そんなあたしたちの心配をよそに、ティファは話を続ける。





「クラウドはアジトに戻ってバレットたちと合流して。ナマエも、まだクラウド七番街の道覚えきれてないだろうし、お店まで案内してあげてくれる?」

「…え、ティファ」

「でもっ、」

「こっちは大丈夫。私の蹴り、見たでしょ?」

「…わかった」

「…クラウド」





少しだけ食い下がったけど、平気だと言うティファ。

それを聞いたクラウドは渋々ながらも納得し、欄干から手を離して降りてしまう。

…え、これで…いいの?

あたしはもう一度ティファを見る。
すると「ほらっ、ナマエも」と欄干を掴んでいた手を叩かれたからあたしもそっと離した。





「…行くぞ、ナマエ」

「クラウド…」





クラウドはあたしが降りるのを待っていてくれた。
そしてティファに言われたままに七番街に戻るべく道を引き返して行ってしまう。

ドン・コルネオ。
行先はウォール・マーケット。

ティファはたったひとりでウォール・マーケットに向かった。
しかも、煌びやかに着飾って。

…なんか、凄く胸がざわざわする。

本当に此処で引き返していいの?放っておいていいの?

いや、いいわけない。
だからもう一度、クラウドに声を掛けようとした。

でもその時、あたしより先にクラウドを止める声があった。





「ダメ!ティファが最優先!」





それはエアリスの声だった。
エアリスはクラウドの前に立ち、腰に手を当てて彼を止める。





「…ティファは、そのあたりの男よりずっと強い」





ティファが平気と言うならと、その言葉を飲もうとするクラウド。
でもエアリスはそんなクラウドを諭す。





「コルネオは、蛇みたいな男。どんなに強い女の子でも、ジワジワと締め付けて心をポキンと折っちゃうの。ティファが行ったのは、そんな人と大勢の手下がいる場所。ね、クラウド。大切な人でしょ?助けてあげなくちゃ!」





大切な人ならば。

その言葉に確信する。
そうだよ、やっぱり助けに行くべきだよ。

あたしも駆け寄った。
そして、クラウドを見上げた。





「クラウド…行こう、助けに行こうよ…!」

「ナマエ…」





クラウドの瞳が揺れた。
それは、クラウドだって放っておけないと思っている証拠だ。

するとエアリスはそんな心を後押しするように、クラウドの手を両手で掴んで引いた。





「行こう!」





エアリスの呼びかけに合わせて、あたしもクラウドをじっと見る。

それでクラウドの意思も固まったようだった。
クラウドは頷いてくれる。

そしてあたしたちは、チョコボ車が向かった先を見つめた。

夜の中にひときわ輝く、怪しげな光。
欲望の街、ウォール・マーケットへ、いざ。



To be continued


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