気になる存在



バレットの身辺を探っていたゴロツキを蹴散らした後、ナマエは食事に行かないかと誘ってくれた。

確かに空腹を感じていたし、悪くないと思った俺は頷く。
そうしてナマエお気に入りの店に案内して貰った。

ナマエと向かい合って座り、テーブルの上に並べられていく料理。

手をつければ、確かにナマエが勧めてきた理由がわかった。





「これ、美味いな」

「でしょ!あたしもそれ好き!ここ来たら絶対作ってもらうんだ〜」





目の前でニコニコと俺に笑みを向けるナマエ。

勧めた店を褒めたからか、その顔は嬉しそうだ。
そんな様子を見ていたら、なんとなく俺もつられてふっと笑みをこぼした。

ナマエ。
昨日たまたま街でぶつかってから、何かと縁がある女だ。

ぶつかった詫びにナマエが落としたという財布を一緒に探して。
そのあとセブンスヘブンにいけば、偶然にもティファの友人であり、またアバランチにも理解があるという話を聞かされ、世の中は狭いものだな…なんてぼんやりと思った。

ティファももともとナマエのことは紹介する気だったと言うのだから、尚更だった。





「うーん、今日の依頼は6件だったっけ。依頼者と内容と…あと報酬とかって覚えてる?後で簡単にまとめておこうかな。あとあと見返したくなるかもしれないし、何かとその方がいいよね?」

「そうだな…まあ、任せるよ」

「お、助手っぽい!」





ナマエはそう言って笑った。
俺も少し眉を下げながらも、また釣られた。

ナマエといると、自然と頬が緩むことが多い。
それは自分でもよく感じることだった。





「えーっと、化けネズミ退治に羽根トカゲ退治…あとベティの猫も探したよね。あとは、チャドリーくん…だっけ?あの子のレポートと…」





指折り、今日こなした仕事を振り返っていくナマエ。

ナマエはなんでも屋の助手をしたいと言った。

初めに言われた時は、何を言い出すのかと思った。

だが、こう見えてナマエの戦闘技術は高い。
足を引っ張ると言う事は無く、むしろ一緒に戦っていて動きやすいとさえ感じた。

戦闘に自信はあるとは言っていたからどんなものかと思っていたが、その予想は遥かに上回っていたように思う。

案外手伝ってもらうことにしてよかったのかもな…。
決まってからまだほんの数時間の話だが、わりともうそんな風に思っている自分がいた。

それに…。

ちらりとナマエを見れば、目が合った。
するとナマエは笑顔のままで軽く首を傾げた。





「うん?」

「いや…」





俺はなんでもないと首を横に振った。

昨日ぶつかった時は、まさかこんな風に関わりを持つことになるなんて…想像もしなかった。
一緒に財布を探して、猫を追い駆けて、財布をナマエに渡して…。

ただ、その時もなんとなく、気になる女だな…とは思った。

何が気になったのか…。
それを聞かれても、自分自身でもよくわからない。

…ただ本当に、なんとなく。

出会い頭に「マイヒーロー」だなんだと叫ばれたからだろうか。
正直あの時はぎょっとして、変な奴とぶつかったな…なんて思ったっけな。

…マイヒーロー。

なんでも、俺はナマエの初恋の相手に顔がよく似ているらしい。





「…なあ」

「ん?」

「あんた、前に神羅兵に財布を拾って貰って、そいつの顔が俺に似てるって言ってたよな?」

「あ、うん!そうそう!そっくり!」

「そっくりって…何年も前の話なんだろ?しかも一度きり。覚えてるものか?そんなの」





ふと浮かんだから、少し聞いてみた。

昔、もう少し幼かった頃のナマエは街で財布を落とした。
その時、一緒に探すのを手伝ってくれた神羅兵がいた。

たった一度きり。しかもせいぜい数十分の話だろう。

それなのに、顔なんて覚えているものだろうかと。

そう尋ねればナマエは「あー…」と言って記憶を辿る様に話してくれた。





「んー、わりと覚えてるかなあ…。特徴とか。そう言われると自分でも不思議だけど。まあ何年も前のことだから多少は薄れてる部分もあるんだろうけどね。でも、クラウドの顔見たときに思ったんだよね。物凄いピンと来たっていうか、ハマったっていうか、コレだー!!!!みたいな?」

「コレ…って」

「いやあ、なんか凄く記憶と合致してさー。あれは感動ものだったよ、うん」

「別人だったけどな」

「あー、あははは…いやまあ、そうなんだけどねー…」





ナマエはそう言って苦笑しながらフルーツの盛り合わせにフォークを刺し、ひとつ取ってもぐもぐと口に入れた。
もうわかってるってばー、なんて言いながら。

まあ、そんなにそっくりだなんだと言われると…こっちとしても気になってはくるが。

チラリと見ればフォークを咥えたまま少ししゅんとしているナマエ。

…気になる、か…。





「クラウド?」

「え、」





その時、ナマエに名前を呼ばれてハッとした。

え…。

何だか今、ぼんやりしていた?
一瞬記憶が飛んだような。





「大丈夫?」

「ああ…悪い、少しぼーっとしてた」

「そ?」





気にするなと首を振る。
そう…多分、本当にぼーっとしていただけ。

ナマエも頷いた。

なんだろう。
何か、引っかかっているような…。

それが何故なのかは、やっぱりよくわからない。





「あ!ね、クラウド!今度手合わせとかしてくれないかな?」

「手合わせ?」

「うん!強い人との手合わせ、純粋に楽しそうだし為になりそう。見てもらいたい動きとかもあるし、どうかな?」

「まあ…別に構わないが」

「やった!じゃ、約束ね!」





ハッと思い立ったように、手合わせをしたいと頼んできたナマエ。
さっきはしゅんとしていたのに、今度は途端に笑顔。

本当、くるくると表情が変わる。

そんな顔を見ていると、やはり俺も顔がほころぶ。

そう言えばさっき、アイテム屋にティファとナマエを連れて歩くなんて背後に気をつけろと軽い敵意を向けられた。

ナマエはティファをこのスラムのアイドルのようなものだと言った。
ニブルへイムにいたときもティファの立ち位置はそんなものだったから、その想像は容易につく気がする。

だが、おそらくアイテム屋の言葉通り、ナマエの方も周りから好かれているのだろう。

例えば、アバランチの連中の様子ひとつとっても可愛がられているのわかるし、きっと他にもナマエを気に入っている奴はいるのだろう。

…無駄に元気で、やたらと飛び込んでいきがちで、だから心配もされているが…。

でも、だからこそだろうか。
なんてことないような事で喜んで、楽しんで。

まあ確かに、そういう姿は、可愛らしい…とは、思う…。





「剣、いつから触ってるんだ?」

「ん?結構小さい時からだよ。うーん、物心ついた時には、触ってたかな?」

「そんなに前なのか?」

「習わせてもらってたんだよね。最初は護身の意味が大きかったのかな。でも今の時代、女の子も守られてばかりじゃ駄目だってね!あははっ!親もそんなこと思ってたみたいでさ。で、今に至る〜みたいな」





無邪気なものだから、最初はナマエと戦闘なんて結びつきもしなかった。
けど今ではすっかり覆って、七番街スラムで一番かもしれないなんていう話も頷ける。

もともとセンスはあったのだろう。
それを習うという形でどんどん伸ばしていったと。

頼りにされる、任される、周りからそう言われる理由もわかる。

けど、わりと無茶をするな…と思う事もあった。

ひとりで無理そうだと思ったら無茶はしないと、ナマエはそう言っていた。

確かに、ひとりでいる時は自分に出来る範囲だけを考えて動くのだろう。
無理だと思ったら退く。その判断は出来る。

勿論それは誰かと戦っている時も同じだ。
けど、誰かと戦う場合は相手の利も考えつつ動いてくれるから。

肉を切らせて骨を絶つ、なんて言葉もある。
自分が囮になって味方に仕留めさせるというのも状況の判断に置いては必要な事だ。

ナマエは隙を作ってくれるのが上手い。
味方が動く上で邪魔な位置にいる敵を片付けてくれたり、引きつけてチャンスを作ってくれたり。

戦闘能力が高く判断が出来るからこそなのだろうが、今日見ていた限りでも自分が軽傷を負いつつ、という場面もたびたび見受けられた。
掠める程度の傷ではあったから、確かに無茶はしていないのだろうが…。

だけど、だから俺はあえて言った。
無茶はしなくていい、と。

あのゴロツキ達を前に「400!」なんて言いながら飛び出したのもそうだ。
まあ、あれは俺が火種を作ったから…巻き込んだ俺に非があるんだが。

本当、急に飛び出てきて…ビッグスが頭を抱える理由も少しわかるかもな。

ああ、うん…。
頼りにはなるが、傷つく姿は見たくないな…と、そう思う。

だからかな。
なんとなく、今日一日…目で追っていたような気がする。





「あたし自身、稽古は楽しかったしね。わりと夢中になってやってたよ」

「そうか。まあ、あれだけ動ければ…そうなるかもな」

「えへへ〜、やった!元ソルジャーさんに褒められた!」





まあ、そういう…身を預けるような戦い方をしてくれるのは、嬉しく思う部分もあって。
まだ出会って間もないが、信用してくれているかのような…。

それに、クラウド、って笑って駆け寄ってくる。
それも…悪い気はしないというか。





「ねえ、クラウド、このあとはどうする?帰る?」

「そうだな…。そろそろ、アパートに戻るか」

「今日はホント色々やったもんね。流石に疲れたよね〜」





そう言って椅子に座ったまま、うーんと体を伸ばすナマエ。
伸ばしてふっと腕を下ろすと「はあ…」と息を吐いた。

些細な仕草。
その顔を見ていて、思う事。

まあ…一緒にいて飽きないというか。

…いや。





「…ナマエは?まだ何かあるなら、付き合うぞ?」

「えっ、本当?そうだなー、んー、でも大丈夫かな。うん、あたしも帰るよ」

「そうか?」





まだ何かあるか、あるなら付き合う…。
何でそんなことを聞いて、言ったのだろう。

なんとなく…胸の奥に、穏やかな波を感じる。
それはあたたかで、心地よくて…。

…もっと。

もっと、それを感じていたいと…そんな風に思ったんだ。





「じゃ、帰ろっか!すいませーん、お勘定お願いしまーす」





平らげられた、ふたり分の皿。
ナマエは手を上げて勘定を頼む。

肘をついて手を頬に当て、じっと眺めたナマエの顔。

一瞬一瞬、はしゃいで笑って。
落ち込んだと思ったら、また笑って。

…思わず釣られて、自分もほころぶ。

…楽しい…。

一瞬浮かんだそんな言葉。

そう…なのだろうか。
その時間を俺は、楽しい…と、思っているのか…。





「行こ、クラウド」





立ち上がって、俺にそう笑うナマエ。

見上げて、それを見て、思うこと。

まあ…そう、だな。
こんな風にくるくると変わる表情を見ているのは、悪くない…と思う。



To be continued


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