黒いスーツと赤い髪



伍番街スラムの教会で出会ったエアリス。

彼女は折角会えたのだからと、クラウドとあたしともっと話がしたいと言ってくれた。

あたしはすぐに賛成した。
だってあたしももっと話してみたいって思ったし、何よりそう言って貰えるのは嬉しかったから。

クラウドの方も特に異存は無いようで「ああ」とすぐに頷いていた。





「やった!それじゃあ」





喜んだエアリス。

だけどその時、ガタンッ…と入り口の扉が開く音がした。

自然と視線を向けると、そこには赤髪が目を引くスーツの男と数名の神羅兵がいた。





「邪魔するぞ、と」





赤髪の男が教会内に入ってくる。
神羅兵たちもそれに続いてきた。

え、誰。
ていうか、え、神羅?

神羅とくればなんとなく警戒するというか、強張ってしまうのは条件反射だ。





「お前ら、何?」





男はクラウドとあたしを怪訝に見てきた。

いやそれはこっちの台詞だし!
そっちが後から入ってきたんでしょうが!

そう思ったけど、神羅なら慎重になったほうがいいかとグッと堪える。

すると男に言葉を返したのは、意外や意外、エアリスだった。





「この人達、私のボディーガード。こっちの彼はソルジャーなの」

「…ん?」

「え…」





クラウドとあたしは一瞬理解が遅れた。

あれ…?

エアリスにクラウドがソルジャーだったって教えてたっけ…。
ていうか、ん?ボディーガード?





「ソルジャー?」





それを聞いて顔をしかめる赤髪。





「元ソルジャーだ」

「あらま、魔晄の目」





元と訂正しつつクラウドが肯定すれば、赤髪の男はクラウドの瞳をじっと見てソルジャーという話に納得を見せていた。
するとエアリスはクラウドとあたしの顔を覗き込んで来て言う。





「ボディーガードも仕事のうちでしょ、ね、なんでも屋さんたち?」

「え…」

「…へ」





なんでも屋さん…って、それもまだエアリスに言ってないよね!?

やっぱり気のせいじゃない!

さっきから教えていないはずのことをズバズバ言い当ててる!!
なんでそんなこと知ってるの!?





「私の勘、当たるの」





こちらの困惑を感じ取ったらしいエアリスはそう言う。

いやいやいや…!?
勘ってレベルなのコレ…!?

でもエアリスはそのまま突き進む。
あたしとクラウドにずいっと顔を近づけ、こう頼んできた。





「ボディーガード、お願い」





ボディーガード…。
それはつまり、この神羅兵たちから守って欲しいってこと?

あたしはちらっとクラウドの顔を見た。
まあ…なんか色々気になるけど、あたしはいいよって意味を込めて。

とりあえず思ってることは伝わったっぽい。
クラウドもまだ困惑した顔はしていたけど、目の前にいる神羅の集団を見てキリッとその瞳の色を切り替えた。





「ああ、いいだろう。でも、安くはない」





クラウドはボディーガードの依頼を引き受けた。

でもその報酬は安くない。
それを聞いたエアリスはすぐに閃いたように言った。





「じゃあねえ…それぞれにデート、1回!」

「えっ…」

「!」





デート1回…。
その予想の遥か上をいった報酬にクラウドは面を喰らったような顔をしてた。

いや、あたしもビックリはした。
でも自然とすぐに笑ってた。

なんでって、クラウドの反応が面白かったのと純粋に楽しく思えたから。

ああ、なるほどなあ。
そういうのもありなのか〜なんて妙な納得を覚えたりして。

だって少なくとも、あたしはそんな報酬もいいかもって思った。
エアリスとのデートなら、すっごい楽しそうだもんね!

まだ出会って間もないけど、あたしエアリス大好きだ!





「へえ、やっぱり本物かよ。クラスは?」





そんなやり取りを見ていた赤髪はクラウドに聞いてくる。

クラス…ってソルジャーのランクみたいなものかな。
クラウドはふんっと笑って答えた。





「ファースト」





それを聞いた赤髪は「くっ」と軽く噴き出した。





「はははっ!いくらなんでもファーストってお前よぉ!」





そしてケラケラと笑い出す。

え、なんかそんな変な事言ったのかな?
なんか冗談言うなよみたいなそんな感じに見えたから。

それを見たクラウドは少し苛立ったのだろうか。

その瞬間、クラウドは剣を構えてダッと凄い勢いで赤髪の男に向かっていった。

でも赤髪は振り下された剣を軽く避ける。
そしてガンッと剣をクラウドごと蹴り飛ばした。

クラウドは軽く着地し、体制を整えながらエアリスに下がっていろと顔で合図した。

エアリスは頷き、部屋の奥の方へ下がって行く。
一方で、あたしはクラウドの傍に駆け寄り彼の隣に並んだ。





「お花、踏まないで!」

「だってよ」





下がりながら叫んだエアリスに反応しながら余裕の表情を見せる赤髪。

そこから、戦いが本格化した。

赤髪の後ろにいた神羅兵たちが銃を構えて発砲してくる。
あたしとクラウドは弾を避けながら兵士の隙をついて、まず互いにひとりずつ仕留めた。

そうしてまた距離を取る様に肩を並べ、チャキッと剣を構える。





「すぐに終わる。いけるな」

「もち!」





いけない理由が無いね!
クラウドの確認に答えて、その瞬間、あたしたちは残りの神羅兵に向かっていった。

まあその辺の一般兵なら負けませんて。
クラウドと一緒なら尚のこと!

隙をついて、容易に蹴散らす。

うん、やっぱり何の問題も無かった。





「あーあ、情けない」





その時、頭の上の方で声がした。
赤髪スーツの声だ。

奴は兵士たちが戦っている間、教会の柱の上部についている装飾部分に座ってその様子を眺めていた。

まさに高みの見物。
うーわ…嫌な感じ!!

そして兵士たちがやられてやっとそいつのご登場。

奴は軽くタッ…と静かに着地し、一気にクラウドとの距離を詰めた。





「かったるいけど、出番だぞ、と!」





ガンッ!という音が響く。

赤髪の武器は雷をまとったロッド。
振り下ろせばクラウドも瞬時に反応して剣で防ぐ。

早い…!

なんかノリ軽いけど、兵士を従えていただけはあるのかもしれない。
攻撃を繰り出しつつ、クラウドの動きも読んで華麗に避ける。

こいつはちょっと厄介そうかも…!

あたしは少し気合を入れ直すように、ぎゅっと剣を握り直した。





「はあ…ッ!」





今度はあたしが走り出して剣を振るう。
でもそれも察知し、カンッとロッドひとつで軽く防がれた。

至近距離でググッと剣とロッドが擦れる。

その時赤髪と目が合って、奴はニッとあたしを見て笑った。





「ヒューッ、やるなあ、お前。感心感心、と」

「っ、ちょっとお兄さん!女の子追い駆けまわすと嫌われるよ!!」

「余計なお世話だぞ、と。威勢良いなあ、お前。そっちこそお転婆はほどほどにした方がいいんじゃねーの」

「それこそ余計なお世話だ!」

「そりゃごもっとも。ま、俺はお転婆嫌いじゃないけどな。ふうん、しっかしなーんか愉快だなあお前」

「ああ!?」

「そう睨んでくれるなよ。可愛い顔が台無しだぞ、と」





またカンッと音が響いて一旦互いに距離を取った。

なんか、なんか、なんだコイツ!なんなんだ!
なんかすっごいむかつくぞコイツ!!

ひょうひょうとしたこの態度!

あ、ダメだ!
本能的にあたしコイツと相性悪い気がする!!





「いいな、気に入ったぞ、と。こりゃいい出会いもあったもんだ。どんな仕事も楽しむのがプロフェッショナルだぞ、と」





奴はそう言ってこちらに手をひらひらと振ってくる。

何を楽しんでるんだお前は!!
余裕な表情もとてつもなくムカつくな!!

そして神羅製の小道具なのかなんなのか、奴はその場にポイッといくつかの球を転がした。
地面を転がったそれはバチバチと電気を纏い、顔より少し大きいくらいのサイズになってゆっくりとあたしとクラウドに迫ってくる。

どうやら攻撃してくるよりは動きを抑制するタイプの道具らしい。
つまりくっそ邪魔!





「クラウド!球、あたしが壊す!任せて!」

「頼む」





電気を纏う球を剣で思いっきり叩けば破壊出来て床に転がった。

それならあたしがこれを壊す!
クラウドが戦いやすいように、道を作る役目を担う!

クラウドは頷き、一気に赤髪スーツへと駆け抜けた。





「はあッ!!」

「おっと」





また、ロッドと剣がぶつかる音。
クラウドと赤髪スーツの一騎打ち。

再びぶつかり合う攻防。

その間あたしはクラウドに向かおうとする雷の球を片っ端から壊していった。





「おおっと、さっきより勢いづいたか?もしかして嫉妬かソルジャーさんよ」

「……。」





その時、赤髪がクラウドにそんなことを言っているのが聞こえた。

嫉妬…?って、なんだ?
クラウドが何に嫉妬するって言うんだ。
意味わからんぞあの赤髪!

クラウドは何も答えない。
そこに響くのはカンッという剣とロッドのぶつかり合う音だけ。

あたしはとにかくクラウドが戦いやすくなるように球をひとつずつ叩き落した。
そしてやっと、最後の一つを落としたその時。





「でッ!!」





ドサッという何かが倒れ込んだ音と男の悲鳴が聞こえた。
パッと見ればクラウドによって弾き飛ばされたのであろう赤髪スーツが床に叩きつけられていた。

奴は立ち上がろうとするも、負傷したのかガクッと再び膝をつく。

勝負あり。
クラウドは剣を握りしめたままゆっくり男に近付いていった。





「誤解だぞ、と。俺はただ…」





近づいてくるクラウドに何か言おうとする男。
クラウドは聞く耳をもたずトドメを刺すように剣を振り上げる。

だけどその瞬間、下がっていたエアリスが慌ててクラウドに叫んだ。





「クラウド!違う!」





クラウドを止めるエアリス。

クラウドの手は止まった。
でも、その理由はエアリスが叫んだからじゃない。






「っ!」

「あ…っ」

「え…!」





理由は、まるで男を守るみたいにその場に立ち上った幽霊のようなモノだった。

それを見たクラウド、エアリス、あたしは目を見開く。

これ!今朝、七番街スラムで戦ったやつ…!?
そう頭に過った瞬間、それはぶわっとあたしたち3人に襲い掛かってきた。





「うわっ…!」

「きゃああ!!」

「ひえっ…!」





纏わりついて、体が宙に浮きあがる。

え、ちょ、なに!?!?
焦るも為す術は無い。

幽霊たちの仕業か、教会の奥にある扉がいつの間にか開いていて、あたしたちはそのままその奥の部屋へと連れ込まれてしまった。





「うっ」

「きゃっ」

「ぎゃん!!」





連れ込まれた瞬間、バタンと扉が閉まる音がした。
あたしたちの体からも浮遊感が消え、ドサッと床に落とされた。

落ちた瞬間、思わず変な声が出た。

いや待って待って。クラウドはお尻から。エアリスは横向き。
あたしだけなぜか前からズテッと落とされる。そりゃ変な声もでる!
なにその扱いの違い!いや扱いとか気にしてないかもだけどさ!

床にぶつけた体が痛い。
でもこのまま痛い痛いと騒いでる場合じゃないのはわかる。

あたしたちは顔を上げ、慌てて立ち上がった。
見上げればまだそこにはあの幽霊のようなものがたくさん辺りを飛び回っていた。





「こいつら…」

「ねえ、クラウド、これ今朝の…」

「ああ…」





クラウドに今朝のと同じだよねと尋ねれば、頷いてくれた。





「襲って、こないね…」





エアリスが不安そうに呟く。

どうやらエアリスもこれを見たことがあるようだった。
だから存在自体にはそう驚いてないみたいだけど、そりゃ不安にはなるよね。





「おいっ!開けろ!!」





その時、扉を叩く音と怒声が聞こえた。
それは勿論、さっきの神羅。

見れば扉にもあの幽霊たちがが渦巻いていて、開けられない様にしているようだった。

これは、不幸中の幸い…的な?





「行くぞ」





入ってこれないのなら今のうちに逃げてしまおう。
声を掛けてくれたクラウドにあたしとエアリスは頷く。





「こっち!」





教会の造りは把握しているであろうエアリスが先導して走っていく。
こうしてあたしたちは教会を脱出するべく奥の方へと向かった。



To be continued


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